リクルートの観光に関する調査・研究、地域振興機関「じゃらんリサーチセンター」(JRC)は10月28日、一般財団法人熱海観光局と連携し、静岡県熱海市が観光戦略に掲げる「需要の平準化」に向けた宿泊施設の商品づくり支援の取り組みを発表した。共通企画「まだ終わらない夏」では42施設が計99の宿泊プランを造成。同じ期間の熱海市全体の「じゃらんnet」宿泊予約は、平日が前年同曜日比12.0%増となった。
対象プランの予約では、約8割が重点とした平日(月~金曜日)の宿泊だった。予約者の4割超が、ターゲットの20~30代だった。

地域の方針を宿の商品にまで落とし込む
取り組みの特徴は、地域全体の方針を個々の宿の商品にまで落とし込んだ点だ。
JRCは「じゃらんnet」のクチコミデータを、地域全体から個別の宿まで同じ切り口でAIを用いて分析した。各宿の強みや改善余地、ターゲットに合うプラン案や告知文案を「AIクチコミ診断書」として宿ごとにまとめた。
診断書は宿泊施設向けの勉強会で個別に配布された。各宿は自館の仮説と照らし合わせて商品を検討している。
対象期間は2026年8月25日(火)~9月18日(金)のチェックイン分。平日は月~金曜日と定義している。
年間約350万人が宿泊、課題は繁閑の差
温泉や海、豊かな自然景観に恵まれた熱海市は、年間約350万人が宿泊する国内有数の観光地だ。
一方、宿泊需要は週末や連休に集中しやすい。時期や曜日による繁閑の差をいかに小さくするかが課題となっている。
「熱海市観光基本計画2026–2030」は、需要の平準化を重要目標達成指標(KGI)に位置付けた。時期ごとに来訪・宿泊している層と少ない層を分析し、強化する時期とターゲットを定めている。
今回は、夏から秋へ需要をつなぐ9月の平日を重点時期とした。大学生を含む20~30代を主なターゲットに据えた。
ただし、地域として方針を定めても、宿の商品や販売に反映されなければ需要は動かない。客層や強み、運営体制が宿ごとに異なるなか、地域の方針と各宿の個性をどう両立させるかが問われていた。
そこでJRCと熱海観光局は、AIによるクチコミ分析を起点に、地域の戦略を宿ごとの具体的な打ち手へ落とし込む進め方を設計した。
分析から診断書、勉強会、プラン造成へ
取り組みは、次の流れで進んだ。
- AIによるクチコミ分析
- 「AIクチコミ診断書」の作成
- 宿泊施設向け勉強会
- 宿泊プランの造成と宿連携プロモーション
役割分担は明確だ。熱海観光局が重点時期とターゲットを示し、JRCがクチコミの分析と診断書の作成を担った。各宿はそれを自館の商品に落とし込んだ。
AIは分析と診断書づくりに活用された。どのプランを売り出すかは各宿が判断している。地域の方針という共通の土台の上で、各宿が自館らしい答えを出せるようにしたことが、この進め方の要点だ。
分析では、既存の「じゃらんnet」のクチコミデータを整備した。朝食・風呂・接客などの「テーマ」、年代・利用シーンなどの「属性」、月・季節などの「時期」を掛け合わせて分解した。
まず地域全体の強みと改善余地を把握した。同じ切り口で個別の宿を分析することで、地域全体や同じ宿種別との比較から各宿の特徴が見えるようにしている。AIは分析だけでなく、強みや改善余地の整理、ターゲットに合わせたプラン・訴求案の具体化にも使われた。
受け取ったその日から検討に入れる診断書
分析結果は宿ごとに「AIクチコミ診断書」にまとめられた。
記載項目は、自館の強みと改善余地に加え、プラン名、対象、販売時期、食事条件、特典、掲載に使う写真の方向性、掲載文・告知文のイメージ。受け取ったその日から商品づくりの検討に入れる内容とした。
2026年6月2日の勉強会

2026年6月2日(火)、宿泊施設向けに「閑散期をチャンスに変える 熱海エリア宿泊戦略セミナー」を開催した。
熱海観光局が重点時期とターゲットの方針を説明した。JRCは地域全体のクチコミ傾向を説明した。
その後、参加者はまず自館の強みと打ち手の仮説を考えるワークに取り組んだ。その上で封筒に入った自館の診断書を開き、AIの分析結果と自らの仮説を照らし合わせた。
診断書の提案は、仮説を広げるための材料という位置付けだ。どの提案を取り入れるかは、各宿が自館のサービスや運営条件を踏まえて判断する。地域の方針は共有しながらも全施設に同じ内容は求めず、宿ごとの個性を生かすことを重視した。
42施設・99プラン、平日が79.4%
勉強会後、各宿は共通企画「まだ終わらない夏」の下で宿泊プランを造成した。熱海観光局は宿と連携し、特設ページ(LP)や宿泊クーポン、縦型ショートドラマ動画を組み合わせてターゲットに向けたプロモーションを展開した。
企画には42施設が参画し、計99の宿泊プランが販売された。
対象期間の対象プランの予約では、79.4%が重点時期とした平日(月~金曜日)の宿泊だった。予約者の43.9%を、主なターゲットである20~30代が占めた。
年代別では、学生を含む20~24歳が5歳刻みで最も多い層となった。取扱額は1,900万円を超えている。
対象は、対象期間の対象プラン予約(キャンセルを除く)。年代は予約者の年代である。
地域で定めた時期とターゲットに沿ったプランが実際にその層に選ばれたことは、「需要の平準化に向けた手応えと捉えています」としている。
熱海市全体の平日予約は前年同曜日比12.0%増
同期間の熱海市全体の「じゃらんnet」宿泊予約をみると、平日(月~金曜日)の予約は前年同曜日比12.0%増となった。
予約全体に占める平日の割合も、前年の69.6%から71.9%へ2.3ポイント上昇した。
この数値は、対象プランを含む熱海市内の「じゃらんnet」宿泊予約全体が対象。対象期間の月~金曜日を前年同曜日と比較している。
担当者のコメント

リクルート じゃらんリサーチセンターの松本百加里研究員は、次のようにコメントしている。
今回最も大切にしたのは、地域の戦略を「宿が実際に売り出せる形」にまで落とし込むことです。地域で目標を共有できても、各宿のプランや発信に置き換える段階で止まってしまうことは少なくありません。そこでAIで地域全体と個別の宿を同じ物差しで分析し、自館の強みを地域の中で捉えられるようにしました。
最終的に何を売るかを決めるのは宿の皆さまです。AIの提案を出発点に、それぞれの宿が自館らしいプランを形にしてくださったことが、42施設・99プランという広がりにつながったと感じています。今後は、同じ課題を抱えるほかの地域でも生かせる進め方として磨いていきたいと考えています。
熱海観光局の上田和佳CEOは、次のようにコメントしている。
熱海市観光基本計画では、宿泊需要の平準化をKGIに掲げています。その実現には、宿泊動向や課題を把握し、観光局の戦略を宿泊事業者の皆さまと共有しながら、地域一体となって取り組むことが重要だと考えています。
今回のセミナーでは、閑散期とターゲットを明確にした上で、クチコミデータやAIを活用し、各施設の強みを生かした宿泊プランづくりに、地域共通のテーマの下で取り組むことができました。
今後も、今回の取り組みの成果を地域全体で共有・検証しながら、各施設の商品づくりや販売促進を継続的に支援し、宿泊需要の平準化につなげていきます。




