【寄稿】「桜を見る会」でホテル批判を繰り返す野党・メディアの愚 旅館経営者 永山久徳

  • 2019年12月14日

永山久徳氏

 「超一流ホテルの宴会に5千円で出席できるのはおかしい」「半額以上の値引きがあったのではないか? もしくは総理事務所が補填したのではないか?」「どちらにしてもスキャンダルだ!」とまだ息巻いてらっしゃる識者が多い。ホテル関係者や大きな宴会の幹事経験者は「まだやってるのか」とあきれ返っている。

 

 安倍総理が「大多数が当該ホテルの宿泊者であるという事情等を踏まえ、ホテル側が設定した金額である」と答えるまでもなく、政治関係だけでなくホテルでこのような金額調整は日常的に行っているのだ。我々にとっての常識を、仕組みが分からない方へ説明するのはとても難しいのだが、出来る限りかみ砕いて解説したい。

 

 例として高級ホテルで1万円の飲み放題パーティープランがあるとしよう。いくらお得意様であろうが上客であろうが、ホテルが率先して500円や1000円ならともかく、半額以下の価格で提供することはあり得ない。人件費や食材、その他経費を考慮するとホテル側の儲けはせいぜい10%~20%、10%値引くだけで赤字になる場合もあるからだ。しかし、5000円でパーティーをすることは不可能ではないし、むしろ頻繁に行われている。

 

 よく行われる交渉は次のようなものだ。(ここでは便宜上、1万円プランの内訳を料理6000円、飲み物2000円、会場費2000円とする)

 

幹事「300人で使いたい」

ホテル「1万円×300人で300万円になります」

 

幹事「予算が全く折り合わない」

ホテル「では会場を半分の広さ(金額)の場所に変更して配置するサービススタッフも半分にします。もちろんサービスは落ちます。宴会場も狭くなりますが、ホテルにクレームは上げないでくださいね」→【会場費】1人あたり2000円から1000円にダウン

 

幹事「まだ足りない」

ホテル「では料理を150人分にしましょう。全員食べる訳では無いので。文句言わないでくださいね。」→【料理】1人あたり6000円から3000円にダウン

 

幹事「まだ足りない」

ホテル「では肉料理や魚料理を減らしてパスタやピラフに差し替えます。もちろん一般には出さない料理コースなのでホテルは責任持てませんよ」→【料理】1人あたり3000円から2000円にダウン

 

ホテル「飲み物は皆さん飲むので300人分いただきます」→【飲み物】1人あたり2000円のまま

 

 これで料理2000円、飲み物2000円、会場費1000円、しめて5000円のオリジナルプランが出来上がる。しかし、この内訳は決して表には出ない。ホテルとしては狭くて料理も満足に出せないので評判を落とす行為であるので、余程の事情のある場合にしかこのようなことはしないし、決済をするのも担当者レベルではなくかなりの上役になるはずだからだ。

 

 他の常連客や一元客に「お前のホテルは5000円でパーティーできるらしいな」とか言われるのがホテルにとっては最も怖い上、他の客にこのような内容のパーティーを提供すれば「あのホテルは料理の質が落ちた。量も全く不満」とSNSで叩かれるのは確実なので、ホテルはよほどの顔見知り以外ではこのような提案はしない。

 

 上記の様な交渉をまとめたものとして、見積書や計算書が存在するものだろうか?高級ホテルならもしかすると作るかもしれない。しかし通常は金額の内訳が記載された社内の手配書が残るのみで、客に対して発行することはほとんどない。そのような見積書が外部に広まると前述のようなホテルの評判が落ちるからだ。求められても「一式150万円」としか書かれていないことが通例だろう。

 

 さらに、万一外部から「あの客を5000円で受け入れたのは本当なのか?」と問い詰められた時のエクスキューズとして「あのパーティーのお客様はほとんどの方が当ホテルにお泊りで、お食事もそれほど召し上がらないと言われたので調整させていただいたのです」という回答も用意しているものだ。

 

 もちろん何度も利用しているホテルなら上記の交渉は省略される。「また5000円で頼む」「前回同様でよろしいですね。わかりました」くらいの電話一本での契約になっても不思議ではない。見積書や計算書などむしろ存在する方が不自然なのだ。(今後見積書が出てきたとしたら逆の意味でものすごいことだ)

 

 結論としてホテルの答えは、誰が聞こうが誰に聞こうが「一般的に5000円でパーティーは有り得ません」となる。調査などしなくても分かりきった答えなのだ。

 

 「5000円ではできない」は、口を滑らせたのではなく公式見解はこれしかない。むしろ「宿泊者がいたから5000円にした」はホテル側の言い訳に過ぎないのだ。「5000円は無理だと白状した」と喜んでいる追及者は社会の建前を知らなさすぎる。

 

 参加者も事情はわかっているはずだ。後援会に出席するなど、外部のパーティー経験の多い参加者なら会費5000円と聞いた時点ですべてを察するはずだ。「5000円なら大した料理は出ないし会場も狭いから食事はどこかで食べ直そう」「乾杯して総理の写真を撮ったら会場を出よう」という程度の期待値になるはずだ。「会費の大部分を活動費として寄付する政治資金パーティーとは違うのだから高級ホテルの料理に期待しているはずだ」と反論する識者もいるが、1万円~2万円の政治資金パーティーと、5000円の後援会パーティーは似たり寄ったりのものだということは後援会なら理解して当然だ。そのような経験の無い一般の方は高級ホテルでパーティーと聞くと「東京!セレブパーティー!ドレス!豪華ディナー!」などと連想するだろうが、このケースではそのような要素は存在しないのだ。

 

 私が今回最も違和感を抱くのは、上記の様なからくりは政治資金パーティーを開いたことのある議員や秘書、大規模パーティーを主催や参加したことのあるマスコミや大企業の担当者なら誰でも知っている程度の事象であるのに、わざとミスリードを誘っているのが明白だからだ。ホテルが正直に答えられないことまで計算してこのような報道に結びつけるのは、宿泊業界をあたかも共犯者かのごとく扱うものであり、宣戦布告とすら思えるものである。

 

 むろん、今回追及している議員やマスコミも同様にホテルをパーティーの場として利用している。金額も似たり寄ったりだ。一方では金額調整(値引きではない)を要求しておいて、返す刀で金額調整を値引き疑惑と称し、ホテルに対して恩を仇で返すような扱いをしたことに対して、業界を代表して今回寄稿をさせていただいた。どの党派の先生であっても要望を伺い、予算に合わせるべく最大限の配慮をしてきたホテルを犯罪者のような扱いを続けるのであれば、今後どこのホテルも政治パーティーを受けることができなくなってしまうだろう。

 

 もうひとつの疑惑としていまだに収束しない領収書問題も、同様にパーティー経験者ならお分かりのはずだ。上記の例「ホテルは結果的に5000円で300人のパーティーを受注した」例をそのまま使って説明する。

 

 上述の通り、見積書など発行することはまずないはずだ。このケースでは双方で総額150万円という事だけが合意できていれば良いからだ。

 

 次にホテルが確認するのは、「150万円をいつ払ってくれるか」ということだ。主催者(後援会)が事前に振り込むというなら請求書を送付する。パーティー後に振り込んでくれる場合も入金期限を書いた請求書を発行する。念のため再度確認するが、恐らくその内容は「5000×300=150万円」というだけのものであり、前述のような経緯で決めた明細など書かれてはいないはず。「ニューオータニは料理2000円でやってくれるってよ」と不利なネタにされるだけだからだ。

 

 問題は今回のように主催者が当日集金、ホテルに当日支払いで取引がその日で終わってしまう場合だ。見積書、計算書はおろか、請求書すら発行しないケースはいくらでもあるからだ。領収書と引き換えに現金を頂けば取引は完結するのだから、「パーティー代一式150万円」と書いた領収書が1枚あれば良いのだ。

 

 しかし今回のように「参加者が直接払うのでホテルの領収書を個別に発行して欲しい」と頼まれることも日常的にあることだ。その場合ホテルは「5000円の領収書を300枚」宴会前に預け、宴会後に150万円を頂くことになる。ここで、税務署経験のある識者が「現金収受と領収書発行にタイムラグがあるのは有り得ない」などと眉をひそめていたが、残念ながらこちらが日本の現実。ホテルのフロントに300人押し寄せられても困るし、ホテルスタッフが入口で集金するのも面倒だから、領収書を先に発行するなどどのホテルでも居酒屋でも日常的に行っている行為だ。

 

 皆さんも同窓会や忘年会で店の領収書を発行された経験のある方は多いだろう。それが違法かどうかはさておきそれが日本の実態なのだから仕方ない。

 

 ちなみに、主催者が領収書を発行しないのは、主催者が領収書を発行するという事は、主催者の経理上にいちいち収入と経費に計上する必要があるからだ。例えば同窓会事務局が毎回「収入5万円、支出5万円」などと経理処理をするのはとても面倒だし、額が増えると会の規模が大きく見えて税務署に睨まれてしまうという事情もあるので、参加者がホテルに直接支払うというのは当たり前のことなのだ。「そんなの税務署の原則と違うので許せない」という議論はこの場ではなく税務署内でご議論いただきたいものだ。

 

 これも追及側に立つ先生方は経験値としてとっくにご存知のはずだ。なので、我々から見ても、見積書が出せないのも領収書がホテル発行なのも何がおかしいのかわからないというのが本音なのだ。

 

 なお、プロから見て今回の件には上記のようなピント外れの追求の他にいくつかの疑問点があることはある。普段政治パーティーや後援会行事で利用している立場なら毎回ホテルから得ているはずの利益供与も無いとは言えない。しかし、追及側がそこを指摘しないということは追及側も自分にブーメランとなることを知っているからだと考えられる。そのことからも、追及側もホテルのパーティーの構造を熟知していると言わざるを得ない。

 

 個人としては「桜を見る会」の追求がどうなろうと興味はないが、ホテルを追及したところで何の成果もない上、追及側にすべてがブーメランとなることはご承知いただきたいものだ。そして、不条理にホテル業界を巻き込むことだけはご勘弁願いたいと強く願う。

 

※本記事は筆者のホテル勤務と経営経験、利用者としてパーティーを数多く主催してきた経験、同業者への取材を基に執筆したものであり、追及先となっているホテルニューオータニ東京への取材や調査を経たものではありません。

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