
下呂温泉観光協会 会長 瀧 康洋氏
2023年度V字回復へ
先駆的DMOの成功モデルとしてこれまで約100件の講演や各地からの視察を受け入れている下呂温泉(岐阜県下呂市)。今年度は全国旅行支援の終了にあわせて施策を展開。一昨年と昨年と回復基調に乗せて、V字回復を果たしている下呂温泉の状況と今年度の日本版DMO法人としての取り組みを瀧康洋・下呂温泉観光協会長に聞いた。
――今年度の傾向は
瀧 今年度上期は全国旅行支援の終了に注意を払っていた。我々はマーケティングデータが早く上がってくるので、懸念していたような旅行控えのような傾向は見られず、落ち着いた施策を打てた。各地域の状況や宿泊施設の事情もあるので、そこは理解しながら、下呂温泉としては、コロナ禍以前の施策と同様に一年を通じて、平準化するような取り組みを行っている。物価や燃料高騰、円安という状況もあるが宿泊料金が大きく上昇するや、オフ期に飛びぬけて安い料金が出ない努力をしている。8月はお盆期間などに豪雨でキャンセルも出たが、宿泊客数は10万3509人で昨年比123人増えて、2・52%アップした。昨年は国内個人客数が過去最高となっており、それには届いていないが国内団体客とインバウンドの回復で昨年を上まわっている。働き方改革や人材の確保、生産性向上など以前より求められるものが多い中、私の経営する水明館でもトップシーズン中の9月27日と28日を休館日にした。これで約1千人の宿泊客が減ることになるが持続可能な観光や温泉地を考えれば実施しなければならない時代だ。今年度は昨年度より3%の増加を見込んでおり95万人と予想している。高単価の客層が中心となっているので、数を追うような施策は行っていない。インバウンドも東アジアだけでなく、欧米や東南アジアの評価も高く送客も多い。日本国内では、温泉と体験商品は別のくくりにされているが外国人観光客にとっては、化粧水のような温泉に入浴できる下呂温泉の評価は特別な体験として評価が高い。食の評価も高い。飛騨牛や飛騨産の野菜、交通網の発達で新鮮な魚介類も届くなど、非常に満足してもらっている。行程中の食事も下呂で確定することを望まれている。
――持続可能な観光地づくりも順調だ
瀧 2021年から進めているトヨタ生産方式のカイゼンの効果は大きい。シンボリックな事例としては、参加した会員施設で、利益が千倍にアップした企業がある。業務の合理化やコスト削減が顕著に出た。私の経営する水明館では繁忙期の朝食会場にはコンベンションホールを使用していたが、トヨタ生産方式のカイゼンの効果で通常期の朝食会場のレストランで対応できるようになった。特別会場を使わなくなったことで作業の負担も減り、電気代の使用量を減らすことができた。このメリットを従業員や宿泊プランに還元できる。観光DXでは新しい取り組みとして、下呂温泉に関心を持ちそうな層が見るであろうサイトに対して、広告を打ち、かつ、その広告で実際に下呂温泉に訪れるかというところまで追跡する。試験事業として実施してマーケティングのDX化を図る。今年度はマネジメントの比重も大きい。観光マネジメントを実践できていればオーバーツーリズムは起きないという考えを持っており、下呂では需要の拡大に応じて、少し先の受け入れを行っている。組織拡大やインフラ整備も行っている。
――今年度はトピックスも多い
瀧 今年度は嬉しいトピックスも多い。まず講演や視察が100件を越える。講演用資料の更新で、UNWTOのDMOガイドラインと下呂のこれまでの取り組みを比較検証した。世界の成功事例とどれぐらい一致できているかや、下呂独自の取り組み等を見つけることができた。組織づくりや、組織間の業務重複を無くすなど共通点も多い。マーケティングやプロモーションを根拠として、施策を実施するのは下呂の独自性と考えている。とくにマーケティングデータの収集の速さも下呂の特徴だ。
――他のトピックスは
瀧 第24回清流めぐり利き鮎会で馬瀬川上流鮎が日本1となった。小坂の滝は「飛騨小坂~自然のめぐみを体験、滝めぐり、湯めぐり~」として、岐阜県の持続可能な観光の取り組みで、国内外からの誘客が期待できる観光プログラム「NEXT GIFU HERITAGE ~岐阜未来遺産~」として認定された。小坂の滝は、岐阜県の「岐阜の宝もの」第1号として認定を受けており、継続性やブラッシュアップしていることが認められたと思っている。下呂のE―DMOとしての活動がテストマーケティングを終えて、規模が拡大する流れになっている。両地域とも人材確保や人材育成を通じて、組織の規模拡大や受け入れ強化を図ることにしている。
ワーケーションや長期滞在型、ヘルスツーリズムにつながるものとして水明館の「すいめいヘルスクラブ」が温泉利用型健康増進施設の認定を受けた。世界のホテルの基準として、スポーツジムやプールの整備が求められる。水明館は全国的に例が少ない旅館や観光ホテルでありながら本格的なスポーツジム、屋内の温泉プールをすいめいヘルスクラブとして運営している。水明館は夏期営業のレジャープールももちろん備えている。温泉利用型健康増進施設とは、厚生労働省が定める一定の基準を満たし、温泉を利用した健康づくりを図ることができる施設のこと。認定施設を利用して温泉療養を行い、かつ要件を満たしている場合には、施設の利用料金、施設までの往復交通費について、所得税の医療費控除を受けることができる。ワーケーションで必要な設備を保有していても、企業の福利厚生が利用できないことが課題であると聞いており、温泉利用型健康増進施設の認定で、会社員のワーケーション拡大の一助になると考えている。すいめいヘルスクラブは、宿泊客以外も利用できるので地域全体の受け入れ効果もある。
――新しいイベントや観光商品は
瀧 昨年開催して好評だった「Machi―Onフェス」(カーフェスタオールディーズinGERO同時開催)を今年も10月15日に実施。しらさぎ緑地公園の特設ステージで、地元中高生の吹奏楽や高校生によるバンド演奏、太鼓演奏などジャンルが異なる音楽がされる。近年、イベントで人気となるキッチンカー13店舗と、地元屋台も2店舗のが出店。下流側では、昭和の車が集合するカーフェスタオールディーズinGEROを開催。幅広い層に楽しんでもらえる。
9月1日からは参加費無料の「リアル宝探し」イベントを開催している。
2024年1月31日まで下呂温泉周辺で行われおり、下呂温泉の歴史や文化に触れつつ挑む宝探しのイベントとなっている。10月1日から12⽉24⽇までは「下呂温泉郷チルポイントキャンペーン」(ポイントをためて賞品をGET)を展開している。近年、若者の間でSNSを中心に使われる「チル」は2021年の新語大賞にもなり、意味は「ゆっくり、まったり過ごす」。チル旅の旅行先として下呂を選んでもらう取り組みとなっている。下呂市内の「チルスポット」で「LINEポイント」を集めると先着順で下呂温泉湯めぐり⼿形や、下呂温泉の宿泊施設で使える1万円分の宿泊券などと交換できる。下呂市の⾃然と⼈との触れ合いを通じて、チルな休⽇を提案する。
下呂温泉のナイトタイムエコノミーに取り組んだ観光商品も期日限定で初めて発売する。食事と夜のスポット鑑賞や体験がセットになっており、ライトアップされた下呂温泉合掌村や龍神太鼓体験、芸妓体験、鳳凰座地歌舞伎体験を設定した。鳳凰座地歌舞伎体験の設定は貴重な体験であることから他の地域の観光関係者からも高い評価を貰っている。
下呂温泉といえば花火イベントのイメージが強くなってきているが、今年度はコロナ禍以前のような実施に戻ってきている。実施時期も特別な期間は設けず12月と年明けからの冬花火が中心。昨年同様に下呂温泉花火ミュージカル冬公演で有料観覧席を販売する。
――まち歩きは
瀧 スイーツ巡りや食べ歩きも定着し、新しい店舗も登場している。今後は、まち歩きの範囲が広がるように案内や情報発信を進めている。社殿を新築した出雲大社飛騨協会は商売繁盛や縁結びの神様として観光客にすすめやすい。その迎えには下呂の旅館ホテルに飛騨牛や魚介類を卸している株式会社下呂魚介が昨年オープンしたスーパーマーケットの「下呂魚介GGシェフ」もある。下呂温泉の産直市場として展開しており、道の駅のような感覚で手軽に飛騨や下呂の食材、土産品が購入できる。もう少し足を伸ばせば地元メディアに取り上げられた南国風のカフェの「LA.HAINA(ラハイナ)」がある。カフェの前に置いたドラム缶ベンチはオリジナルの製品で、カフェ運営元のガソリンスタンドが開発した空ドラム缶を再生した家具となっており、写真撮影スポットとして人気となっている。
下呂では地域の食材を利用して地域の農産物の自給率を高める動きも行っている。「下呂魚介GGシェフ」だけでなく、下呂温泉街の入り口にあるドライブインの舞台峠観光センターは、飛騨随一の売場面積をもつ舞台峠ファームズとしてリニューアル。これまでのドライブインとしての機能は残し、地元の農作物を数多く販売するようになった。車利用の観光客はもちろん、レンタサイクルでも訪れられる。カラー液晶ディスプレイ、車外表示器にはフルカラーLEDを採用。色の使い方に配慮し、カラーユニバーサルデザイン認証を取得している。
下呂温泉観光協会 会長 瀧 康洋氏