弊社がこれまで実施致しましたコロナ禍での宿泊市場の動向調査結果を簡単に整理いたしますと、感染症に対する恐怖心からの解放を象徴する旅行に対して、今後旺盛な観光需要が期待できるものの、動きはやや鈍く、当初は比較的移動等に恐怖心が見られない20歳代から30歳代から始まり、その後移動手段に対する安全性等も確認、勘案しつつ、40歳代から、その後50歳以上へと徐々に広がりを見せるものと思われます。また、旅行移動の距離圏は比較的広く、200km圏域以上を求める声も多く見られました。その一方で、女性では逆に近場を求める声も多く見られます。ファミリーでの観光が強く見込まれる他、宿泊施設に対しては感染症拡大防止対策の実践とともに、美味しい食事やおもてなし等これまで同様のサービス提供を求めている様子も窺えました。
新型コロナウイルス感染症に対する恐怖心から、移動手段についてバス利用に懸念を抱く顧客層が増加しています。弊社が実施したアンケート調査(全国男女200名、2020年55月、弊社調べ)において、バスについては、「使用したくない」との回答者割合が13.5%、「やや使用したくない」との回答者割合が23.5%という結果でした(合計37%)。また女性だけで確認しますと、「使用したくない」との回答者割合が20%、「やや使用したくない」との回答者割合が29%という結果でした(合計49%)。それら調査結果を俯瞰しますと、今度一層の団体市場の縮小、個人市場の拡大が予想されます。
このような環境において、平日の観光需要喚起策として、新型コロナウイルス感染症を強く懸念するアクティブシニア層や女性顧客層を取り込む為にも、効果的且つ適切な感染症拡大防止対策を実践する他、個人市場を前提としたサービスコーディネートが重要となります。
以下では、個人市場に焦点を当て、そこで求められる宿泊体験のあり様や個人顧客のサービス体験認知上の特性を整理してみます。まず、事前情報ニーズに関する弊社調べ(全国男女200名、2020年5月)については、滞在時の安全性を求める声についてCOVID-19以前は26.5%だったところ、現在は42%、滞在時の安心感についてCOVID-19以前は24.7%であったところ、現在は39%という結果でした。それらに関する正確な情報提供が求められます。サービス提供時における「ミス」が及ぼす顧客の態度形成への影響について、ミスがなく3回好印象な体験があれば、「他者に推薦したいと思う」及び「やや推薦したいと思う」との合計回答割合が71%のところ、1度ミスがあり、4回好印象で差し引き3回好印象な場合では、同25%と1度のミスが大変大きな影響を与える様子が窺えます。その他「フロント」に対する評価が高い場合、「客室」の事前期待を高めます。また「客室」に対する評価は以降の事前期待に総じて強く影響を与える様子が窺えます。レストランでは「フロント」での印象の良し悪しや「客室」の評価以外にも、レストラン内の質感等の良し悪しも食事に対する事前期待に影響を与え、効果的な顧客態度に繋げます。チェックインからチェックアウトに至るカスタマージャーニーを考えますと、「徐々にシーン別での評価が上がる」ことが望まれ、その傾向はビジネス目的より観光目的での宿泊体験で強く見られました。なお、複数日程での旅行工程を考えますと、「旅行工程(日程)が進むほぼ旅行体験の評価が上がる」ことが望まれます。個人市場向けに、上記のような徹底した顧客体験コーディネートが今後一層求められるものと思われます。
一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史
北村氏