【地方再生・創生論 249】小学校に囲碁、将棋の授業を 松浪健四郎


松浪氏

 外交官の世界では、「ブリッジ」という4人が卓を囲んで楽しむゲームが盛んである。男女が楽しめるため、赴任先の諸外国でも退屈しないばかりか、多くの国々の外交官もこの「ブリッジ」に興じるので、文字通り外交に役立つ。私には、このゲームの知識と経験がないため、ちょっぴり寂しい思いをしたことがある。日本人だけのマージャンで卓を囲むばかりだったが、ヒマつぶしにはよかった。

 中国の瀋陽・旧満州の小学校を視察したとき、授業の正式科目に「囲碁」があるのに驚かされた。考える力を養うために役立つとの説明だったが、効用の幅はもっと広い。集中力や思考力、決断力、推察力を研ぎ澄ますだけではなく、バランス感覚をも養ってくれる。何よりも囲碁は、大局観を身に付ける。小学生たちが、碁盤を囲み考える姿に私たち視察団は共感を覚えた。日本の小学校にも、囲碁や将棋の授業があってもいいと思う。

 そろばん、書道も教室から消えつつあり、将棋や囲碁を取り入れる柔軟性が文科省にはない。というよりも、中央教育審議会(中教審)で、かかる議論はなされず、デジタル化や国際化のテーマに拘泥している印象を受ける。小学校から英語を教える必要があるのだろうか。受験戦争を激化させるだけではないかとも思う。各自治体の教育委員会が、独自性を発揮すべく工夫して特色ある科目を挿入して、思考力のある人材を育成してほしい。

 将棋界に19歳の藤井聡太という大スターが出現、にわかに将棋ブームが訪れているという。縁側で夕涼みしつつ将棋をさし、蚊に刺されたのも気付かず熱中した思い出がある。生活様式が大きく変化したため、遊びも変わってしまった。少子化の影響もあり、ゲーム機を手にする遊びが一般的。スマートフォンでもゲームを楽しむ人たちが車中にも多くいる。

 高齢者たちに自治体がマージャンを奨励するところもあるそうだ。指先や手を動かすにとどまらず、4人の会話も進む。ボケ防止策になると考えているらしい。このコンテンツをいかに自治体が活用するか。ケアハウスや各施設で体操と同様に指導したり、機会を設けたりしている。が、このようなマージャン、将棋、囲碁等に自治体が関心を持たず、もっぱら愛好家たちだけのコンテンツにとどまる。活用を考え、高齢化社会に潤いを与えるべきである。

 大学の講義課目も変化している。例えば、健康の増進のためには笑いが必要と考える関西大学は、授業に落語を採用している。科学的にも笑いが脳を刺激する上に、各種の分泌物を盛んに輩出させるという。古典落語は歴史的な話芸であり文化。近代人も理解しておくべきであろう。近畿大学経営学部と法学部では、囲碁が正式課目となっている。大学生の多くは囲碁を知らず、全員がゼロからスタートできるに加え、経営の戦略やルール理解に役立つという。日本棋院から高段者が派遣され講師を務めるが、人気高い課目となっているらしい。このような講座を採用する大学も増えると思われる。

 詰め込みの知識と並行して、思考力、決断力、大局観を身に付けた人材の育成が急務となっている。伝統的な遊びを見直して、教育の中に活用したり、高齢者の健康とボケ防止のために利用できないか、本気になって考える状況下にある。デジタル化され、通信文化が根付いた現在、相手を必要としない遊びが定着してしまった。この状態に各自治体は何も考えずに政府の命令を待つだけとは残念だし、それでは自治体の存在感がない。

 日本の教育力低下は、今までの学校ではダメだと教えられる。国際社会に迎合しすぎたあまり、日本の特色が消失しつつある。コミュニケーションのとれない人間では、交渉力は期待できない。だが、まさに現在は交渉力のない人間ばかりを乱造してはいまいか。その意味で、伝統的な遊びの活用を考えるべきであろう。すでに中国では小学生が囲碁をして、考える力を持つ人材を養成している。文科省も教育委員会も目を覚ますときだと知るべし。

 
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