2022年12月に公開されたアニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」は、韓国で記録的な成功を収めた。「THE FIRST SLAM DUNK」は韓国で公開されて以来長期間にわたって興行成績上位の座をキープしており、2023年3月には累積観客381万人を突破して「君の名は」が保持していた韓国の日本映画最高累計観客動員数記録を6年ぶりに更新した。
韓国における「スラムダンク」の人気は、映画館だけにとどまらなかった。映画への反響により開設されたポップアップストアでは連日大行列ができるようになり、原作漫画の新装版はわずか50日で100万部以上の売り上げを記録した。また、何回も同じ映画を観覧するため映画館に足を運ぶという意味の「N次観覧」の流行がもたらされ、映画観覧と好きな選手の応援を同時に行う参加型イベントの「応援上映会」が開催されるなど、「THE FIRST SLAM DUNK」は韓国の映画文化にも大きな影響を及ぼした。「スラムダンク」熱風は単なる映画作品の大ヒットではなく、一種の社会現象に近いものとなった。
韓国のマスコミでは、異常なほどの「スラムダンク」ブームを主導したのは青少年期に日本の大衆文化の影響を強く受けた韓国の30代・40代であると解釈している。90年代の学生時代に日本の漫画やアニメに熱中した世代が購買力を持つようになり、積極的な「思い出の消費」に出ているというのである。
筆者も40代の韓国人であるが、確かに「スラムダンク」はその世代の学生時代へのノスタルジーの中心にあるといえる。当時の韓国の少年たちにとって「ドラゴンボール」を筆頭とする日本の漫画・アニメは最大の娯楽であったが、その中でも「スラムダンク」は特別な意味を持っていた。少年たちは作中に登場する湘北高校チームの5人の活躍に熱狂し、その挑戦に感動し、彼らから理想の人物像を求めた。いうならば「スラムダンク」はただの漫画ではなく、人生指南書に近い存在だった。
韓国における「THE FIRST SLAM DUNK」の人気は、日本の観光を考える上で重要な示唆を与えてくれる。購買力の高い韓国や中国の30代・40代の世代にとって、日本文化の「顔」は富士山や歌舞伎などではなく、青少年期を共にした日本の漫画・アニメなどのコンテンツである。そのため、日本の文化的な「聖地」の意味も従来とは異なる。例えば、彼らに鎌倉は歴史深い神社仏閣の観光地ではなく、「スラムダンク」の聖地として有名なのである。
観光と文化は不可分の関係にあるといわれているが、何をもって日本の「文化」とするかという問題には、観光者の欲求に応じた柔軟な対応が求められる。「観光立国」のスローガンを掲げてインバウンド観光の促進に注力している今、日本の観光が自国の大衆文化コンテンツに注目しなければならない理由はそこにある。
(帝京大学経済学部観光経営学科准教授 権赫麟)