停留所の設定だけではない。
現在の高速バスは「地方から都市への足」として使う地元リピーターに配慮するあまり、バスの外観、内装ともに過剰な装飾は好まれない。
しかし、たまに出張で乗った特急電車が展望席付きの車両だったりすると、それだけでなぜかワクワクして「次は出張ではなく旅行で乗ってみたい」などと感じる。待ちに待った休暇を迎えての旅行で乗車するなら、もっと気分が高まることだろう。
残念ながら、現在の高速バスにそのような車両はほとんど投入されていない。
例えば、ある高速バス路線では、目的地側の自治体が制作した観光案内のDVDを、発車後に車内で放映している。自治体や観光協会が制作した観光マップを配布するただそれだけでも、旅の気分は高まるものである。特段の手間やコストをかけずとも、少なくとも今よりは「旅の気分を演出」することができるのである。
繰り返すが、これらの施策を全便で実行する必要はない。おおむね、大都市側を午前に、地方側を夕方に出発する、観光客の比率が比較的大きい便でのみ実施すればいい。まずは、既に観光客の利用が比較的多い路線で試行的に実施し、好評なら他の路線へ展開するという方法もある。
余談だが、仮に車内で観光案内のDVDを放映しようとした場合、DVD再生装置を搭載すること自体は簡単である。
一方、乗務員が操作する案内装置は、運転席の横のボタン一つで、音声合成による自動案内放送からモニター画面に表示する「次の停留所」表示まで完璧に連動している。
そこに割り込んでDVDを放映しようとすると、回線の切り替えが必要で、運転席でハンドルを握ったままの姿勢では困難な場合もある。現場としてはできれば避けたい、面倒な作業だろう。
そのような課題は認識したうえで、それでもなお、このような細かい施策を一つずつ実現していくことが重要だと考えている。
(高速バスマーケティング研究所代表)