【女性の活躍推進座談会】加賀屋 × 庭のホテル東京 × 日本旅行 ×東京海上日動火災


女性が働きやすい職場づくりを

 今、「女性活躍推進法」や「働き方改革関連法案」のもとで、女性が働きやすい職場環境の整備が求められている。「仲居さん」をはじめ女性が数多く働く旅館・ホテルも例外ではない。女性社員の定着率を高めれば、人手不足の解消にもつながる。そこで、旅館・ホテルの女性経営者と、他業種で働く女性管理職の方々に「女性が働きやすい職場づくり」について語り合っていただいた。【編集部 板津昌義】

◎ご出席者

UHM 取締役 木下彩さん

加賀屋 若女将 小田絵里香さん

日本旅行 執行役員グローバルソリューション営業本部 訪日旅行営業部長 緒方葉子さん

東京海上日動火災保険 旅行業営業部長 山下真粧子さん

 

 ――(司会=編集部・板津昌義)まずは簡単に自己紹介をお願いいたします。

 

木下さん

 木下 私どもの会社、UHMは、「庭のホテル東京」と「東京グリーンホテル後楽園」という二つのホテルを東京の水道橋駅近くで運営しています。祖父母が旅館を始めたのが84年前です。会社は昨春に野村不動産のグループに入りましたので、現在、私は代表取締役を降りて取締役として引き続き仕事をしています。

 

小田さん

 小田 能登は東京から近くなったとはいえ、新幹線で金沢まで2時間半、さらに電車で1時間かかります。加賀屋は温泉旅館として今年で114年目です。私は航空会社の客室乗務員でしたが、主人と結婚して30歳からここで働いて15年目。2人の子どももいながら若女将としてやっています。

 

緒方さん

 緒方 昨年3月末に執行役員になりました。日本旅行では初めての女性の役員です。今の部署はインバウンド営業なのですが、女性の活躍推進も担当しており、いろいろな女性向けの講習に出たり、その内容を男性の管理職向けの研修で話したりしています。

 

山下さん

 山下 私は旅行業営業部という部署におります。旅行会社に保険の代理店を委託し、旅行会社と連携して旅行者の方に安心と安全を提供しています。

 

 ――働く女性に対する会社の基本方針は。

 木下 私も子供を育てながら仕事をしてきたので、できるだけ子育ての時に働きやすいようにと考えながらやっていますが、24時間365日の仕事という点がネックになって、どうしても結婚なり妊娠なりで退職してしまうことが多いのが実情です。私を含めて女性の役員は2人、管理職では3人いて、基本的に男女で待遇の差をつけないので、続けてさえくれればいろいろな道が開かれるのになと忸怩(じくじ)たる思いがあります。

 小田 社員はパートを含めて約千人で、女性の構成比率は61%。特に最前線で着物を着て働く客室係はほぼ100%女性です。キーワードは「社員は家族」。社員の人生を豊かにしてあげたいという思いでサポートしています。

 緒方 日本旅行の社員数はグループ会社を合わせて3500人。正社員は男性6割、女性4割ですが、派遣社員を含めると男女比は半々ぐらいです。新入社員は女性もたくさんいますし、順調に定着するとバリバリ頑張ってほしい世代が子育て世代にも入ってくるということもあり、女性の活用には真剣に取り組んでいます。

 山下 当社はここ10年ぐらいで女性の活躍推進やキャリアアップなどに意識的に取り組んでいて、女性が働きやすい会社を目指しています。女性の管理職の数も2007年には46人でしたが19年には263人まで増えています。

 

 ――女性を支援する取り組みを具体的にお聞かせください。

 木下 結婚、特に子育てということになると、夜間の勤務が難しいとか、保育園の休みの日はどうするという話になります。育児休暇など女性のための制度は一応あるのですが、例えば、「小学校の保護者会があるので、半日休みは無理ですか」と言われ、なるほどねということで、半休制度など、必要な制度を作ってきました。ただ、小さい子どもがいる人だけが特別視されるのはよくないので、男性も含め介護休暇も取っていいし、同じように育児休暇もありますよとやっているつもりです。

 今、産休、育休をそれぞれ3回取って戻ってきた社員がいます。その人が1人いることによって、例えばリクルート活動の時にうちの会社にはこういう人もいますよとアピールできるので、「本当に助かってるからね。あなた絶対にやめないでね」と言っています。

 小田 私は九州・福岡の生まれで、能登の地域に来た時にびっくりしたのは、三世帯で住んでいる家族が多いこと。女性は基本的に働き者です。なぜ働けるのかというと、家族がとにかく近くにいて爺婆(じじばば)が孫を育ててくれるからです。七尾市は保育園の待機児童がいなく、老人ホームも病院もすごく多い。そういう地域でまずは助かっています。

 加賀屋は、子どもを抱えて地方から来た客室係もいるので、業界の中でもいち早く、1986年に企業内保育園を立ち上げました。89年には3Kと言われる職場の女性をサポートするため20階まで料理が運べる自動搬送システムを設置しました。2017年にはプライベート面もきっちりした社員寮を造りました。あとはウェブの在宅勤務制度もつくりました。365日の仕事ではどうしても休みにくいので、働き方改革として、昨年から閑散期の冬場を中心に年12日の休館日も設けました。

 緒方 世間一般のように育児休職と育児時短の制度があります。育児休職については、私の上の子は今24歳ですが、生まれた時に育児休職を支店長にお願いしたら、「制度はあるけど、使っているやつはいないぞ」と言われましたが、認められました。時短勤務も、法律では3歳までですが、下の子が3歳になる時に「3歳になったからといってカギを開けて家に帰れるわけではないのですが」と当時の社長に訴えたら「なるほどね」という話になった。なので私の世代が制度を本当に使った先頭でした。

 今は小学3年生末までは育児時短ができて、1日2時間までが基本で3時間にする時は箇所長の承認を得る。その分、給料も減りますが、続けることに意義があると思う人がちゃんと続けられる制度にはなっています。育児と介護がある人は在宅勤務ができる制度もあります。

 山下 当社の女性の活躍推進の目指す姿は「会社組織の意思決定の場に女性が当たり前に参画している状態」で、経営からも常にメッセージが発信されています。女性が働きやすい制度を作るだけではなく、人事制度を活用しやすい雰囲気を醸成したり、商品、事務、システムを抜本的に改革する業務革新プロジェクトを行いそれまで固定化されていた男女の役割を変革したりと、多角的に女性が活躍できる土壌を整えていこうとしています。

 女性の活躍を推進するための「三つのK」(期待をする・鍛える・機会を与える)を標榜(ひょうぼう)しています。本人に期待していることを伝え、活躍するための場を提供し鍛えていくことを全社で取り組んでいます。

 それ以外にも、母性保護・育児支援制度として「育児フルサポート8つのパッケージ」というライフイベントとキャリアアップの両立を支援するための制度を整備しています。産育休や短時間制度の他に、男女を問わない配偶者出産休暇や育児休暇中に管理職とコミュニケーションを取りながらサポートを行う制度なども存在します。

 

 ――一方、課題はありますか。

 木下 課題というか取り組みの第1段階として、子育てをしながら働いている人を特別視することなく、周りの人が自然に受け入れられるような雰囲気をまずは作りたいと思っています。

もちろん女性が働きやすいのは大事ですが、「女性が働きやすい」イコール「みんなが働きやすい」。男性も女性も、高齢者や外国人も、働きたい人が働きやすい社会にしていく。どの会社も働く人がいなくて困っています。だったら目の前のことだけでなく、長い先のことまで考えて、相互扶助でやっていくべきだと思います。

 小田 大学卒がたくさん入社するようになりましたが、うちに来るのは「入学」という感じなんです。入社して3年くらいたつと「加賀屋の流儀をいろいろ勉強できました。キャリアアップのためにアメリカに行きます」などと言って、学んだら「卒業」してしまう。本当にそれが多くて、課題は入学、卒業というサイクルを止めたい。原因は加賀屋という会社の魅力がないからではないかと思っています。何年でマネージャー層になるといったキャリアアップの姿が見えないのです。昔の方式で「年数を重ねていけばおもてなしの達人になるよ」と、そんなのではない。今、会社の魅力を高めるためにやっているのは、茶道部、舞踊部などの部活動です。学ぶのならとことん学んでもらおうと考えています。

 緒方 制度はありますが、活用が十分できてないのが課題です。在宅勤務も私の部署はシステムを整えたので取る人が増えたのですけど、ほかの支店はまだまだです。子どもの発熱などで休みを取ったりすることも多いのに、さらに在宅勤務なんて言えないと遠慮している人が非常に多い。取りやすくするにはどうしたらいいかという段階に来ています。

午後4時に退社すると定時の6時から2時間のマイナス。残業している人との労働時間の差はさらに大きくなります。誰かに労働時間が偏るのではなく、今は、みんなが短く効率よく働き、残業を減らそうという働き方改革をやっています。

 山下 母性保護制度を利用する社員と利用しない社員の公平感を保つのが難しいと感じています。制度を利用する社員は、自身が置かれた環境や制度を利用する理由を周囲に理解してもらえるようコミュニケーションに努める必要があると思っています。

 

同じ女性の立場から女性の働きやすさについて意見を交わした

 

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