【地方再生・創生論 221】棚田をいかに保存、活用するか 松浪健四郎

  • 2021年7月16日

松浪氏

 人間の活力、工夫、欲望は、世界中どこへ行っても同じ。イラン、トルコ、パキスタン、アフガニスタンといった砂漠のある国でも、山岳地方に行くと「棚田」や「段々畑」を見ることができる。人間は、水さえあれば耕す努力をする。日本人だけが勤勉だと決めつけてはならない。

 先般、皇居の中で新しく石垣が発見されたという。今までの石の積み方と異なる古い工法らしい。熊本城が地震で被害を受けた際も石垣工事が難航したと聞く。名古屋城の木造建築への建て替えも石垣問題で止まっている。わが国の古くからの石工たちの技術は芸術的で、現在では考えられない手法で石を積み、堅固な石垣を作ってきた。

 石を積む工夫があってこそ棚田や段々畑を作ることができる。あちこちから石を運び、一つ一つ積んで耕作地たる棚田を作ってきた人の営みは、私たちの想像を超越する作業だったに違いない。南米のアステカ文化、マヤ文化も石を積んで神殿や家屋を作ってきたが、時間の観念のない時代だったから可能だったのだろうか。ペルーのマチュピチュ遺跡を訪れても、道具や機械のない時代の石の積み方に感心させられる。

 わが国の棚田は、一朝一夕でできたものではない。何代も時間をかけて、先祖たちが米を食べたいがゆえに、水田耕作に不適な傾斜を工夫して作った。それが日本の棚田である。諸外国の山岳地の村落にも段々畑を見ることができるが、人間の農業に対する執念には頭が下がる。棚田等に求められるのは、水である。水路を作るにしても、水源を求めて水の流れを計算せねばならない。

 稲作を段々畑の棚田で行うのは、日本の中山間地域が圧倒的に多い。水を引き、苗を植える。それが黄色一色に染めて穂が実ると、日本人の美意識と農耕意欲、実直さが伝わってくる。しかも、先祖代々の継承の伝統行事として脈々と伝えられてきた現実にすごさを感じる。ともかく棚田の風景に接すると、私たちの心はなごみ、日本人の国民性に誇りを持つ。

 1999年に政府は「日本の棚田百選」(134カ所)を認定した。ところが、毎日新聞社の調査によると、棚田の荒廃が全国的に進んでいるというのだ。管理されず、維持できない棚田が増加しているらしい。一方で観光地となっている棚田もあるらしいが、だんだんとその面積は減少傾向にあるというから悲しい。

 先人たちが、維持、管理してきたせっかくの棚田が、雑草の生い茂る地に転じてしまっているのは、豊かになり容易に米が入手できる上に少子化、高齢化が進んでいるからである。棚田は昼夜の温度差が大きいのと、良質の水によって上質米を生産することができる。価格も高く、その地の特産米にもなっていた。

 ところが、減反政策のために転作したり、棚田管理が面倒くさいので放棄する人たちが出てきた。高齢化と過疎化が拍車を掛け、歴史的な祖先たちが汗水たらして作った棚田が無残な姿になっていると毎日新聞が報じる。棚田の周辺は林であったり竹やぶであったりするから、ていねいな手入れが求められる。

 私たちの使命は、この棚田をいかに保存して活用、維持するかであろう。各自治体は、研究して住民参加の手法を取り入れ、この文化的遺産を継承していくべきである。地域によっては、ふるさと納税の返礼品に棚田産の上質米を使っている。また、オーナー制度によって維持している地域もあるのだ。

 都市部に居住する人たちが会費を出してオーナーになる方法で、自治体が音頭をとって誇る風景を保存してほしい。2019年に議員立法によって「棚田地域振興法」が成立した。指定棚田に選考されれば交付金が出るに加え、有利な支援も受けられる。すでに642地域が指定を受けている。内閣府は、積極的に活用を呼び掛けている。この法律を活用すべし。

 先人が大変な労力と時間をかけて切り開いてきた棚田、地域社会の財産であるばかりか、21世紀の貴重なコンテンツである。雑草や竹やぶの棚田にしないでほしい。自治体よ立ち上がれ。

 
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