コロナによる宿泊産業の危機が始まり2年近くがたとうとしているが、ようやく薄日が見え始めたようだ。この間さまざまな産業で経営に大きなインパクトを受けた中で、国内のホテル・旅館も残念ながら持ちこたえることができず全国で100を超える施設が倒産や財務基盤の強化でアセット売却など所有継続を断念した残念なニュースが目につく。現在主流なホテル事業者であるファンドやリートの買収合戦が繰り広げられ、さらに所有・経営・運営の分離が進んでいるように思われる。
一方で国家的イベントである東京オリンピックに照準を合わせたホテル開発が進み、2021年に一つのピークを迎えた。地元の北海道・札幌も全国の動きと同じくし、直近5年間で100を超える施設の開業が進み、極小スペースの空地に工事が開始されたと思うと宿泊施設の建設であったことに驚かされたものだ。
コロナ禍で激動する環境下では新聞やネットのネガティブ情報だけが目につく。倒産や人員縮小によりホテル求人数の減少が相まって宿泊業界を志望する学生の落胆は大きく、将来に対する不安により進路を変える若者が多いことも事実である。
その中においても目標を見失わず突き進む有望な学生も存在する。日ごろ大学や専門学校で教える身として思うことは、現実を教えつつ装置産業であるホテル・旅館は厳しい局面になっているとしても新しい事業者にバトンが渡され継続されていくという仕組みも教えていく必要があるだろう。
ホテル・旅館の経営特性を考えたときにさまざまな重要視される点の中でも、長い年月の営業のためには安定的な人材確保が必要とされる労働集約型産業であり、「働く人材が最大の財産」であることだ。40年以上国内外ホテルの経営・運営・開発に携わり最終的に行き着いたことはブランドではなく、良い人材を育成し、業界に輩出することが大事な役目であり、培ったホテルネットワークを活用し、後押ししてあげることも重要ではないだろうか。
地元札幌では新たな開発プロセスが進んでいる。北海道新幹線札幌延伸や1972年以来の札幌冬季オリンピック誘致計画に後押しされ、市内各所で2030年に照準を合わせた大規模再開発のホテル計画が進んでいる。コロナ禍で厳しい環境下に宿泊業界へ巣立った若者が、さまざまなホテルで研さんを積み、経験・知識を携えて、10年後、地元札幌のホテルに凱旋して活躍してくれることを願ってやまない。
(一般社団法人日本宿泊産業マネジメント技能協会会員 北海道宿屋塾副代表 山田芳之)