
2年ほど前に、デービッド・アトキンソン氏の「新・観光立国論」という本が話題になった。氏の主張は、曰く、「『おもてなし』を受けたくて、日本を目的地に選ぶ外国人は居ない」「治安の良さ、マナーや気配りが目的地選びの決め手になることはない」といういささかセンセーショナルなものであった。大事なことは、あくまでも「観光資源をどう活かしていくかである」と。
それは私たち自身の海外の観光地の訪問動機を振り返ってみれば明らかであろう。日本より治安が悪いと言われていても、スリに遭わないかと身構えながらでも、見に行くべきものがあればそれは承知で訪問するのだ。足繁く通うようになれば、「ぼったくり」にも毅然と異を唱え、「物売り」のあしらい方も自然と覚えるということだ。
さて、「新・観光立国論 実践編」ということで同氏による続編「世界一訪れたい日本の作り方」という本が7月に上梓された。実践編ということで、今度はさらに詳細に、ご丁寧にも大事なところには赤色のアンダーラインまで引かれている。全体を通して述べられていることは、旅行者のために何にお金を投資すれば良いのか、旅行者が何を求めているのかを、国も自治体も企業もよくよく調査し正しく認識することだということだろう。
そんな折、新たな観光財源として「出国税」導入の構想が持ち上がっているという。現在、日本人の出国者と訪日外国人を合わせると、その数は4千万人を超える。仮にすべての出国者から千円を徴収すると400億円を超える財源が集まることになる。
しかしつくづく滑稽に思えるのは、金額の設定を含む徴収方法と、徴収したお金の使い道について、同時に議論している点だ。これはつまり、何に使うか決めてもいないのに徴税するということか。使うべきは、長蛇の列を生み出さないシステムや仕掛けであって、くれぐれも長蛇の列も快適に我慢できる広いロビーなどに大枚をつぎ込まないことを願うばかりだ。
(NPO・シニアマイスターネットワーク理事 株式会社辻料理教育研究所代表取締役、中村和雄)