保育所に入れない、保育所に入れないと大騒ぎしたのは、わずか数年前のこと。野党の女性議員が、鬼の首を取ったかのごとく与党・政府を攻めたてた。とりわけ都市部では共働き夫婦が多数を占め、待機児童のいるのが常識のようだった。社会情勢の変化に各自治体がついて行けず、待機児童問題で頭を痛めた。だが、最近、大きな変化が見られると日本経済新聞が伝えていた。「保育所地方で空き増加」という報道に驚かされたのである。
日経BPの情報サイトである「日経×woman」が、人口20万人以上の180市区を対象に調査、子育て世代に選ばれる街づくりを分析・採点したという。子育て支援こそが人口増加に直結しているというから、各自治体は共働き夫婦のための政策、特に子育てについて敏感でなくてはならないようだ。調査によれば、千葉県松戸市が子育てしやすい街ランキングの1位、2位が宇都宮市、3位が浦安市と富山市で、5位が東京都福生市、神奈川県厚木市、北九州市であった。
元来、地方では共働き家庭が多くないばかりか、老夫婦と同居のケースが一般的だった。「子守り」するお年寄りがいて、孫の世話をするのも一般的であった。しかし、核家族家庭が増加したため保育所が必要となり、自治体はその変化に遅れをとった。ランキングの上位を占める自治体は、首都圏の副都心的な存在であったり、比較的人口増減に変化のない地方都市である。そして、妊産婦支援に熱心であるばかりか、保育環境が充実している。
日経のこの調査によれば、今後は質の向上と幅広い保育の取り組みに力を注ぐ必要があるという。宇都宮市では、LINEで24時間相談に応じるサービスを提供する上に、保育環境の状況をチェックして助言、協力している。千葉県浦安市では、子育てケアマネージャーと保健師が出産前後などに数度面談し、子育てプランを作成するなど細やかなサービスを提供しているという。
共働き夫婦の子育てのサービスは、小さい自治体では苦戦する。やはりスケールメリットを考慮すれば、それなりの人口が求められる。毎年のごとく社会は変化する。わけてもコロナ禍による変化は、誰も予測することができなかった。時代認識を理解し、政策立案のスピードが住民生活を左右する。2020年の出生者数は87万5千人、21年は84万人を割り込むほどコロナ禍の影響が大きかった。保育所をはじめ、育児のための施設を立派にしても、その施設がガラガラという現象も予想できるほど少子化が進む。
保育所の供給過剰が、今後は強まると日経調査は読み、地方圏で定員の空きが増えていると書く。他方、大都市部は利用ニーズがまだまだ高く、需要がある。このことは、共働き環境が大都市部に集中していることを物語る。都市部と地方では、同一の政策ではうまく運ばず、独創性に富んだ特徴ある地域に合致した政策をアピールしなければ、いくらオンラインで仕事ができるとはいえ、若い夫婦は都市部へとなびくばかりである。
「保育所地方で空き増加」という報道は、地方自治体の共働き家庭政策の構造転換を迫られている。どうすれば人口を増加させることができるかを、働き方改革政策と共に考えてきた自治体にとってショックは大きい。共働き子育てしやすい街ランキングの上位自治体は、支援メニューが豊富であるに加え、手厚いサービスを徹底させている。小さな地方の自治体ではおそらくまねできないに違いない。
子だくさんの家庭を増やしたい。ランキング8位の大分市は、県と共同でミルクやおむつ代等に利用できる1万円以上のクーポン券を配っている。1人につき1万円、2人目は2万円と子どもが増えるごとに金額が上がり上限なしという。思い切った政策で子育て支援をしているが、社会と家族が一緒になって子育てをするという哲学があればこそであろう。どれだけきめの細かい子育て対応ができるのか、各自治体が問われている。面白いサービスを考えてほしい。