パンデミックを巻き起こしている今回のウイルスが変化し長期的に存続する可能性や別のウイルスが生じる脅威はこれまでなかった強烈な恐怖心を萌芽(ほうが)させ、その恐怖心は局地的なものではなく全世界規模で人々の心に刻まれたはずであり、今後の宿泊施設に求められる役割や機能に関しても大きな影響を与える可能性があります。
以下、弊社が実施した宿泊施設の役割や機能に関する調査結果をご紹介します(全国男女200名に対するインターネットアンケート調査、2020年3月弊社実施)。
仮の想定で、新型コロナウイルス感染症患者を救護目的で一棟を貸し切り提供した場合、今後同施設の利用をちゅうちょする顧客がどれほど想定されるか調査しました。その結果、ちゅうちょすると回答した人の割合は43%でした。
次いで、同じく罹患(りかん)者を受け入れた後に除菌消毒を徹底して実施した場合を見てみます。全館適切に除菌消毒を行った場合、利用をちゅうちょする人の割合は25.5%と先の調査結果に比べて減少するという結果でした。さらに全館除菌消毒を徹底し、かつその詳細な手順を公表し、丁寧に説明する場合についても調べてみました。利用をちゅうちょする人の割合は合計で20.5%と、さらに減少するという結果でした。
今回の調査結果で注目したい点は、罹患者を受け入れた場合に、その後全館除菌消毒を徹底し、かつその詳細な手順を公表し、丁寧に説明する場合において、逆に「やや使いたい」あるいは「今後使いたい」と同施設を支持しようとする顧客層が現れるという点です。
(1)罹患者を受け入れ、その後に「消毒除菌を徹底している場合(詳細情報は非開示)」であれば、同施設を「やや使いたい」あるいは「今後使いたい」と支持を表明する顧客層が24%という結果でした。ただし上記のとおり25.5%の顧客層は利用をちゅうちょすると回答しており、差し引きで約1.5%の市場を失っています。
(2)「積極的に受け入れ、その後全館除菌消毒を徹底し、かつ除菌消毒の作業内容を分かりやすく伝えている場合」では同施設を「やや使いたい」および「今後使いたい」と支持を表明する顧客層が40%という結果でした。普通に考えれば、顧客は宿泊施設の選択に当たってあえて危険を冒す必要がないはずです。それにも関わらずなぜ40%(ちゅうちょする顧客層を考慮しますとネットで40%―20.5%=19.5%)という支持層が生じるのでしょう。その根底には今回のパンデミックによる恐怖心から生じた宿泊施設に求められる新たな役割として宿泊施設にラストリゾート(リゾートは行楽地ではなく「頼る・手段」で「最後の砦(とりで)」という意味)としての機能が期待されていることを反映した結果ではないでしょうか。
今回の調査は、(1)「一時的」に(2)「救護のため」に(3)「1棟貸し切り」―を前提としました。言い換えれば(1)「感染が危惧されるような顧客利用が懸念される場合」には(2)「人道的サービスを徹底」し(3)「他の顧客と接しないよう徹底的に配慮」すること―かつその後の除菌消毒を迅速に実施し作業内容に関する情報提供を開示すると同時に丁寧な説明を行うことで、同様の結果が期待できる可能性があります。
仮に、安全拠点としての社会的インフラ機能を宿泊施設が求められているとすれば、それをどのように日々の運営に取り込むべきなのでしょうか。宿泊施設も企業であることから事業継続が大前提です。つまり、ゴーイングコンサーン(継続企業)として運営上のリスクを低減させるだけではなく、さまざまな突発事象に備え事業を継続していくための備えが欠かせません。継続企業としてリスクへの対策検討はもちろんのこと、その徹底とそのような取り組みがいかに重要なのかを改めて認識するべきであり、同時に宿泊施設に新たに求められる役割や機能をも含めたBCP(ビジネスコンティンジェンシープラン)を策定する必要があるのではないでしょうか。
効率的かつ早急に事業体制を復旧させるためのマニュアル整備や関係するさまざまなスタッフトレーニング、重要な委託会社などとの関係確認手順などを準備し、安全拠点管理のいわば「プロフェッショナル」となります。同時に安全性に関する取り組みを積極的に情報発信することでラストリゾートとしての施設インフラと認知されることが、宿泊施設に新たに求められます。役割や機能を背景にポスト・コロナ新市場原理に働きかけ評価される結果、新たな付加価値につながり事業性を支える支柱となるのかもしれません。
一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS
北村 剛史