東京商工会議所は8月24日、会員企業を対象とした「災害・リスク対策に関するアンケート」の調査結果を公表した。
地震時の電気火災を防止する「感震ブレーカー」を設置している企業は10.7%にとどまり、5割超が自社の設置状況を把握していないことが明らかになった。また、設置していない企業のうち44.2%が「設置を検討したことがない」と回答。電気火災対策の遅れが浮き彫りになった。
調査は、東京商工会議所が東京都と2014年5月に締結した「東京の防災力向上のための連携協力に関する協定」に基づき、会員企業の防災対策の実態把握を目的として毎年実施しているもの。今回の調査期間は2026年4月20日から5月8日で、会員企業13,156件を対象にメールおよび郵送で調査票を送付し、オンライン・FAX・メールで回答を回収した。回答件数は1,381件(回答率10.5%)。
BCP策定率は約4割、中小企業は3割に届かず
事業継続計画(BCP)の策定状況については、全体の策定率が38.2%にとどまった。策定中または検討中の企業を加えると5割超となる。
企業規模別に見ると、大企業の策定率は74.3%と高水準である一方、中小企業の策定率は29.9%と3割に満たない。BCP・防災計画のいずれも未策定の中小企業は29.3%で、前回調査(2025年調査)の数値からは微減となった。中小企業のBCP策定率は2022年の22.6%から、2023年27.6%、2024年28.0%、2025年28.2%、2026年29.9%と増加傾向にあるものの、依然として低水準にある。
BCP策定済み企業の取り組み状況としては、「見直しを行っている」が66.5%、「社内への周知を行っている」が63.7%、「訓練を行っている」が51.3%と、約5割超が見直し・周知・訓練を実施している。一方、企業規模別で比較すると、見直しの実施率は大企業が85.8%に対して中小企業は55.4%、訓練の実施率は大企業が75.3%に対して中小企業は37.5%と、30ポイント超の差が生じている。
BCP策定済み企業からは「外部環境の変化や複合災害への対策として過去に策定したBCPの見直しを行っている」「実効性のあるBCPを策定するだけでなく、従業員の意識改革や教育も必要と考えている」「策定したBCPが、災害時にどの程度機能するか分からず不安である」といった声が寄せられた。
未策定企業からは「BCPについて漠然とは理解しているものの、具体的にはどう策定すればよいか分からない。結果として、緊急連絡網の策定や災害時用の備蓄に留まっている」「国や自治体で、BCP推進に関する補助金等を手厚く設定していただきたい」との声も上がっている。
「備えが必要なリスク」は地震が9割超、火山噴火への懸念が急増
「備えが必要だと感じるリスク」について、BCP策定済み企業・BCP未策定企業ともに最多は「地震」で、いずれも9割を超えた。
BCP策定済み企業の回答では、地震(98.9%)に次いで情報セキュリティ(85.4%)、感染症(82.3%)、水害(72.6%)、火山噴火(49.4%)と続く。
特に火山噴火については、前回調査の36.0%から49.4%へと10ポイント超の増加となった。また、情報セキュリティと火山噴火は「備えが必要だと感じるリスク」と「BCPで実際に想定しているリスク」との乖離が他のリスクよりも大きく、情報セキュリティの「BCPで想定」は41.9%、火山噴火は19.2%にとどまった。認識と実際の対策準備との間のギャップが課題として浮かぶ。
BCP・防災計画未策定企業でも、地震(92.3%)、感染症(63.1%)、情報セキュリティ(62.2%)、水害(46.9%)、火山噴火(29.8%)の順で備えの必要性が認識されていた。
感震ブレーカー、設置わずか1割 5割超が状況「分からない」
今回の調査で新たに追加された感震ブレーカーの設置状況に関する設問では、設置していると回答した企業は全体の10.7%にとどまった。「設置していない」は35.8%、「分からない」は53.5%と、過半数が自社の状況を把握できていない実態が明らかになった。
大企業では設置率14.8%、「分からない」は45.8%。中小企業では設置率9.9%、「分からない」は55.0%と、中小企業でより把握状況が低い。
感震ブレーカーを設置していない企業にその理由を聞いたところ、「設置を検討したことがない」が44.2%と最多。次いで「自社の判断では設置できない」が25.8%、「検討したが、コストが負担できない」が11.5%、「業務・建物設備特性をふまえ設置不要と判断」が10.5%と続く。「導入予定・検討中」は3.8%にとどまった。
なお、回答企業のうち自社で物件を所有している企業は32.9%で、67.1%は賃貸ビル等となっており、自社判断で設置できない企業が一定数存在する背景となっている。
感震ブレーカーとは、地震発生時に設定値以上の揺れを感知した際、ブレーカーやコンセントなどの電気を自動的に止める器具。不在時や避難する余裕がない場合に電気火災を防止する有効な手段とされる(経済産業省)。
従業員向け備蓄は5割超、外部向けは1割程度
3日分以上の飲料水・食料を従業員向けに備蓄している企業は、飲料水55.7%、食料50.4%と約5割超。一方、外部の帰宅困難者向けに3日分以上の飲料水・食料を備蓄しているのは飲料水13.6%、食料11.6%と1割程度に留まった。
企業規模別では、従業員向けに3日分以上の飲料水を備蓄している大企業が85.3%に対し、中小企業は49.3%。食料では大企業84.7%に対して中小企業42.2%と、大企業と中小企業の間で大きな差が生じている。
備蓄をするうえでの負担項目については、「保管スペースの確保」が76.3%で最多。次いで「備蓄品の管理(在庫管理・賞味期限管理等)」が63.5%、「備蓄品の購入・買替費用の確保」が47.7%と続く。「保管スペースの確保」は大企業(87.1%)・中小企業(73.7%)ともに最大の負担項目となった。
企業からは「備蓄品は、購入や買替えだけでなく、廃棄処分の費用負担も大きい」「中小企業にとって、備蓄品の確保は従業員分のみでも厳しく、外部までは対応できない」との声が寄せられた。
富士山噴火、7割超が懸念 「公共交通機関の麻痺」「停電」「物流停止」が8割超
富士山噴火(広域降灰)による影響を「非常に懸念している(事業停止の恐れがある)」と回答した企業は28.6%、「ある程度懸念している(一部業務に支障が出る)」は46.0%で、合計7割超が懸念を示した。
富士山噴火により事業継続への影響が想定される事象としては、「公共交通機関の麻痺(出勤困難)」が86.6%、「停電」が84.6%、「物流の停止(道路閉鎖、車両故障)」が80.7%といずれも8割を超えた。以下、「従業員の健康被害」71.9%、「浄水場や下水道の機能停止」62.7%、「精密機器・OA機器の故障」56.7%と続く。
「富士山噴火は他のリスクと比べ対策が進んでいない。被害見込みや復旧想定の情報を収集し、対応事項の検討を進めたい」との企業の声も記録されている。
サイバー攻撃、「被害なし」は約6割に減少 取引先経由の被害が急増
サイバー攻撃の被害経験については、「被害・影響を受けたことはない」と回答した企業は61.0%で、2024年調査の70.9%から約10ポイント低下した。
特に「取引先や委託先が被害を受け、自社業務に影響したことがある(物流の途絶、自社の情報漏洩等)」と回答した企業は19.9%で、2024年調査の8.7%から10ポイント超の急増。「被害を受けたか分からない(体制が不十分で被害を検知できない等)」は10.0%、「自社がサイバー攻撃を受けたことがある」は9.7%だった。
企業規模別では、「被害・影響を受けたことはない」が大企業43.3%・中小企業64.9%。「自社がサイバー攻撃を受けたことがある」は大企業20.9%・中小企業7.5%と、大企業での被害経験が顕著に高い。
「サイバー攻撃によるリスクの増大に伴い、サプライチェーン全体への影響も想定されるため、一社単独ではなく、他企業・官民連携による対策が必要と感じる」「取引先がランサムウェア攻撃を受け、商品の出荷が停止となる影響が生じた」との声が寄せられた。
東京都の条例・制度の認知、依然として低水準
東京都条例で作成が義務付けられている事業所防災計画については、「内容を含めて把握している」企業が22.5%にとどまり、「把握していない」は44.0%に上った。「条例があることのみ把握している」は33.5%。
事業所防災リーダー制度については「内容を含めて把握している」企業は13.8%、「把握していない」が63.2%と、認知度が特に低い。
帰宅困難者対策条例については「努力義務の内容を含めて把握している」企業が37.3%、「条例があることのみ把握している」が39.6%、「把握していない」が23.1%。
外部を含めた帰宅困難者の受け入れについては、「既に一時滞在施設として協力するため区と協定を結んでいる」が4.1%、「一時滞在施設にはならないが、災害時には状況に応じて受け入れる可能性がある」が18.3%で、受け入れる(可能性がある場合を含む)企業は約2割にとどまった。「自社の所有物件でないため判断できない」が39.2%、「災害時に外部の帰宅困難者を受け入れることは難しい」が36.4%と続いた。
行政への要望、「インフラ強化・老朽化対策」が6割超で最多
行政に強化・拡充を望む災害・リスク対策(上限3つの複数回答)では、「防災・交通施設等インフラの強化・老朽化対策」が60.8%で最多。以下、「防災備蓄品購入補助・配布(携帯トイレ等)」42.3%、「あらゆる災害・リスクに対応するBCP策定支援」39.5%、「帰宅困難者対策」39.5%、「老朽化建物の建替え・耐震化促進」20.0%と続く。
その他の企業の声では、帰宅困難対策として「在宅勤務を活用して首都圏の通勤者を減らすことも有効。オフィス出社回帰の動きもあるが、政府・企業の支援や意識改革が必要ではないか」との意見が寄せられた。
また、発災時の社会インフラへの不安として「発災時の停電や通信途絶は事業継続に直結する重大リスクであり、電力・通信の確保策を強化してほしい。長期的なインフラ停止が生じた場合、策定したBCPが機能しない可能性がある」「道路・橋梁・トンネル等の劣化は、安全確保や物流への深刻な影響が想定されるため、点検・更新を進めてほしい」との声が複数上がった。
燃料面での懸念として「軽油・原油の供給が停止した場合、物流やバス等の公共交通機関がストップしてしまう。燃料確保および供給に向けた対策強化をお願いしたい」との指摘も。訪日外国人への対応については「多言語の避難誘導やルール周知を強化してほしい」との意見も寄せられた。
東京商工会議所は、今回の調査結果を踏まえ、国と東京都に対する意見要望活動を実施するとともに、会員企業に対して災害・リスク対策への取り組みを促す情報提供を行う方針。調査結果の詳細は東京商工会議所のウェブサイト(https://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=1210292)で公表されている。




