【一寸先は旅 人 宿 街 31】消えゆく紙の情報誌『じゃらん』 神崎公一


 リクルートが発行する旅行情報誌『じゃらん』と『じゃらんムックシリーズ』が2025年3月発行を最後に休刊する。

 『じゃらん』の創刊は1990年、海外旅行情報誌『エイビーロード』(2006年休刊)の国内旅行部分を分離して発刊されたという。紙媒体は休刊となるが、それに変わり、じゃらんネットで、引き続き旅行情報を提供する。休刊の理由について、リクルートは「昨今のユーザー動向を含む社会の変化を受け止めた」としている。

 じゃらんの由来はWikipediaによると、「道」「プロセス」を意味するインドネシア語の「jalan」からだという。

 同誌は筆者の古巣の月刊旅行読売とは編集方針が異なるものの、同じ旅行・観光情報を提供する紙媒体であるだけに、『じゃらん』、お前もかとの思いがよぎる。

 旅行関連に限らず、雑誌の苦戦が続いているのは周知のことだ。出版科学研究所によると、2023年の紙の出版物(書籍・雑誌)の推定販売金額は、1兆612億円。そのうち書籍は4・7%減、雑誌は7・9%減となっており、久しく低迷している。創復刊点数は過去最低の25点という。その結果、JRや私鉄の電車内でも中吊り広告をほとんど見かけなくなった。車内で雑誌や新聞を読んでいる人は少なく、ほとんどがスマホの画面に見いっている光景も珍しくない。

 観光関連の講座を受け持っている短大で、学生たちから旅行に出かける際の情報収集について尋ねてみた。インターネット検索が多いと予想していたが、見事に外れ、ほぼ全員がSNSに頼っていることを教えられた。ティックトックやユーチューブだという。こうしたSNSで行ってみたい土地を検索するとか、あるいはすでに書き込まれている観光地を閲覧するらしいが、この分野に疎い筆者は今ひとつピンとこない。

 閑話休題、10月初めに1泊の取材で信州に向かった。JR中央線の特急あずさの座席にすわり、スマホを取り出そうとして自宅に置き忘れてきたことに気づいた。片時もスマホを手放せない若者ではないが、冷や汗が吹き出した。われながら情けない。普段から腕時計をしていないので、まず時間がわからない。宿泊先への行き方もスマホにアクセス方法と地図をダウンロードしてあるので、それもわからない。幸いスマホを使った電子マネーの支払いはしていないので助かった。

 コンパクトデジカメは持っているものの、併用しているスマホのカメラは使えない。最も困ったのは、メールやLINEによる仕事関係のやりとりだった。また、公私にわたり電話番号がスマホに登録されていて、連絡もできないことだ。新聞社の警察記者だったころは、初任地の茨城県内の警察二十数署の代表番号をすべて覚えさせられた。しかし、ここ20年くらいは、自宅と自分の携帯番号ぐらいしか頭に入っていない。このようにスマホは今や生活インフラとして欠かせないものとなっている。

 ガイドブック片手に旅をする時代は、過去のものになりつつあるのだろう。それを象徴するのが、『じゃらん』の休刊といえる。

(日本旅行作家協会理事、元旅行読売出版社社長)

 
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