現在、世界では旅行者が急速に膨れ、観光地が不足しているという。日本政府は、2020年に訪日外国人旅行者4千万人を掲げている。世界の観光需要からすると決して難しい目標ではない。このような背景を受け、宿泊施設不足が指摘され、ホテルなどの建設が続いている。しかし、その人材が担保される前提でのハードへの投資について危機感を募らせる。
大学、専門学校では「2018年問題」と呼ばれる危機に直面している。それは、入学対象としている18歳人口が、2018年から再減少が始まり、2030年までに約25%減少するというのだ。これは教育機関だけの危機ではない。供給先の産業界の深刻な人材不足の到来を意味している。さらに、この危機は特定産業に偏り、若者に人気のない業種については淘汰へと進む。産業構造そのものの変化なくして、4千万人の外国人を受け入れるどころか産業維持すら危うい。
人材に関する課題は「数」だけではない。「質」の課題にも直面している。日本人から外国人旅行者へと比重を移動させていくなか、語学はもちろん、ムスリムやビーガン(菜食主義者)、そして、グルテンフリーといった多様な宗教や哲学等の知識の獲得が急務となる。
それだけではない。オリンピックの食材の調達コードでは、すべての食材に持続可能な生産管理の国際規格であるグローバルGAPを踏襲することになった。日本は、この対応に遅れ、選手村等で日本産食材の使用が危ぶまれている。この多様性や持続可能性といった国際的な価値観は、自然との共生観を有する日本文化が、色濃く持ち合わせているものである。その根底が揺らぎかねない。
現在では、これらの課題に企業ごとに対峙している。しかし、この課題解消には産官学にて取り組むべきだ。現在、私たちは、「食」「農」「観光」、「地方」「都市」「国際社会」とのネットワーク創りに取り組んでいる。どれだけ多くの人と連携できるかが、この課題解消のカギとなる。
(学校法人辻料理学館 辻調理師専門学校企画部長、尾藤環)