熱海駅から熱海港へ向かうため、熱海後楽園行きのバスに乗りました。観光客でにぎわう駅前を抜け、急な坂道を下っていくと、やがて視界が開け、相模湾が見えてきます。お宮の松のそばを通り、サンビーチや親水公園を横目に海沿いを走ると、熱海港に到着。初島行きの高速船に乗り継げます。
熱海は山と海が近接する街です。熱海駅の標高は約70メートル。熱海港までは直線距離で約1.5キロと近いものの、バスは坂道を下りながら迂回(うかい)するため、15分程度かかります。観光シーズンには道路が激しく渋滞することもあり、所要時間を見通しにくいのが難点です。
そこで浮上しているのが、ロープウェイの導入構想です。熱海駅から海岸部を経由して熱海港方面を結ぶルートについて、熱海市が整備へ向けて検討を開始しました。
導入候補とされているのは「自走式ロープウェイ」です。米国のスウィフト・シティーズ社が開発する「ウッシュ」というシステムで、小型車両がケーブルとレールを組み合わせた走行路を走ります。一般的なロープウェイと異なり、ルート上にカーブを設けることができるのが長所です。
熱海市では、海岸沿いにLRT(次世代型路面電車)を導入する構想もありました。しかし、交通量の多い熱海の道路にLRTを導入するのは難しいという問題があります。また、急勾配への対応にも課題があるため、熱海駅への乗り入れも困難とされていました。
一方、ロープウェイなら道路の上空を活用でき、道路渋滞の影響を受けません。高低差のある地形にも対応できるため、熱海のような街には適した交通手段といえそうです。移動中に海を眺められれば、それ自体が観光の魅力にもなるでしょう。
もっとも、ウッシュは新しい技術であり、海外でも営業運転の実績はありません。熱海市の構想についても、具体的なルートや事業費など、何も決まっていません。安全性や採算性をはじめ、検証すべき課題は多く、実現できるかどうか定かではありません。
それでも、坂が多く、道路の拡幅も難しい熱海では、ロープウェイが有力な交通手段の一つになる可能性はあります。駅から港だけでなく、市内に張り巡らされれば、観光客だけでなく、地元の人にとっても便利になるでしょう。
(旅行総合研究所タビリス代表)




