【私の視点 観光羅針盤 174】改正入館難民法の成立 北海道大学観光高等教育センター特別招聘教授 石森秀三


 外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法が12月8日未明に参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。施行は来年4月1日。介護業、外食業、建設業、農業、宿泊業などの14業種が対象で、政府は否定しているが、事実上、単純労働分野への外国人受け入れに道を開く政策転換になる。

 日本ではこれまで外国人が就労できる正式な在留資格は高度専門職に限定されてきた。ところが少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少によってさまざまな業種で人手不足が顕著になっている。事実、日本では生産年齢人口が97年をピークにして減少に転じており、業種によって人手不足が深刻化している。

 例えば介護業では5~6万人、宿泊業では2万人を超える受け入れが必要とされている。その結果、経済界の強い要望に応えて新たな在留資格制度の導入が法的に定められた。

 新たな在留資格は、一定の技能があると認定された者に与えられる「特定技能1号」と、熟練した技能があると認定された「特定技能2号」の2種類。在留期間は1号が最長5年、2号は永住にも道が開ける。

 日本ではすでに外国人労働者数が増加しており、08年からの10年間で約80万人が増加し、17年末で過去最高の約128万人に達している。

 そのうち留学生のアルバイトなどの「資格外活動」が約30万人、開発途上国への国際協力を目的とする「技能実習」が約26万人も含まれている。特に技能実習生の場合には、劣悪な待遇が問題になっており、自殺や失踪の多発が問題視されている。

 政府は来年度から5年内に新たに約35万人の外国人労働者の受け入れを想定しており、その結果として日本人労働者の賃金水準の低下につながるという批判もある。また特定技能2号の場合には取得者は公的医療保険や年金などが適用され、家族の呼び寄せや永住も可能になるために「事実上の移民政策」という批判もある。

 早くから移民を受け入れてきた欧州各国では移民の社会保障コストが大きな負担になるとともに、移民によって職を奪われた人々が移民排斥運動を行い、極右勢力が顕著に台頭している。同様の事態が日本の近未来に起こりうる可能性がある。

 いずれにしても、宿泊業など特定業種で人手不足が深刻化しており、外国人労働者の受け入れが不可欠になっている。その際に外国人労働者は単なる「労働力」ではなく、「生身の人間」であるという視点に立って、日本語教育の充実や生活情報の提供など外国人労働者と共生するための各種の方策が必要になる。

 良き隣人として互いを尊重し合う「共生」の思想を欠くかたちで、単なる労働力とだけみなすことによって、日本は大きな不安の火種を抱え込むことになる。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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