そのような背景にバス特有の働き方の問題が追い打ちをかけている。
まず、バス乗務員の仕事の特性として、1台のバスを動かすのに最低1人の乗務員が必要だ、という点がある。一般的な職場の場合、チーム内に1人欠員が出ても、それが慢性的にならない限りはチーム内の各メンバーが少しずつ負担を背負うことで乗り切ることができる。バス乗務員の場合はそうはいかない。
次に、バス乗務員の労働時間(拘束時間および運行時間)などについて、厳格な規制がある。代表的なものが、「自動車運転者の労働時間等の改善の基準(通称「改善基準告示」)」である。
「1日当たりの拘束時間は原則13時間(例外で16時間)以内」「1日当たりの運転時間は、前後2日の平均で9時間以内」といった基準は、これだけ読むと長く働くように見えるが、7日間や28日間合計での上限時間が決まっているうえ、渋滞などで遅延した場合のことを考慮すると、上限ぎりぎりの運行計画を1人の運転手が対応することはできない。余裕を持った運行計画を立てるか、貸し切りバスの長距離仕業などにおいて計画上の拘束時間、運転時間が上限に近い場合は、あらかじめ交替乗務員を乗務させるしかない。
一般的な企業で、労働基準法違反にあたるような残業が行われているケースは、現実には少なくないだろう。もちろん、違法であって許されることではない。しかし、それが摘発までされるケースはそうそう一般的とは言えないはずだ。
ところが、バス事業の場合、事業の安全性を担保する目的で、定期的に行政(国土交通省)による監査が行われる。そして、監査の中で、「改善基準告示」などに違反していることが判明すると、行政処分の対象になる。
「どうせバレないだろう」という認識は通用しない。(他業種が基準を守っていないということではないとは思うが)バス事業においては、遵法意識を持つのは当然だとして、仮にそれを忘れて事業者の損得だけを考えても、「基準を多少オーバーしても働かせよう」という意識はマイナスにしかならない。
(高速バスマーケティング研究所代表)