公益財団法人東京観光財団(TCVB)は10月21日、第4回TCVBミーティング「選ばれる観光事業者になるために 自社の強みを体験価値に変えるノウハウとヒント」を東京都新宿区で開いた。講師は2名。INDIGO合同会社代表で元静岡ツーリズムビューロー(TSJ)ディレクターの府川尚弘氏が第1部で基調講演。世界的な最新の旅の潮流や傾向を読み解きながら、既存の地域産業、日本茶やスポーツサイクリングを活用して高付加価値化したプロダクトの開発など、府川氏自身が地域で実現した事例を紹介した。第2部の対談には、府川氏に加えて、エクスぺリサス執行役員エグゼクティブマネージャーで元地球の歩き方総合研究所事務局長の弓削貴久氏も登壇。自社や地域の強みを体験価値に変えた事例から、コンテンツの磨き上げ、事業間連携から販路開拓などのノウハウとヒントを両名の対談の中で提供した。
会場は野村カンファレンスプラザ新宿。時間は15時30分から17時30分で、受付は15時開始。参加費はTCVB賛助会員が無料、一般(非賛助会員)が1名5,000円。定員は35名程度で、オンライン・アーカイブ配信はなかった。
三木次長があいさつ「付加価値を高め、他社との差別化を図る」

三木氏
冒頭、東京観光財団観光産業振興部の三木元次長があいさつした。
TCVBミーティングは、観光業界の最新の動向や先進事例を共有し、参加者同士の連携や事業展開を促進することを目的に、年10回ほど開催している。
三木氏は、旅行者のニーズがモノ消費からコト消費へ移り変わる中、体験コンテンツの市場は国内外で拡大していると述べた。同財団が運営する事業者向けの相談窓口「ワンストップ支援センター」には、体験事業者から情報発信や集客に関する相談が、飲食業や宿泊業から訪日客に向けた体験コンテンツの開発に関する相談が、それぞれ多数寄せられているという。
そのうえで、三木氏は次のように語った。
「単に商品を作るだけではなく、いかに付加価値を高め、他社との差別化を図るかというところが、旅行者から選ばれ続けるためのポイントであるというふうに我々認識している」
府川氏「選ばれるという発想は違う。選ばれると、欲しくないお客様も選んでくる」

府川氏
第1部の基調講演で、府川氏は、アジア太平洋観光協会(PATA)の予測として、日本の旅行伸び率はPATAが管轄するアジア太平洋地域を含め、世界でも3番目ぐらいにこれからも伸びていくと説明した。世界の人口はアジアが最大で、そこに住む人々が旅に出られるようになったことが世界の旅の人口を押し上げているという。昨年の訪日外国人旅行者は4200万人で、東アジア、東南アジアの割合が多い。2013年に日本がビザを緩和するまでは、これらの客層がビザなしでは来られず、旅行市場が伸びにくかったと述べた。
府川氏は訪日市場について、山に例えれば山の高さは変わらないが、裾野がすごく広くなったと表現した。初訪日の割合は拡大し、アジアを中心にリピーターも増えている。旅行動機や興味が広がっているという認識だ。
自身の経歴としては、1990年代にインバウンドの仕事から入り、2000年代に海外の政府観光局やプリンセスクルーズ、キュナード客船の日本向け広報を手がけたと紹介。2017年からは静岡県のインバウンドマーケティングを担うディレクターを、4年ほど務めた。
日本茶ツアーは静岡市内5連泊、体験消費は60万~70万円
府川氏が支援する駿河企画観光局は、高付加価値というより動機が高い層を狙う展開をしている。
日本茶ツアーはカリフォルニアのセレクトティーショップと組み、静岡市内に5連泊して日本茶を楽しむ内容だ。万人受けはしないが、日本茶をもっと深く知りたい層に5日間すべて、地域の人と一緒の日本茶プログラムを提供する。往復の航空運賃を除き、60万~70万円ほどの体験消費になるという。
府川氏は、ショップの有力顧客を押さえ、地元の職人と過ごす時間が、どこでも体験できない価値になると説明した。ガイド不足はどこの地域も共通で、自身も最初のツアーではガイドとして現場を担当した。
さらに富士宮市のエコツーリズムを提供するパートナーと北斎のテーマでつなぐことで、同様のパッケージをフランスなどに波及させられるとした。
府川氏は、自治体、事業者、広告メディア、旅行会社の努力を地域に持ち帰るには、中心に「ツアー商品」を据える必要があると強調した。
夏の「茶氷」には地域内の60を超える店が同じ名称で参加し、3年前からはアフタヌーンティーも始めている。
アドベンチャートラベル、顧客の約7割は40代以上
観光庁の第5次観光立国推進計画(4月発表)は、特定のテーマとしてアドベンチャートラベルとガストロノミーツーリズムを指定している。
府川氏は、北米最大の観光マーケティング会社MMGYの資料をもとに世界の潮流を紹介した。
- アジアなどで中流層が旅行に行けるようになっており、高付加価値ばかりでは手の届かない価格帯が増える
- AIの普及で、個人のテーマやニーズに応じた個人主義が発展している
- 世界クラスのイベントがあっても、期間中は一般旅行者が避ける傾向がある。米国でのFIFAの大会では、会場の一つのシカゴで期間中の旅行者が減ったという
- 富裕層は環境志向が強い
- 人と人とのつながりが、地域のロイヤリティプログラムのようになっている
アドベンチャートラベルは、自然体験と文化のうち2つが入っていれば該当する。要素には新しい体験、ウェルネス、地域貢献、自己刷新などがある。調査では67%が、アドベンチャーのアクティビティが入った旅をしたいと答えており、ハードな体験に限らない。顧客層は統計上、40代以上が約7割を占める。人気のアクティビティの最上位は料理や美食だという。
長野県ではスポーツレベルのサイクリングに文化プログラムを組み合わせ、女性だけのツアーも実施している。
府川氏は、東京の事業者にTCVBの宣伝への積極参加を呼びかけた。ただ、「選ばれる」という発想には異を唱え、次のように述べた。
「選ばれてしまうと、皆さんが欲しくないお客様も選んできます」
欲しい顧客に、その人が求めるものを届け、顧客の感覚を刷新する体験を地域内で共有する。そのためにTCVBはマーケティングとマネジメントを、事業者はプロモーションと需要の受け取りを担うのがよいと提案した。
弓削氏「メディアは記事にできるものを探している」

弓削氏
第2部の対談で、弓削氏は商品造成、情報発信、販路開拓、求められるコンテンツの4テーマを軸に語った。
情報発信では、メディアが探しているのは「良いもの」ではなく「記事にできるもの」だと指摘した。取材される条件は、絵になる、一行で言える、読者が真似できる、季節や時間が決まっている、人の顔がある、の5点。旅行会社が仕入れる条件は、使える写真がある、アドバイザーが一言で説明できる、料金・所要時間・予約方法が明示されている、催行日と時間が決まっている、会いに行ける当事者がいる、の5点で、ほぼ重なる。
媒体は目的の段階で使い分ける。
- 見つけられる段階:SNS、ガイドブック、JNTO、海外メディア
- 比べられる段階:Googleビジネスプロフィール(英語)、Tripadvisor、自社英語サイト。決め手は写真と口コミ数
- 個人が買う段階:OTA
- 法人が買う段階:レートシート、商談会、FAMトリップ
AI時代は「検索される言葉」から「引用される事実」へ移るとした。「歴史ある」「風情がある」「こだわりの」は要約で消えやすく、「発祥」「日本で唯一」「四代目」「創業100年」といった固有名や数字が残りやすい。英語で置くべき事実は、料金、所要時間、最少催行人数、集合場所、キャンセル規定、食事制限への対応だ。
府川氏は、日本の旅行者の関心が地理を超え、テーマや興味に基づく単品の体験をつなぐ旅に変わっていると述べた。北米の友人の息子が、池袋パルコのゲームの展示イベントを起点にAIで周辺の店を調べ、1日を組み立てた実体験を紹介した。
販路では、B2Cの棚の勝負どころは口コミ数と写真、即時予約で、手数料は20~30%が相場。B2Bの棚は直前変更や個別対応、取引条件が問われる。富裕層はB2Bの棚で扱われる。
府川氏は、最初に組むべき相手は地域内で資源を素材にし、単品商品に企画できる地元のDMCやランドオペレーターだと答えた。次に、日本全国を扱い、海外のツアーオペレーターに提供できるDMCと組むべきだとした。独自の強みを持つことで、ポジショニングができるとも述べた。
振り返りで弓削氏は、磨き上げる人には「足すのをやめる」、造成に着手する人には「作る前に売り先を一人決める」ことを挙げた。明日やることとして、次の3点を示した。
- うちの当たり前を3つ書く
- 「見せる」を「やらせる」にする
- 英語のレートシートを1枚つくる
弓削氏は「日本の伝統文化は掘り下げれば掘り下げるほどいい。自信を持っていきましょう」と話した。
質疑応答、オーバーツーリズムにも言及
弓削氏(左)、府川氏(右)
質疑応答ではオーバーツーリズムなどに関する質問がでた。府川氏は、観光庁の宿泊統計で上位5都道府県が約65%を占めると指摘。対策より新しい需要の創出が大切だとし、トップ層の口コミで訪問先を広げることが重要と指摘した。弓削氏は、混雑が起きているのは京都と浅草くらいではないかと述べ、マスコミに流されず自らの価値観で対処すべきだとした。
AIの活用については、両氏とも避けて通れず活用すべきだとの考えを示した。
【kankokeizai.com 編集長 江口英一】




