ナポリタンやドリアなど、ニッポン生まれの洋食について書かせていただいたことがある。外国から来たと思っていたら、実は日本生まれだったという料理は、洋食だけでなく中華にもある。例えばエビのチリソース煮は、四川省出身の料理人陳建民氏が、四川料理の「乾焼蝦仁(カンシャオシャーレン)」を、日本人の口に合うようにトマトケチャップを使ってアレンジしたという話は有名だ。
回鍋肉(ホイコーロー)も、本場とは似て非なる物だ。こちらも以前ご紹介したが、陳氏のアレンジにより、日本になかった蒜苗(ソンミョウ『葉ニンニク』)をキャベツで代用、肉も本来塊のままゆでた豚を厚めに切って使うところ、バラ肉の薄切りにすることで家庭でも手軽に作れるようにし、味付けも甜麺醤(テンメンジャン)多めの甘辛い仕上がりにした。
他に、同じく陳氏がアレンジした麻婆豆腐や担々麺も、現地の物とは全く異なる料理と言って良いだろう。最近は日本でも花椒(ホアジャオ)や豆豉(トウチ)など本格的な調味料を入手できるから、本場さながらの味も再現可能だ。また日本生まれながら、汁入り担々麺のように逆輸入されて向こうで定番化した料理も。だが、中国人が「そんな料理食べたこともない」といぶかしがる、日式中華料理も存在する。
トップバッターは「冷やし中華」。日本では昔から奇麗な流水で締めたそばや素麺など、冷たい麺類を食す習慣があったから、中華麺を冷やそうと考えるのは、ごく自然の成り行き。本場中国には、冷ました麺にゆで鶏とキュウリの千切りを載せごまダレを絡める「鶏絲涼麺(チースーリャンメン)」という料理があり、ごまダレ冷やし中華のルーツともいわれるが、麺はうちわであおぐ程度で、キンキンに冷やしたりしない。いずれにせよ、甘酸っぱいしょうゆダレの冷やし中華は、日本のオリジナルだ。
発祥の店については諸説あるが、その一つが仙台「龍亭」説。昭和12年、当時まだ冷房設備が整っておらず、中華料理は火を使うイメージから暑そうで油っぽいと、夏になると敬遠され、売り上げが激減したという。それを打開すべく、組合の面々が組合長の店に集まり、試行錯誤の上考案したのが「涼拌麺(リャンパンメン)」、つまり冷やし中華だったのだ。
一方、昭和8年誕生説もあるのが、東京神田神保町の「揚子江菜館」。山型に盛った麺に、細切りの具を放射状に飾るスタイルは同店が開発した。ハムのピンクが春、キュウリの緑が夏、錦糸玉子の黄色が秋、もやしの白が冬を表し、富士山の四季を描いたという「五色涼拌麺」は、今なお人気だ。
ところで、既にコンビニやスーパーの棚から冷やし中華は消えているが、一体いつからいつまで販売されているのか? 調べたところ、大手コンビニ3社で今年最も早かったのがセブンの2月9日発売。意外と寒い時期から販売開始となる。販売終了はいずれも10月初旬ごろ。突然食べたくなる冷やし中華、今はガマンの時である。って、自分で作っちゃうもん!
話を戻そう。中国人の知らない中華って、あと何があるの? 続きは次号で!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。