【地方再生・創生論 215】地方の国立大学に必要なこと 日体大理事長 松浪健四郎


松浪氏

 日本私立大学協会の理事をさせていただいている。昨年からの大きな議題は、地方創生に資する目的をもって地方国立大学の定員増を行うと、中央教育審議会の大学分科会で議論されていることだ。東京23区内の私立大の定員増を認めないばかりか、新しく学部や学科の設置を凍結させておいて、地方の国立大の定員増を行う方向に動いている。

 今年の入試戦線は異常であった。コロナ禍の影響で、地方から中央へ受験生は来ないばかりか、女子受験生たちは東京の大学を避けた。有名私大は、軒並み受験者数を減少させた。私の日体大も減少させ、あまりの異変さに声を失うほどだった。そこへ地方国立大の優遇策を中教審が進めつつある。旧国立大の二期校の復活を地方再生・創生をうたい文句に目指しているかに映る。

 デジタル化とグローバル化の進展、Society5.0の到来で、わが国の大学は大きく変化しなければならない。そのスピードは早く、動きもめまぐるしいのだ。産業構造の急進的なパラダイムシフトも起きている。加えて少子化と生産年齢人口の減少。じっとしているわけにはいかず、首都圏の一極集中をバラバラにする政策が求められる。コロナウイルス感染症の拡大によって、地方分散への流れが加速しつつある中で、学生を地方でも増やそうと計画しているのだが、果たして成功するだろうか。

 大学は「知識」の宝庫であるが、今まで地域社会の人たちは活用してきたとはいえない。地方大学であっても、医療、教育、文化、福祉等に関する人材を養成する役割があった。だが、残念ながらその人材は地方にとどまらず、地方再生のために生かすことができず、雇用は地方公務員が圧倒的に多かった。大学の研究機関を活用して、産業創出を期待したが、それらもかなわなかった。

 大学の知的資源を活用するには、地域社会や産業界との連携が必要であったが、仲立ちをする人材や団体に恵まれなかった。商工会議所や業界の団体が地域との大学とは疎遠、大学自身も行動しようとはしなかった。地方国立大の事務局長は、だいたい文科省のノンキャリア組のポストゆえにクルクル交代する。地域社会と連携することによって、地方を活性化させる、産業界に貢献するという発想はなかった。また、国立大の定員増をしたとしても、地元で活躍してくれる人材、その地域のポテンシャルを引き出してくれる人材が卒業後に定着してくれるとは思われない。

 つまり、受け入れる地域社会が、その国立大の卒業生を雇用する産業界に影響を与える力を持つだろうか。

 国立大は、すべての都道府県に設置されている。教育熱心なニッポン国の象徴でもあろうか。政府は、その国立大に目をつけ、地方創生・再生のために活用しようと考えたのだ。中央に出て行けば金がかかる。受験生たちを地方で囲い込むには、定員増が効果的と考えたに違いない。原則として学部の定員増を認めてこなかった文科省は、大学改革を先導する形で、地方大学の振興策と相まってカジを切った。私は、あまり成功しないと考える。

 受験生の求める一つには、大学ブランド力がある。いかに国立大といえど、ローカルなイメージは払拭(ふっしょく)できない。そこで求められるのは、学長の強烈なリーダーシップである。同時に地方自治体が、その国立大にどうアプローチするか、首長の姿勢も問われる。もちろん、産業界の理解も大切である。私が首長なら、自治体の奨学制度を創る。そしてその囲い込む方法が地域に定着させる方法につながる。

 学長のリーダーシップと事務局長の行動力、これらが定員増以前と同様であるならば、この施策は失敗する。大学事務局長のポストは、計り知れない影響力がある。中央からの天下りポストである限り、地方のためには役立つとは思われない。その地域で一等の人材を事務局長に送るシステムを定員増と共に作らないと失敗する。何よりも地方国立大に魅力はあるのか。

 
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