宿泊施設のバックヤードにおける感染症対策について整理しておきたいと思います。労働契約法第五条には、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」としており、また、労働安全衛生法第3条第1項(事業者等の責務)では、「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。」と定められています。「労働者の安全に配慮する」というときの「労働者」には、元請からみた下請労働者や派遣先からみた派遣労働者を含みます。安全配慮義務には「心身の健康」と「職場環境の配慮」も含まれており、健康配慮義務及び職場環境配慮義務を包含しています。感染症対策の構築及び実践もその1つであり、新型コロナウイルス感染症に対しても十分な安全配慮義務を尽くす必要があります。例えば、職場環境で避けられる限り3密をさける、時差通勤やテレワークを認める、出張の削減などできることをしっかりやっておく必要がある。フロントでのアクリル板設置やフェイスシールド等の着用、混雑時の時間帯を避けるよう顧客に呼びかけすることも含まれます。
まずは、労働安全衛生法に基づく、「総括安全衛生管理者」、「衛生管理者」、「安全衛生推進者」、「安全管理者」等を適法に運用していることが大前提となります。その上で、感染症対策を行う安全衛生委員会の設置及び運営に取り組むことが望まれます。当該委員会の機能としては、①労使が一体となって感染症対策の実施内容を検討すること、②感染が疑われる顧客が生じた際の対応策、手順マニュアルを作成すること、③PCR検査依頼時の相談先、万一陽性評価が出た場合に備えた相談先医療機関や医師の確認、④スタッフ全体に日々の行動について、感染症予防を重視した活動を行うよう働きかけること等が挙げられます。更衣室、食堂、事務所、会議室、仮眠室、その他スタッフが常駐するような機械室や駐車場管理室等を含め、以下「バックヤード等」と称します。バックヤード等に関する感染症対策の構築に当たっては、バックヤード等を「グリーンゾーン(安全なエリア)」と位置づけ社内でどのような取り組みを行うのか周知徹底することが重要となります。列挙しますと以下の通りとなります。
・自動販売機や電子レンジ、コピー機、電話機、照明や空調、テレビ等のボタン、ドアノブ等にスタッフが接触すれば、原則としてスタッフが触った都度、当該スタッフが消毒を行うこと。
・バックヤード等は全て、しっかりと換気を行うこと。また換気が徹底できるよう、例えば対象スペースの整理整頓を常に行い、リネン類等がある場合等は布でカバーしておくこと。
・バックヤード等は、明確な目的がある場合の入室に限定すること。入室の際は、手指消毒をし、上着を脱ぎ、靴を履き替えること(個々人用スリッパでも可)。
・バックヤード等では、マスクを着用し、密にならないよう配慮すること。
・食堂では、食事中の私語を慎み、密にならないよう席配置を確認することの他、十分な換気を確認すること。また、箸や食器、調味料等できるだけ小分けに管理し、それらの入れ物をスタッフ間で共有しないこと。
・飲み物等は都度洗い、また接触し消費したものはその都度ゴミ箱に廃棄すること。
・ゴミ処理では、ビニール手袋を着用し、その後手指の消毒を行うこと。
・更衣室では、入室制限等により密を避けること、十分な換気がなされていることを確認すること。さらにユニフォームは、都度洗濯されているものを着用すること。
一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史
北村氏