バス乗務員を対象とした人事評価制度には、限界や課題が残されている。一つ目は減点主義になりがちな点である。そもそも、バス乗務員に限らず、現業部門の従業員評価では「決められたことを正しく成し遂げること」を求められる業務の性格上、ミスや苦情による減点に評価の比重が大きく置かれがちである。
さらに、接客業では客とのちょっとした行き違いが苦情を生んだり、評価者(「添乗モニター」ら)の主観が反映されたりするなど、客観的な評価が難しい。
それに加えて、許認可事業であり、地域独占的に営業する乗合バス事業の場合、事業者の社風が保守的となりがちで、乗客や沿線住民からの苦情、不満を過度に気にする傾向がある。一方で、鉄道駅員らへの暴力が話題になっているが、バス乗務員に対しても暴言を吐く乗客がいるほか、あえて乗務員の暴言を引き出すような挑発的な態度をとる者もいる。
そのような環境において人事評価が緻密に行われ、それが自らの処遇に直結するとなれば、働く側としては萎縮しがちになることは間違いない。
最近では、バスの事故はもちろん運行経路の間違い(別の系統と勘違いして間違った交差点を曲がってしまった、など)まで社会的に大きなニュースとなることも多く、バス事業者はそのたびに新たな再発防止策を求められる。
結果として、業務マニュアルは継ぎはぎ状態となり、安全確認動作や接客ルールが煩雑となりがちである。また、車内人身事故(車内で立ち客が転倒しけがをした、など)への罰則が厳しくなっており、以前より相当大きな比重で車内への目配りを求められている。そのような中で、ダイヤ遅延まで気にしながら路線バスを運行する業務には相応のストレスがある。
これらの人事評価制度が、過度な減点主義に陥り、現場で働く者を萎縮させるようであれば、乗務員はモチベーションを維持できない。減点と加点のバランスが取れた制度運用を構築するには、各社においてさらに研究が必要だと考えている。
(高速バスマーケティング研究所代表)