【寄稿】業界に課題山積 渡辺清一朗


 九州出身の私にとっては、待ちに待った暖かな季節到来である。国内旅行はやや足踏み状態が続いてはいるものの、訪日旅行者の延べ宿泊数は年間7千万人泊を超え、その消費額は4兆円に迫る。

 旅行消費の総額も順調に伸びており、25兆円を超えるまでになった。単純比較はできないが、パチンコ産業の総売り上げを超えたことは喜ばしい。しかしながら、観光業界を取り巻く状況は予断を許さないことが山積している。中でも次の三つは気になってならない。

始まったばかりの耐震問題

 耐震改修促進法に定められた5千平方メートルを超える建物についての診断結果は昨年後半から順次公表されている。今後は診断結果に基づき、国の補助や金融機関からの融資を活用しながら設計・施工へと進めていく必要がある。

 しかし、診断結果があまりに低水準で膨大な改修費用が発生することが判明したり、経営状態により資金調達が困難を来したりして、設計・施工に移ることのできない事業者がかなりあることも事実だ。

 それから、国や地方公共団体の補助についても補強費用の総額に対して応分に補助されるもので、必ずしも満額が補助されるのではないということに注意する必要がある。このことには意外と気づいていない経営者が多いので要注意だ。

 また、緊急輸送道路沿道構築物の耐震診断・設計・施工についても今のままの放置状態がいつまでも続くとは思えないので、対象建物保有者は正確な情報をつかんでおかなければならない。

釈然としない民泊問題

 法律の適用へ向けた議論の場は地方へと移った。違法なものは国が発表する件数の倍以上あり、都市部の民泊の90%以上は違法というデータもある。

 私の住む東京都豊島区でも古い事務所ビルを賃借し、無許可で改装、民泊を行っている者たちがいる。鍵は不動産管理会社が違法なことを承知で違法民泊経営者に高額で渡しているという。このようなケースのほとんどは大家が高齢などの理由で現地に赴くこともなく、管理会社任せで違法民泊の実態を知る由もない。

 事故が起こった時の責任の所在などを考えるとぞっとする。金を生みそうなところに集まる悪い奴らを一掃することなどできない。まして事件も起きていないのに警察が動くことはない。由々しき事態が深く確実に進行している。

残業100時間をはじめとした労働問題

 経団連と連合が歴史的な基本合意をしたのだから、間違いなくこの方向で進んでいく。残念ながら中小零細企業にとっては死活問題となりかねない。

 罰則などの適用はまだ先、などと高をくくっていてはいけない。就業規則や退職金規定など企業経営上必須なものが未整備、あるいは相当期間更新されていない中小零細企業は意外と多い。

 放置されたままだったり、是正勧告に真面目に取り組まなかったりして、経営者が書類送検されそうになった事例もある。心ある経営者は税理士や弁護士の仕事の範囲ではないので、信頼できる社労士に相談し法律にのっとった労働環境を整備しなければならない。

オッともう一つ、外部環境も気になる

 北部九州や関西、新潟などで金融再編がまたもや具体的に動き出した。株価が安定しているうちにと、強者が弱者を飲み込む形での経営統合が活発化することは世の定めか。取引先の都合などお構いなしに事は進んでゆくだろう。

 「なんちゃって円滑化法」状態も長くは続くまい。取引金融機関の経営状態を把握しておくことも経営者の責務。長年滞った感のある業界の活性化が進む良い機会となることを願う。

(EHS研究所代表 渡辺清一朗)

 
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