一見するとツーリズム産業と親和性が大きそうな高速バス事業だが、実際には観光客の占める比率は大きくない。高速バスは、国内線航空を約2割上回る年間1億1500万人の利用があるが、そのほとんどは地方在住者の大都市への移動(出張や買い物、一部は通勤)のためのものである。
1980年代にピークを迎えた定期観光バスも、急激にコース数を減らし、東京の「はとバス」や、FITが急増した一部の地域を除くと、ビジネスとして成立している地域は少ない。
これまでツーリズム産業と関係が深かったのは、BtoB事業である貸し切りバスだ。しかし、その貸し切りバスの市場は急速にシュリンクしつつある。
貸し切りバスの事業環境は、まず2000年前後に激変した。
制度面では、同年に道路運送法が改正され、増車や新規参入が原則として自由となった。市場では、バブル崩壊などを経て社員旅行が減少するなど、団体旅行のニーズが激減した。その結果、需給のバランスは変動し、貸し切りバス運賃は大きく下落した。
「事前規制型から事後チェック型へ」。つまり、参入要件を高め行政が業界をコントロールするのではなく、競争を促進しつつも、適切な監査と処分により悪質な事業者は市場から退出させる仕組みを作る、というのが法改正の趣旨であった。
しかし、国における監査体制は十分に増強されたとはいえず、「どうせバレないだろう」という安易な考えで法令違反の運行が日常化しているような事業者も生まれた。貸し切りバス分野の規制緩和には、残念ながら負の側面もあったということだ。
ただ、単に「たたき売り」が進んだだけであれば、単価下落による収益減少は起こっても市場が拡大することはなかったはずだ。現実には00年から13年までの間に、貸し切りバスの輸送人員は約30%増加した。団体旅行の減少など逆風の中での増加であるから、競争が新しいニーズを生んだことを示している。
(高速バスマーケティング研究所代表)