【地方再生・創生論 232】美術館、博物館の価値を認識すべきだ 松浪健四郎

  • 2021年10月7日

松浪氏

 どの自治体にも公民館と図書館が設置されている。利用頻度も高く、住民にとって必要不可欠な施設である。幼児から高齢者まで、文字通り全住民が利用できる施設だ。私の育った町では、小中学生の絵画コンクールは公民館で開催されていた。人気高い催物、多くの住民が鑑賞のために訪れていた。

 余裕のある自治体は、町立か市立かはともかく、公立の美術館を設けている。公民館や市民ホールの一角であったりもするが、美術館を設置する自治体には敬意を表したい。図書館には「司書」なる資格を持つ人材を配置しなければならないように、美術館や博物館には「学芸員」を置く必要がある。この人件費がネックなのか、美術館を持つ自治体は多くはない。残念なことに、自治体は住民の美意識を高めようとする装置には無関心なのだ。

 自治体の首長選挙や議会選挙で「美術館を造ります」「博物館を造ります」と演説会で述べた候補者を私は知らない。選挙の票にはならないと決めつけているかに映る。人の心を養う教育の場たる美術館や博物館、また、人間的な出会いの場ともなる。文化を担うにとどまらず、子どもたちの情操を養う大切な場ともいえる。「感動」「驚き」を教材にして、心を耕す場なのである。道徳を教えるのも重要だが、感動できる心を保持すれば、つまらぬいじめ問題等も消失するに違いない。

 私の知人である会社経営を東京・世田谷でする志賀則男氏は、私財を投じて北海道札幌市に障がい者のための「美術館」を設置した。有名、無名を問わず、障がい者たちの作品を収集している。障がい者たちにすれば、大きな目標ができた上に、意欲を高めるビタミンになっている。障がい者たちにも、優れた感性や技術を持つ人たちも多くいる。その人たちの専用美術館、ぜひ足を運んでほしいと願う。

 さて、明治維新政府は、多くの学者や技術者を外国から雇い入れた。大森貝塚を発見し、日本の考古学の1ページを開いたエドワード・モースは、滞在中に日本人の用いる道具を収集した。主に日用品や農具で高価な品々ではなかった。彼は海の魚介類の専門家だったが、帰国時に収集品をアメリカへ持ち帰った。シカゴのモース記念館で展示されているが、すでに日本では失ってしまった品々で、貴重な資料となっている。保存の重要性を教えられる。

 美術館、博物館、資料館、参考館、さまざまな貴重な施設は住民の宝だが、自治体にすれば、その経費に音を上げる。収集品の費用を考慮せず、まず住民の協力や寄付によって作品を集めるがいい。無名の作品で十分だし、子どもたちの作品だって有意義であろう。人間の根幹をなす情操を育むために工夫すればいい。私たち日本人は、作者が有名であるかどうかを重視するが、それは間違っている。無名であっても、作品の持つ美しさは魅力的である。志賀則男氏は、障がい者たちに夢を与えることからスタートしたが、地方の自治体も背伸びせずに金をかけずに作品を収集すべきだ。

 学芸員の企画力に驚かされたことがある。横浜市の多くの寺から仏像を借りた、その展覧会に行った。超一流の有名な仏師の仏像はなかったが、古い時代から信仰の対象とされてきた一体一体の仏像は、見る者を美の世界へと引き込んでくれた。美術館の持つパワーを学んだと同時に、地域文化の重要性を悟った。

 かかる施設は必要不可欠な施設である。橋や道路を造るのと同等の価値があることを認識すべきである。首長をはじめ議員たちも、住民の心を育む大切さを認識せねばならない。この人間教育の場は、目に見えて効果を生むものではないが、地域の魅力の再発見につながったり、住民の誇りとなる可能性をはらむ。

 ともかく地域社会の特徴を伝える場を持ち、住民の文化力を発信すべきである。地域によっては、少子化で学校の教室が余っていたりする。その活用を考えれば、容易に美術館や博物館、資料館を造ることができる。「学芸員」は、ボランティアを募ればどうだろうか。

 

 
 
 
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