【地方再生・創生論 311】時代の変化に対応する大都市 松浪健四郎


 学生たちは、卒業単位取得のために、老人ホーム等で介護実習を行う必要がある。そのために大学近辺でオープンする老人ホームの開所式に大学を代表して私が出席する。やがて学生たちがお世話になるからだ。世田谷区の二子玉川で開所した老人ホームを訪れた時、年配の方が私に声を掛けて下さった。

 「マツナミさんは、もしかすれば松浪庄造さんの息子さんですか」と、おっしゃる。「はい、四男です」と応えると、「やっぱり!」といって喜んで下さった。父親をよく知っているという神奈川県大和市で私立高校を経営されている理事長。父親との関係には触れないが、大和市という自治体に興味を覚えた。住民の図書館利用「日本一」で有名なのだが、「住民ファースト」の自治体であることをも知った。東京や横浜の衛星都市であるが、首都大学野球リーグ戦を行う市民球場があるので、私も観戦のためによく訪れる市である。

 大和市は、大分県別府市や三重県松阪市とともに毎日新聞の滝野隆浩編集委員の記述によれば、「死後手続簡略化の先進自治体」だという。そういえば、家族に不幸があれば、面倒くさい手続きに泣かされる。が、家族がおれば問題がないにつけ、1人暮らしの本人が死んでしまうと、手続きそのものがストップしてしまう。自治体も困り果ててしまう。

 大和市には、「おひとりさま政策課」なる課が設置されている。私も後期高齢者になると、どうしても「死後」を意識する。がんを4回も経験して、日々が薬づけともなると心配ごとは「死後」の問題となる。周囲の知人の訃報に接するたび、悲しいかな己の順番も意識してしまう。幸いなのは、私には家族がいることだが、1人暮らしの老人も増加傾向にあり、身寄りのない人も多いらしい。ともあれ、年を重ねてくると人生の最終レーンを走っていると気づくと同時に孤立感に襲われる。1人暮らしだと、その孤立感は大きいと気づいた大和市は、「おひとりさま政策課」を設けることにしたのだ。

 大和市の高齢化率は高くないらしいが、1人暮らしの率は全国平均並みだが、高齢化社会を先取りした印象を受ける。また、単身者が増加傾向にあることから、その人たちを対象にした課を設置、住民の側に立った政策といえる。例えば、経済的に余裕のない高齢者の葬儀についても相談できるという。そのために生前契約支援も行うという。役所の仕事が増えた感じだが、家々のあり方が多様性を帯びてくると、役所も変わる必要がある。

 そして、大和市は全国で初めて「終活支援条例」を制定したのだ。条例前文には「死と向き合い、その準備を整えていく活動で終活に取り組む市民に敬意を表し」とあるばかりか、財政上の措置を講ずるように努めるという。1人暮らしでも安心して死ねる条例であろうか。相談件数も増えているというから、時代にマッチした条例ということである。悲しい条例に映るが、安心感も与えてくれようか。

 この大和市の条例は、大木哲前市長が熱心に推進してきたという。時代の変化を読み取り、対応する手腕に敬意を表したい。各自治体も「単身社会」が、すぐにやってくると理解し、今から準備しておかねばならない。高度な教育を受けた女性、離婚した男女、いずれ高齢者となり「単身社会」を作る。結婚しない男女も増加していて、間違いなく日本社会は変化する。この変化は急であることを知るべし。

 子どもたちが成長し、やがて結婚して独立する。両親との同居は昔は常識だったが、今は同居は非常識となった。欧米の家族のあり方を「変だ!」と思っていたが、私たち日本の家族も欧米並みとなった。家族は親の面倒を見ない、世話をしない、老人ホーム任せとなってしまった。

 「家族愛」を期待できない時代に突入している社会、人間らしさを失ってしまったといえる。各自治体は、大和市に学んでほしいと思う。

 (参考・毎日新聞2022年3月13日号、「滝野隆浩の掃苔記」)

 
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