【シニアマイスター経営の知恵 80】私が忘れられない「もてなしの心」 東洋学園大学講師・元京王プラザホテル人事部部長 近藤昭一


 私は1973年9月から仕事でイギリスのロンドンで2年生活をした。最初の1カ月ほどBed&Breakfastと呼ばれる宿泊施設を利用していた。オーナーはポーランドから亡命されたご夫妻で、第2次大戦時にロンドンに亡命し宿泊施設を始めた。部屋はたった10室。主な利用者は日本人だった。口コミで日本人の間にその存在が知られるようになっていた。ご夫妻とも日本語は全く話せなかった。私たちの会話はお互いのつたない英語だけ。お互いに英語は決して流暢ではなかったが、どうにか意思疎通ができていた。

 ご夫妻は宿泊施設経営のプロではなく、優れたサービステクニックを持っているわけでもなかったが、何かしら私をホッとさせてくれる雰囲気を持ったご夫妻だった。

 ご主人はいつもしかめっ面のような表情で笑顔もなく、必要なことしか話さなかったが、決して嫌な感じはなかった。それは私を1人の人間として敬意をもって接してくれていたからである。奥さんはいつも笑顔を絶やさず、どんな要望にも決してノーとは言わなかった。お客さまを一生懸命にもてなそうという気持ちがいつも伝わってきた。なぜか。それはこのご夫妻が今の仕事をご自分たちの天職だと理解していたからだと私には思えた。

 お2人は仕事を楽しみ、私たちとキチンと向き合ってくれていた。お客さまとどう接するかを自分たちで決め、いつもお客さまに敬意を払い、楽しませる努力を毎日してくれていた。2人は必要なことは全てやってくれたが過度の干渉をすることはなかった。常にお客さまに一番近い存在であり続ける、という気持ちが伝わってきた。お客さまの全ての要望に応えるのではなく、できなければ2次、3次の選択肢をいつも考えていてくれていた。自分たちの受け入れのスタンスを明確に私たちに伝えてくれた。

 私はこのご夫妻が私に示してくれたものがホスピタリティマインドの一つの典型だと思っている。私はこのご夫妻を非常に尊敬している。そしてご夫妻のこのマインドを私のホテルマンとしての心構えの拠りどころとしてお客さまと接してきた。

 (NPO・シニアマイスターネットワーク会員、東洋学園大学講師、元京王プラザホテル札幌総支配人、元京王プラザホテル人事部部長 近藤昭一)
         

 
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