【新春旅館経営者座談会】湯守ホテル大観 × 旅館たにがわ × あらや滔々庵 × 北門屋敷


コロナ後に向けた旅館経営

 変容する宿泊客のニーズに対応しながら、個性を打ち出し、新規顧客獲得とサービス向上を図る旅館・ホテルがある。各館の課題にコロナ禍が重なり、どのような経営の未来図を描くのか。特色ある経営スタイルの旅館・ホテル経営者5氏にお集まりいただき、語ってもらった。(東京の観光経済新聞社で)

【出席者(順不同)】

佐藤 康氏(岩手県・つなぎ温泉 湯守ホテル大観 社長)

久保英浩氏(群馬県・谷川温泉 旅館たにがわ 社長)

永井隆幸氏(石川県・山代温泉 あらや滔々庵 社長)

宮川和也氏(山口県・湯田温泉 西の雅常盤 社長)

吉村龍一朗氏(山口県・はぎ温泉 北門屋敷 社長)

司会=本社編集長 森田 淳

 

 

 ――(司会)まず、自己紹介を兼ねてそれぞれの宿の特徴、経営の状況を伺いたい。

 

佐藤氏

 佐藤 岩手県盛岡市の郊外に位置し、高額な別邸もあるが、湯守ホテル大観本体は建て増しを経た施設で、個人、団体偏りなく集客している。客室は、湯守ホテル大観が120室、別邸うららが9室。コロナ禍で4月から6月までは休館し、再開後は3密回避、ソーシャルディスタンスの確保、入浴時などの人数制限に注力し、対策マニュアルを独自に作成し運用している。一時稼働が弱体化したが、7月からGo Toキャンペーン(以下、Go To)が始まり、岩手県内、盛岡市内の地域割と併用も可能で、コロナ禍以前の状態に戻りつつある。地元は、地域割の延長を決め、Go Toと併用する形で今後も観光、その他に協力するという態勢になっている。コロナ禍で大きな岐路に立たされ従前の経営からかじ取りを変える必要がある。

 

久保氏

 

 久保 群馬県水上温泉の北、谷川連峰の麓の谷川温泉に二つの旅館を経営している。旅館たにがわは現在全28室で、祖父母が昭和38年に開業した。家族連れのお客さまが多く、バリアフリーを促進している。別邸仙寿庵は全18室。自然の中でゆっくりとお客さまにくつろいでもらうため、全室に露天風呂を設け、平成9年に開業した。国内のお客さまが主体で、2011年にルレ・エ・シャトーに加盟したのを機にインバウンド需要も伸びた。県からの休業要請があり、旅館たにがわは4月14日から6月5日まで、別邸仙寿庵は4月29日から5月6日まで休業した。群馬県の地域割、群馬愛郷キャンペーンが6月初めに発表され、6月の早期から予約が入り、7月からGo Toへ、という道筋を県が作ってくれた。

 

永井氏

 

 永井 福井県との県境に位置する石川県加賀市の山代温泉にある温泉旅館で、客室数は17室。1300年の歴史がある山代温泉の中で最も古い旅館で、江戸時代に加賀藩前田家の三代目前田利常公のときに山代温泉の湯番頭を仰せつかり、私で18代目となった。山代温泉の中心には北陸特有の古総湯があり、それを囲むように温泉旅館が並ぶ。26歳で現職に就いた当初と比べ、山代温泉の旅館数、入湯客数も減少したが、2000年から改装に着手し、おかげさまで好評を頂いている。今年は4月半ばから6月まで休業したが、石川県もGo Toに先駆け観光支援を打ち出してくれたので、7月の再開直後からコロナ対策で稼働を少し抑えながらも予約を多く頂戴し、忙しい状況へと好転した。

 

宮川氏

 

 宮川 山口県湯田温泉にある温泉旅館で、創業84年。私で4代目になる。客室数は90室で、450人収容。現在は、入館時の検温やアクリル板の設置、宿泊客が食事時の間隔確保や空気清浄機による換気など、コロナ対策を徹底し、ガイドラインに沿って営業している。名物の女将劇場も入場制限を設け、密を避けて実施している。当館もコロナ禍で苦しみ、4月から6月は売り上げが前年同月比1割を切るまで落ち込んだ。雇用調整助成金、銀行からの貸し付けを活用し、3月から6月分の損失を可能な限り補填(ほてん)した。7月のGo To開始後は一転、山口県内の宿泊割引キャンペーンも相まって、売り上げが前年同月超えの状況が続く。全旅連全国大会の前夜祭を万全のコロナ対策のもと当館で開催し、感染者を出さず成功裏に終わった。コロナウイルス感染に注意を払い、Go Toの延長を関係各位とともに要望し、一方でしっかりと自立して経営できるよう新たな方向性を模索したい。

 

吉村氏

 

 吉村 山口県の萩市で萩城三の丸北門屋敷、そして姉妹店舗の萩八景雁嶋別荘を経営している。北門屋敷は全43室。世界遺産の一部を構成する萩城下町の旧上級武家地の中心、かつては毛利一門の屋敷が建っていた場所に位置する。商業活動などに関する厳しい規制を順守しながら経営している。雁嶋別荘は全16室。川辺に立地し、夕日に染まる萩の町並みを見ながらゆったりと過ごせる。萩はもともと温泉地ではなく観光地で、個人客が多い。コロナ禍で、4月から6月にかけて休館した。宮川社長のお話にもあったように、7月から山口県内の宿泊割引キャンペーンが始まり、県内では即完売状態だった。Go Toもあり夏場の稼働は好調だった。ここ数年、萩市は近隣の長門市や下関市に注目を奪われがちだ。萩市のブランド力強化を図りながらも、山口県内で魅力ある観光コースを造成できるよう、近隣地域と協力して県全体で取り組みたい。

 

 ――自館で特に力を入れている取り組みと、その成果について伺いたい。

 佐藤 コロナ禍の状況もあり、現在はガイドラインに沿った安心、安全な営業に注力している。岩手県は感染者ゼロがしばらく続き、それを元来堅実な岩手県人気質で維持しようと自粛し、飲み屋から灯りが消え、宿泊業も休業を余儀なくされた。再開後の現在も、ほとんどの施設でアクリル板の衝立で四方を囲むような厳格な感染防止体制を敷いている。その結果として低下した稼働を今後どのように回復していくかを考えている。

 Go Toにより岩手県内も比較的高額な宿泊施設が好調だと思われる。当社も別邸は多くの予約を頂いた。岩手県からの依頼もあり、地元の農業や漁業従事者を支援すべく、マツタケをはじめ地元産の高級食材を料理に積極的に取り入れ、Go Toにぶつけている。宿泊業が地元経済に与える影響の大きさは周知のことと思うが、地元の文化や食文化を多くの人に普及していけるようにGo Toを活用したいと考えている。コロナ禍が始まり休業補償が出て、いったん休館していたが、再開後のことを想定して退職者の補充をしなかった。再開後7、8月は十分回ったが、Go Toが本格化して以降、既存の社員だけでは運営が厳しくなり、現在は一部業務を派遣社員に頼っている。伝手を頼って外国人の方も雇い入れた。21年の新卒採用は確保したので、それまでは何とか乗り切りたい。

 

 久保 旅館たにがわは約1万6千円から3万円、別邸仙寿庵は約4万1千円から7万円という宿泊価格帯も含め、施設の特色としては両極端。谷川岳に魅せられて開業した経緯もあり、地元の自然を守ることが旅館を継続する一つの要素と考え、利益を自然に還元し、自然を生かして利益を得ていく循環型の旅館経営が大切だと考える。それに加え、地域との連携も重要だ。自然を守るためにも人手が必要で、1回手伝っただけだと継続せず、そこでどのように商売をしていくかの仕組み作りが求められる。そのために旅館に何ができるのかを考え、まず地元を好きになることが重要だと思い、スタッフが地域ガイドとなってお客さまに自然を案内したり、周辺に植生する草花ツアーを実施したりと、地域を好きになってもらうための試みに力を入れた。私の中で、小学生にいろいろな温泉地を回ってほしいという夢があり、縁あって先月、小学生の修学旅行を受けた。みなかみ町には本物の自然が存在し、アウトドアも盛んで、温泉も18エリアあり、みなかみの良さを感じ、また帰ってきてほしいという思いを込めて対応した。泊まって時間を経る中で、小学生たちが大人に見えるぐらいにしっかり成長していく姿にわれわれスタッフは感動した。あいさつ、入浴や食事のマナーなど、本物を体験してもらうというのが今後も重要だと感じた。

 私はもともとサウナが苦手だったが、知人から「サウナは体を整えてくれるものだ」と聞き、要は旅館と同じだと気づいた。旅館は非日常に身を置いて明日への活力を生み出す場だと思っていて、サウナは体を整えるもの、この二つが合わさればより素晴らしいと考えた。このサウナはこの施設にしかない、といったものを作りたく、壁面を墨で塗り、備長炭による遠赤外線効果を生み出すサウナを設けた。人材の確保、また確保した人材の通常業務への定着も大きな課題だ。定着して長く働いてもらうための試みとして、脳科学、心理学の専門家に来てもらい、マニュアルビデオを作成した。新入社員にビデオを見て、ルレ・エ・シャトーの世界を感じ、理解してもらうよう努めている。

 

 永井 少し前の話になるが、働き方改革の一環として、平成26年から年間約50日の休館日を設けている。6月末~7月頭の閑散期には、10日から2週間ほどの長期休暇を従業員に設定し、その期間に館内のメンテナンスや設備投資を行っている。毎年館内は定期的に整備され、従業員はリフレッシュして通常業務に戻れる。北陸新幹線が平成27年に開業して以降、稼働率と売り上げが上昇する中で、当館も人手不足に悩まされ始めた。一般的に旅館は売り上げ確保のために人件費の積み上げが必須だが、売り上げは上がるのに雇用ができないという問題に直面した。その中で、生産性向上に取り組んだ。IT機器の導入や勤務体系の見直し、職場環境の改善などを実施したが、どうしても限界に達してしまう。

 現状のスタッフで生産性を向上するために、宿泊単価、消費単価の増加に注力している。具体的には、当館の売りで、秋から来春にかけて旬を迎えるかにが大きな集客を果たす時期には、かにを前面に出した高価格帯のプランから先行販売し、そこから客室を埋めることで宿全体の売り上げ単価も上がる。当温泉地でも20年7月から9月の数字を見ると、宿泊人数ベースでは前年同時期比6割強くらいだが、宿泊単価、消費単価ともに数千円単位高い数字が出た。損益分岐点を超える売り上げの確保を前提として、いかに単価を上げて利益を確保するかが、コロナ禍をきっかけに業界全体としてもより重要な要素になっていくはずである。スタッフの充実も利益確保には必須で、一つの業務を複数のスタッフでシェアできる環境を整えていきたい。コロナで休館中も雇用は維持し、行政の手厚い移住支援サポートもあり、再開後も新規求人に多数応募を頂いている。

 

 宮川 2年前に設備投資を行い、露天風呂付きの部屋5室と食事会場を新設し、電気設備を全て更新した。旧館の排水管の工事、じゅうたんや洗面器具の交換も行った。20年は宿泊人員が減っても宿泊単価が上がり、売り上げが前年比を超えている状況が続き、10、11月も客室稼働率100%に近い状態となっている。従来は団体客が中心だが、個人客の割合が一気に増えたことで、オペレーションが非常に厳しくなった。朝食はバイキング形式だったが、密を回避するため和定食に変更した。結果として、朝、夜ともに懐石定食の形式になったため、通常以上の人手が必要になった。閑散から繁忙へと状況が大きく一変し、ベテランの従業員が辞めてしまうこともあった。フロント業務も、チェックイン、アウトに関する作業、予約の受け付け、地域共通クーポンの発行、そこに山口県プレミアムクーポンの発行などが複雑に入り交じり業務量がフロント人員のキャパシティを超えてしまう。近隣の大学からアルバイトを募ったり、派遣社員を起用するなどしてしのいでいる。若女将が現場の作業や経営の実務に至るまで忙殺され、勤務が深夜に至ることもある。

 状況を改善すべく、外国人の特定技能人材を手配している。春には技能実習の方を3、4人起用しようと考えている。日本人の方にも求人の声を掛けるが、なかなか応募してもらえない。Go Toの恩恵を享受しながら、生じる利益を逃さずしっかり確保できるよう何とかやりくりしていきたい。

 女将劇場がテレビなどで取り上げてもらえるが、女将に頼り過ぎないよう、私自身も何かエンターテイメントを提供できるよう模索している(笑い)。Go To自体は大きな効果があったが、宴会需要の戻りの鈍さと、出張などのビジネス需要の消失を懸念している。コロナウイルスに関する先行きが見えず、不確定要素ばかりだが、目の前のお客さまに対するサービスは絶対に抜かりなく行いたい。IT分野での館内改革として、伝票などを含むペーパーレス化が今後の大きなテーマだ。

 

 吉村 当館もIT化と人手の問題が大きい。ベテラン社員と一般社員に二極化し、アナログな業務が中心だった。Go Toが始まり、OTAからの予約が増え、紙台帳への記載が間に合わなくなり、電子台帳への完全移行も検討段階に入った。当面は、紙台帳と電子台帳を併用する予定だ。予約や会計管理などで電子システムは導入済みだが、現状では全て機能を使い切れていないので、システムを使いこなす必要がある。より良いシステムが他にあるのか検討する必要もある。現状、データとして紙台帳に記載したものをいったん電子システムに入力し、エクセル出力してプリントアウトし、紙で配布する方式を取っている。各作業のハードルが下がり、一般社員でも対応が可能になったので、電子化は引き続き推し進めたい。電子台帳を社員全員がいつでも見て、情報共有できるようにするのが理想だ。もともと従業員がさほど多くなく、ある社員は地域共通クーポンの発券処理に追われ、別の社員は山口のプレミアム宿泊券の精算処理に追われと、通常業務以外の作業に多くの時間を費やした。当館で経営している土産物店で使用していただく共通クーポンの枚数も非常に多く、若女将はその処理に追われた。ただ、クーポン券を館内で消費して下さるお客さまが比較的多いのはありがたい。電子クーポンの使い方が分からない高齢のお客さまにも、使い方を丁寧に教えて、ぜひ館内でたくさん使ってもらおうと(一同笑い)。当館は物販部門が比較的大きいので、売店で消費してもらえるという想定で動けるのが強み。売店に利益率の高い商品を置いて消費を誘導するのも一つの重要な戦略だ。売店売り上げが伸びてうれしい半面、クーポンの処理にスタッフが多くの時間を割かれ事務がうまく回らないなど、旅館の本来業務に支障が出てしまうのが悩みだ。

 人手不足に関しては、弊社の施設が日本海側の比較的人が少ないエリアにあることもあり、人材確保が難しい。全従業員は、一般の現場スタッフか、家族かに大きく分かれ、その中間的なスタッフがいない状況が続く。施設が2軒あるのに電子システムを理解、把握しているスタッフが私以外におらず、ネット関係の業務も私がほとんどを担当している。当該業務の担当者が欠けた際のリスクヘッジができる組織になるよう改革したい。そのために、業務をサポートしてくれる優秀な人材を何とか確保したい。

 

 ――新しい時代に目指す旅館像について、宿の将来ビジョンなどに触れながらお話しいただきたい。

 

 佐藤 建て増しを経て旅館経営を行い、多様性というか、団体旅行や教育旅行、個人客と、さまざまなお客さまに幅広く対応しながらも、焦点が定まらないという側面もあった。今回のコロナ禍では、別邸うららの稼働が非常に高くなっており、源泉掛け流しが好評を頂戴している点を踏まえると、何か一つに特化する方が強みになると考え、金融機関とも相談している。具体的には、建物を縮小する減築を金融機関に相談したところ、減築にも費用が発生するので、思い切って首都圏の企業のコールセンターを誘致して、一定期間館を貸したらどうかと言われた。その場合には、貸し出し終了後、将来的にはもとの旅館の形式に戻す形で、と考えている。盛岡市は、秋田市、青森市、八戸市、仙台市へ行くのに車で2時間ぐらいのところに位置するため、以前から北東北の営業本部を盛岡市内に置く企業は多く、経費節約を検討していると聞くので、巷間で盛んに話題に挙がるワーケーション需要も取り込みたいと考えている。

 古い建物が多く、修繕費がかなり大きな額になる。耐震工事も実施予定だったが、コロナ禍で自治体も補助金がなくなり、2年先まで待ってほしいとお願いされた。それまで当館の建物は十分安全であるという証明を国とともに出すということで、自治体からの提案を承諾した。現在の形態での旅館経営は荷が重くなってくるため、採算の取れない部門をカットするなど、積極的に動きたい。慶長8年の開業からずっと守ってきた宿屋としてののれんを今後も守り続けるため、今までとは違った着想でできる限りの施策を積極的に行っていきたい。

 

 久保 ここだからできる体験、ここだから触れられる歴史や文化の価値を大切にしていきたい。別邸仙寿庵の広大な敷地の中には手つかずの自然が残っているので、お客さまには自然に触れてリラックスしてもらおうと努めている。海外からのお客さまの中には、より高品質なラグジュアリー空間を求める方も多く、国内外含めて高級価格帯宿泊者もさらに細分化されている傾向が見られるため、↙各需要にもれなく対応できる体制を構築したい。さらに、自然を堪能できるような独自のアクティビティを提供したい。旅館たにがわに関しては、みなかみ町が売りにしているラフティングやサイクリングなどのアウトドアアクティビティに対応できる施設へのリニューアルを検討している。バリアフリー補助金などで館内をリニューアルする中、知り合いの姪っ子が館内の古いタイプの部屋に泊まった際に、「こういうのが落ち着くんだよね」と言ったことがあった。昔ながらの和室が姿を消しつつある現代だからこそ、リニューアルではなく現在の和室を清潔に保つことが重要だと感じた。その上で、さまざまな目的に応じられる、地域の一つの拠点、ハブになれる施設を目指したい。

 

 永井 コロナ禍を経て、今後の旅行は従来の宴会型、娯楽型からリトリート型へシフトチェンジしていくと言われるが、リトリート型の過ごし方は以前から温泉地で行われていた。コロナ禍は、温泉旅館の本質、俗に言う「食う、寝る、入る」の各サービスを見つめ直す良い機会になったと捉えている。自分の宿なりの個性や付加価値をいかに磨いていけるかが重要だ。

 それに加え、温泉旅館1軒だけでなく、旅館が位置する温泉地全体の環境整備も欠かせない。魅力的な街並みを整え、心地良い宿を作ることが今まで以上に大切になる。しっかりとしたプランニングのもと、行政と協力しながら進めたい。コロナ禍以前から、お客さまとお話をすると、各温泉地で暮らす人たちの生き生きとした姿が一番の観光資源になっていると感じる。来訪する側の観光客、迎える側の地元住民が融合できるような温泉地を実現したい。

 

 宮川 当館の宿泊定員のボリュームゾーンが3名から2名に変容するなど、宿泊形態は年々変化するが、畳の文化は守りたい。畳タイプのベッドの導入など、畳を主軸に置いた設備投資や改装を検討している。リアルエージェントは依然として、修学旅行、グループ系の団体客などに大きな強みを持ち、コロナ終息後には、団体客の予約に関してリアルエージェントの存在価値が今まで以上に高くなると思う。修学旅行、団体客需要も少しずつ減っていくと思うが、団体系の需要を逃さないような体制を整えたい。

 ワクチンが開発され一般に普及し、コロナウイルス感染がある程度収まったころには、台湾や東南アジアなどコロナ感染者数が少ない地域、国からインバウンドが回復すると思っている。それに伴い、FIT(海外個人旅行)の割合は増加するだろう。和食がユネスコの無形文化遺産となっている。新鮮な食材や腕の良い調理人を確保し、懐石料理の良さをアピールしたい。ここは日本の旅館特有の重要な文化なので、ないがしろにしてはいけない。当館独自の催事、女将劇場はありがたく50周年を迎えたが、今後は密にならない出し物も検討したい。宿泊特化型のビジネスホテルが一時期隆盛を極めたが、コロナ終息後には、旅館の価値が再認識されると信じている。各温泉旅館は、自館の独自性をどうやって打ち出すかを考えるべきだと思う。

 

 吉村 北門屋敷は、祖父や父の持つ独自のセンスに由来する、強い個性を持った宿だ。先代、先々代が築き上げてきた個性をどう継承し、どうより良くしていくかが私の代での最重要課題だ。築き上げてきた個性を維持しながらも、先に述べた効率化を推し進めたい。経営者サイドと現場を結ぶ中間層のスタッフの育成が肝要だ。世界遺産の中に位置する宿として、地元の観光サポートに取り組みたい。現在は、自作した散策マップをお客さまに渡し、宿周辺の町並みや情緒を楽しんでもらっている。萩は癖のある観光地で、一見するとただの石垣だが、説明を聞くと実は歴史的価値が高い石垣なんだ、といったようなところが多い。スマホへの説明動画の配信など、観光客に伝わりにくい武家屋敷の潜在的な魅力を伝えるツールを模索している。

 近い将来では、館の改装が課題だ。補助金を活用し、バリアフリーに完全対応した客室を1室設けたが、非常に使い勝手の良い客室に仕上がった。ベッド需要が高まり、一つのツアーに1室はベッド付きの部屋を入れるなど、支配人が気を利かせている。もともと北門屋敷は個人客が多いので、部屋の規模が小さくなっても使いやすさ重視の改装を検討している。宿泊者の年齢層も高くなりつつあるので、各部屋へのベッドの配置も考えている。一般的に単価が高くなる海外旅行が当面難しくなると、高単価の国内ツアー旅行需要が高まると予想する。「安、近、短」重視から、そこそこ良い値段で近距離への旅行が見直されていると感じる。元来ツアー客が多い観光の街、萩としては、域内の移動の利便性を向上する必要がある。歴史に興味がない人にも興味を持ってもらえるような、分かりやすくて見せやすい観光地を作り上げたい。

 

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