DMOの機能強化、チャレンジの好機 観光庁観光地域振興部長 長﨑敏志氏に聞く


観光庁観光地域振興部長 長﨑敏志氏

 地域の持続可能な発展を支える観光の在り方が問われている。観光地域づくりのかじ取り役が期待されるDMOは、観光庁が登録制度を創設して今年で10年を迎えるが、さらなる機能強化の必要性が議論されている。好調が続くインバウンドの地方誘客も喫緊の課題だ。DMOの形成や高付加価値なインバウンド観光地づくりを担当する観光庁観光地域振興部長の長﨑敏志氏に施策の展開を聞いた。【聞き手=向野悟】

DMO登録、要件見直しで機能強化

 ――DMOの全体の底上げに向けて議論を進めているが、なぜ今、機能強化が必要なのか。

 DMOに関しては、長年の課題である観光地域づくりの中核を誰がどのように担うのか、さまざまな議論があり、観光庁では2015年11月に登録制度を創設し、各地での形成を支援してきた。これまで各DMOは従来型の体制を脱皮しようと組織づくりに注力してきたと思うが、今、インバウンドの地方誘客や、地域経済を拡大するための消費拡大、そして持続可能な観光地域づくりが重要な課題となっている。組織づくりの段階をそろそろ卒業して、課題を解決する中身の方に入っていくべきではないか。これが今、「観光地域づくり法人の機能強化に関する有識者会議」を設置して進めているDMOの機能強化の議論だ。

 ――過去にも登録制度の厳格化などを行ってきたが、今回の見直しの方向性は。

 DMOの目的や使命、役割を明確化し、組織体制、財源などについて、きちんと機能するよう登録制度の登録要件を見直す。各DMOがどういう機能を果たすのか、まずは戦略性を整理してほしいということで、中長期4~5年間の観光地経営戦略の策定の義務化など、登録要件の見直しを検討している。3年ごとの登録更新にも不十分なところがあり、一定の審査の中で機能していないDMOについては、しっかり対応してもらう形が必要と考えている。更新に際して研修を行うことも検討している。単に登録、更新の要件を厳しくするということではなく、実態に即してあるべき機能を議論している。観光庁としても、DMOが有効に機能するよう支援を強化していく。

 ――中長期の観光地経営戦略の策定を改めて求める狙いは。

 観光地経営戦略に基づいて、受け入れ環境整備やプロモーションを着実に実施してもらう必要がある。詳細を詰めているところだが、KGI、KPIもしっかり設定してもらい、収集、分析したデータに基づいてPDCAサイクルを確立し、成果が上がるようにする。DMO本来の目的は観光を通じた地元への貢献。持続可能な観光地域づくり、地域経済の活性化、その実現に向けてあらゆる関係者が一体となって取り組んでもらえるようにしたい。

 ――DMO全体の底上げの一方で、「先駆的DMO」を選定している。

 先駆的DMOは、目指すべきDMO像が登録要件だけではイメージがつかないので、一定の基準を満たすDMOを選定している。現在は、田辺市熊野ツーリズムビューロー(和歌山県田辺市)、京都市観光協会(京都市)、下呂温泉観光協会(岐阜県下呂市)、白馬村観光局(長野県白馬村)の4団体。先駆的DMOを支援し、その好事例をDMO全体に普及していきたい。将来的には世界に冠たる「世界的なDMO」を形成できるよう、DMO施策について今後も議論していく。

 ――DMOの運営、優秀な人材の獲得に向けて安定的な財源の確保も課題。今、各地で宿泊税の導入が検討されている。

 観光地経営戦略を進める上で安定的な財源を確保できているのかは重要だ。宿泊税に関しては、国がこうすべきだというのは控えるべきだが、DMOの役割を含めて、安定的な観光財源に関する議論が各地で行われていること自体は非常にありがたいことだと思う。

高付加価値な観光地づくりで訪日客の地方消費拡大へ

 ――観光庁は、地方を活性化させる施策として「高付加価値なインバウンド観光地づくり」も進めている。

 地方におけるインバウンド消費額拡大の中核をなす取り組みで、14のモデル観光地を選定している。モデル観光地には、いわゆる富裕層が1回の旅行において着地で100万円以上消費するに値する観光資源があり、DMOなどの組織体がマーケティングからプロデュースまできっちり行う土台がある地域を選定した。各モデル観光地ではマスタープランを策定し、具体的にプロデュースしていく段階に入っている。生み出す価値をよりリアルに設定し、それを実現するための取り組みを進めてもらっている。モデル観光地が一堂に会する報告会も開催しており、各地域がお互いを高め合えるようにしたい。

 ――「高付加価値なインバウンド観光地づくり」は、高額商品の造成、高級ホテルの誘致が目的なのか。

 「高付加価値なインバウンド観光地づくり」は、ウリ(滞在価値、コンテンツ)、ヤド(宿泊施設)、ヒト(人材)、コネ(販売、ネットワーク)を課題に取り組んでいる。美しい自然があるとか、優れた文化財があるとか、地域にそういうウリがあっても、その地域の価値を本当に旅行者が感じられるのか、楽しむことができるのか、そうした視点に立って、コンテンツなどを磨き上げるのが目的だ。もちろんヤドは重要だが、ブランド力のある宿泊施設を誘致できたから良かったというのは一面に過ぎる。地元のウリを生かした自己プロデュースが大切だ。ローカルガイドや2次交通の確保も課題。着地型観光を追求していくとなれば、DMCという機能も必要になる。まだまだ課題は多いので地域の取り組みをしっかり支援していく。

 ――結びに、新しい年を迎えて地域や産業界へのメッセージを。

 私が観光庁の観光資源課長だった2014~16年の頃からすると、隔世の感がある。2013年にインバウンドが初めて1千万人を超え、2015年が1974万人だった。8年ぶりに観光庁に戻ってきたら、インバウンドは過去最高のペースで増加しており、登録DMO数も312団体に上っている。劇的に変わったと感じる。

 コロナの大変な時期を乗り越え、インバウンドが伸びる中、今はチャレンジに絶好の時期だ。国の観光予算もありがたいことに充実してきており、新しいことに取り組む素地はできている。このチャンスを受け身ではなく、よりアクティブにとらえ、一層の果実を獲得してほしい。観光関係者が前向きに自己プロデュースに取り組むことで、地域や産業界に相乗効果が高まるようになればいい。皆さまにそういう思いで取り組んでいただきたい。観光庁としてもしっかりご支援していきたい。


観光庁観光地域振興部長 長﨑敏志氏

 
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