傘をシェアリング 使い捨て防ぎごみ抑制
旅先で、突然の雨に降られた経験は誰にでもあるだろう。駅を出た瞬間に空が暗くなり、コンビニに駆け込んでビニール傘を買う。その傘は帰りの電車で邪魔になり、宿の傘立てか駅のごみ箱に置き去りにされる。私はこの光景を、観光が抱える小さな、しかし確かな損失だと考えている。
私たちは傘のシェアリングサービス「アイカサ」を運営している。駅や商業施設に設置したスポットで傘を借り、別のスポットに返せる仕組みだ。もともと通勤や通学の利用を想定して始めたが、上野の美術館や博物館、渋谷の観光案内拠点、お台場を結ぶゆりかもめの各駅、成田空港からの玄関口となる京成上野駅など、観光需要の高い場所でも国内外の旅行者に使われるようになった。
旅行者にとって傘は、使うのは移動中のほんの一時で、その後はずっと荷物になる典型的な品目だ。必要な区間だけ借りて、目的地で返す。この使い方は観光と極めて相性がよい。手ぶらで街を歩きたい旅行者、荷物の多いインバウンド客ほど、その価値を実感してもらえると感じている。傘を持ち歩かなくてよい安心感は、旅の自由度をそのまま広げてくれる。
そして観光地には、雨で体験が損なわれやすい場所が多い。城郭や寺社仏閣、商店街、美術館の間を歩いて巡るまちなか。屋外を歩く時間が長いほど、突然の雨は旅の記憶を塗り替えてしまう。予定していた散策を諦め、雨宿りに時間を費やした記憶は、その土地の印象として残る。
私たちは今後、空港や新幹線駅といった旅の起点と、こうした「歩いて楽しむ」観光地への展開に力を入れたい。
もうひとつ、忘れてはならない視点がある。使い捨てのビニール傘は、観光地のごみになり、処理の手間も地域に残る。景観を守り、持続可能な観光を掲げる地域にとって、傘を「買って捨てる」から「借りて返す」に変えることは、小さくとも目に見える取り組みになるはずだ。
課題もある。観光地の施設は第三セクターや行政が管理していることが多く、設置までに時間がかかる。自治体や観光協会、施設の皆さんとの対話から、導入は始まる。私たちだけでできることは限られている。だからこそ、雨の日に旅行者が困っている場所を、地域の皆さんと少しずつ減らしていけたらうれしい。宿泊、運輸、行政、それぞれの立場から一緒に考えられることがあると思う。
雨は防げない。だが、雨の日でも旅を楽しむことはできる。傘一本で良い旅の続きを守れる街を、観光に携わる皆さんと増やしていきたい。

丸川氏




