【山崎まゆみの「ちょっと よろしいですか」17】令和を迎えて 温泉エッセイスト 山崎まゆみ


 令和を迎えるに当たり、上皇さまと上皇后美智子さまが宿泊された宿の滞在秘話を取材しました。

 ちょうど、時代が平成から令和へと変わる頃、私はこの原稿を書いていて、「『上皇』『上皇后』がもう一度訪ねたい行幸啓の『おもてなし』」というタイトルで、週刊新潮に掲載されました。

 上皇さまと美智子さまは、偉大なる旅人です。47都道府県を2巡され、55もの離島をお訪ねになり、その移動距離は、延べ地球15周分といわれています。

 このたび、南三陸ホテル観洋、穴原温泉吉川屋、宮崎観光ホテル、城山ホテル鹿児島、ホテルヘリテイジの皆さまに取材のご協力をいただきました。

 上皇さまと美智子さまをお迎えするに当たり、まず宿の準備に時間が掛かります。

 1年ほど前に、各都道府県を通じてご宿泊の依頼があるそうです。半年ほど前になると、県職員、警備のために県警、さらに宮内庁職員が入れ代わり立ち代わり、何度も下見に来るそうです。宮内庁の職員は「普段のままで。特別な準備はする必要はありません」と言われるようですが、受け入れる側の気持ちとしてはそうはいきません。

 部屋をリニューアルし、座布団、座椅子、ソファーなどの部屋の備品、そして食器なども新しくします。上皇さまが執務をするためのテーブルと椅子も新調するそうです。これらの備品は、いまは自宅の1室を収納庫にして保管しているという話も出てきました。

 宿泊される部屋の窓に防弾ガラスを入れたという逸話には驚きましたが、それほど警備体制は万全。当日の警備はトータルで500人にもなったと聞きました。

 もちろん、当日、上皇両陛下にお会いする際のスーツや着物を仕立てたというご主人や女将もいました。

 宿の皆さんは、心を尽くして準備をして、緊張しながら当日を迎えます。

 上皇さま、美智子さまは出される食事の食材についてとても興味をもたれ、質問をされるそうです。直接対応する女将は、何を聞かれても答えられるように、必死に勉強するそうです。

 これらのエピソードを知り、改めて思うこと。

 自然災害に見舞われたときには避難所を兼ねることもあり、土地に根差し、地域の住民の暮らしと共にあるのが宿です。

 単に部屋を貸し出すだけでなく、寝食を提供する宿だからこそ、宿泊した人の素顔が表れやすくなり、またいつ何時も、もてなす心を忘れないのが宿です。

 だからこそ、上皇さま、美智子さまと宿の主や女将との間に交流が生まれます。宿側が心を込めてもてなす気持ちに、応えて下さる上皇と美智子さまのお姿がありました。

 さまざまな旅館・ホテルの方から話を聞かせていただきましたが、唯一、心残りがあります。取材期間が短かったこともあり、上皇さま、美智子さまが温泉に入られたという逸話を見いだすことができませんでした。もし、そんな話がありましたらお知らせください。(温泉エッセイスト)

 
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