山あげ祭り(栃木県那須烏山市)
野外歌舞伎を見たことがあるだろうか。私が見た野外歌舞伎は、ただ野外で歌舞伎が演じられるというものではない。舞台が町中を移動するのだ。それは、日本一の野外歌舞伎といわれる「山あげ祭」。450年以上の歴史がある栃木県那須烏山市のお祭りだ。ユネスコ無形文化遺産にも登録されている。神仏への奉納として上演される地歌舞伎の一つである。
山あげ祭は7月下旬の3日間で行われる。開催する町は、宇都宮駅から電車で約50分のところにある。私は「青春18きっぷ」を使って、東京から約3時間かけて現地へ向かった。
演目は1日に5、6回場所を変えて上演される。駅に着いた途端、若者の掛け声が聞こえた。舞台を次の場所へ移動する瞬間だったのだろう。この祭りは、「木頭」という若者を筆頭に、町全ての若衆が中心となって祭りを進行する。ゆっくり上演場所へ向かうと舞台の設置は終わり、山をあげる瞬間だった。
「山」とは、竹を組んだ木枠に、烏山和紙を貼り重ねて山水を描くもの。それを舞台の後ろにあげることから「山あげ」といわれる。
上演時間が近づくにつれ、用意された桟敷席に人が集まった。立見エリアもある。時間になり、「戻橋」が上演される。地歌舞伎は女性も演じることができるのが見どころの一つだ。戻橋は、主人公と出会った美女が、橋の上で本性を見破られたため、鬼女へと姿が変わるというもの。小中学生くらいの男女が演じていたが、大人顔負けの圧巻の演技であった。
さて、舞台の下をのぞくと、若衆たちが舞台を下から押さえている。山の転換も若衆が行う。黒子のような重要な存在だ。山あげ祭には、影として支える若衆の存在が不可欠であることは間違いない。
終演するとすぐに舞台を解体し、次の場所へ移動の準備をする。無駄な動きはなく、裏方とは思えないパフォーマンス。目的は、地歌舞伎を見ることであったが、この若衆の一致団結精神に引きつけられたのは私だけではないだろう。
(かけだしお祭りライター・関さえ子)
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裏方で熱心にリードする影の主役、若衆