開湯1300年と伝えられる新潟県栃尾又温泉はラジウム含有量が豊富な温泉が湧いています。自然界の微量なラジウムは体を整える効果があるとされ、江戸時代から湯治場として栄えてきました。今も都会から湯治にやってくるお客さんがたくさんいます。なんと栃尾又温泉で湯治をしているのは人間だけではありません。
きっかけは納豆を製造している大力納豆の社長が栃尾又に湯治に来たことでした。帰りに宿の主がお土産に温泉の湯を持たせてくれ、これを納豆に使えないかと試行錯誤して出来上がったのが「ラジウム納豆」。いまも温泉の湯を工場へ運び、春なら18時間、冬なら20時間もの間、大豆を温泉に漬けてやわらかくし、発酵させて納豆に。つまり新潟県産の大豆が栃尾又の湯に湯治しているわけです。
ラジウム納豆のパッケージは小ぶりで、旅館の朝ごはんに出すのにちょうどよいサイズ。パッケージを開けると匂いは強くない。大粒だから、まるで大豆を食べているようです。混ぜるとねばねばが強いけれど、味はまろやか。水ではなく栃尾又温泉に浸した効果てきめんですね。
さて、こちらも江戸時代から湯治場として栄え、今も長期滞在ができる湯治宿が残る大分県鉄輪温泉。道路の端の溝からは湯けむりが漂い、街全体が温泉で温められています。細い路地を入ると、蒸気の音がする噴出孔の上に櫓が組んであり、真ん中にはゴザがかけられてありました。ゴザの下には釜があり、「100度近い高温の温泉の蒸気を使って調理するんだよ。この上に鍋を置いておけばなんでも作れる。牛筋を煮込んだわ~」と、おばあちゃんが「地獄釜」の説明してくれました。牛筋肉と卵とジャガイモが入っていて、素材の色づきを見ると相当煮込んだ様子。口に入れたら、牛筋がとろっとろで、こんなにやわらかくなるのかという驚きと、素材に味が染みこんだ旨さに地獄釜の力を感じいったのです。
ニュージーランドの温泉町ロトルアでも先住民であるマオリ族が温泉で暖をとり生活をしてきました。町を訪ねると、鶏を丸々一羽地熱で蒸したというご馳走を出してくれました。骨からの身離れがよく、ほろほろに肉がほどけます。天然ミネラルの不思議な風味が隠し味となって、ソースなど添えずとも旨かった。
温泉でつくられた食は、温泉で炊くお米や温泉でいれたコーヒーやお茶、温泉湯豆腐、炭酸せんべいと、次々と美味しいものが思い浮かびます。
温泉を食すことは、温泉好きにはたまりません。
(温泉エッセイスト)