『地球の歩き方 墨田区』表紙の大型ボードを掲げて記念撮影
シビックプライドの醸成にも
東京都墨田区は、地域を挙げた総合芸術祭が今秋開催されるなど、観光都市として注目を集めている。さらに8月27日にはガイドブック『地球の歩き方 墨田区』が発行された。こうした話題を契機に、地元では観光振興、教育旅行誘致の機運が高まっている。墨田区の山本亨区長、墨田区観光協会の森山育子理事長、『地球の歩き方』の由良暁世編集長に、墨田区の魅力について語り合っていただいた。
――墨田区は、観光に関するトピックスが盛りだくさんですね。
山本区長 墨田区は今年、観光都市としてのスケールが一段と飛躍しました。3月31日には江戸東京博物館がリニューアルオープン。魅力的な演出が加わり、江戸・東京の歴史、文化をしっかり学べる充実した展示内容になりました。11月には、すみだ北斎美術館が開館10周年を迎えます。コロナ禍で厳しい時期もありましたが、今年3月には、総入館者数が150万人に達し、区立の美術館として多くのお客さまをお迎えできました。他にも、東京スカイツリー、国技館、向島花街、向島百花園、隅田公園などそれぞれに魅力があり、外国人旅行者を含め、さまざまなお客さまが墨田区を訪れ、にぎわいを見せています。
9月4日から12月20日にかけては「すみだ五彩の芸術祭」を区内各所を舞台として初開催します。ギャラリーや劇場はもちろん、古民家や寺、商店街、町そのものが表現の場になります。すみだの歴史や産業、人々の記憶に残る下町の懐かしい風景が、アートを通じて新たな輝きを放つことを期待しています。墨田区には新しい文化も、古くから続く文化もあります。それらを取り込んだ芸術祭として多くの方々を巻き込んでみんなでつくり上げていく芸術祭にしたいと思います。
また、来年3月には、旧本所区と旧向島区が合併し、墨田区が誕生してから80周年を迎えます。大きな節目を契機に、「観光都市すみだ」のさらなる魅力アップを目指していきたいですね。

墨田区長 山本亨氏
――墨田区観光協会が力を入れる取り組みは。
森山理事長 当協会は中期事業戦略として、2026年度から2030年度までの5カ年間を対象とする「観光地経営戦略」を策定しました。ビジョンには「共生と持続可能な観光都市・すみだ~何度でも訪れたい、そして住みたい憧れのまち~」を掲げました。昨年度、墨田区が策定した基本構想では、観光に関しては「何度でも訪れたい憧れのまち」というキーワードが盛り込まれています。これに「住みたい」という要素を加え、将来実現したい姿として位置づけました。地域、宿泊施設、観光などさまざまな産業が地域を支え、事業者と来訪者が共に支え合いながら、地域資源を生かして成長する観光都市を目指していきます。
今年度から特に力を入れていきたいテーマが、MICEと民泊(住宅宿泊事業)との共生です。MICEについては、委員会を立ち上げ、既存の着地型ツアーをMICEの来訪者、ビジネス観光向けにブラッシュアップし、誘致の魅力にしていきます。民泊に関しては、オーバーツーリズムの未然防止、地域との共生に向け、施設の見える化を進めたい。民泊利用者に体験コンテンツを提供するスキームづくりも考えています。墨田区は、民泊の届け出住宅数が都内では新宿区に次いで多い。民泊事業者および利用者と共に素晴らしい観光地をつくっていくというぐらいの思いで取り組みます。

墨田区観光協会 理事長 森山育子氏
――『地球の歩き方 墨田区』が8月27日に発行されました。
由良編集長 『地球の歩き方』としては、東京23区で3番目、城東エリア(東京都東部)では初めての発行です。これまで約160の国と地域についてガイドブックを発行し、国・地域の魅力を深掘りしてきましたが、中でも墨田区は、歩いてこそ面白い発見がある街だと感じます。東京スカイツリーの開業以降、観光地として注目を集める一方で、ものづくりや伝統工芸、江戸から長く続く歴史文化が再評価され、魅力的な散策が楽しめます。そこに江戸東京博物館のリニューアルが加わり、さまざまなイベントもあるということで、今こそ墨田区の奥深さを全国に発信したいと考えて発行に至りました。
『地球の歩き方 墨田区』は、観光スポットの紹介にとどまらず、下町らしい風情や景観、地域に根付いた豊かな文化を取り上げています。具体的には、相撲文化、伝統工芸、江戸東京博物館、グルメ、土産品などを、地元の方々のこだわりとともに深掘りしています。エリアとしては、大きく五つのエリアに分けて紹介しています。例えば、向島・鐘ヶ淵エリアでは花街の文化と隅田川沿いの風情、京島・八広エリアでは長屋の再生、押上・吾妻橋エリアでは東京スカイツリーを中心としたにぎわい、両国・本所エリアでは相撲文化、錦糸町エリアではエネルギッシュな多国籍感に注目しています。加えて、区民の皆さまのご意見を基に「墨田区あるある」も紹介しています。その結果、368ページという大ボリュームとなりました。

『地球の歩き方』編集長 由良暁世氏
――『地球の歩き方 墨田区』発行への期待をお聞かせください。
山本区長 『地球の歩き方』という著名なガイドブックで墨田区が紹介されることをとても楽しみにしていました。すみだを訪れるきっかけ、まち歩きの参考にしていただきたいですね。地域住民が気づいていない魅力、私たちがまだPRしきれていない魅力も多く取り上げられているので、発行に合わせた情報発信を強化したいと考えています。
由良編集長 多くの方にお読みいただき、本書をきっかけに墨田区を隅々まで歩いていただきたいですね。一方で『地球の歩き方』国内版のユニークな特徴として、発売当初は購入者の7割ぐらいが地元の方々というデータがあります。観光スポットだけではなく、地域を幅広く掘り下げていますので、自分たちの街がどのように紹介されているのか、気になるようです。やっぱりここが紹介されているなという納得感と、こんなところがあったのか、知らなかったという驚きの両面があります。そうした反応は読者アンケートから分かります。地元の方々が地域の魅力を再発見する機会にも活用していただきたいですね。
山本区長 地元住民の購入が多いというのは面白いですね。自分たちの街の魅力を再発見することは、シビックプライドの醸成にもつながります。住民の誇り、住民自らの情報発信を起点に、観光客の増加につながるという展開は素晴らしいストーリーです。
――取材・編集を通じて感じた墨田区の魅力は。
由良編集長 墨田区には、江戸から続く歴史や文化が深く息づいています。それが博物館にあるだけではなく、地域の皆さまの日常の中に溶け込んでいるという点で、本当に歴史と日常の距離が近い街だと感じています。エリアごとに表情が変わるのも魅力的です。一つの区の中に多様な個性が詰まっている。私たちもガイドブックをつくる上で、非常に深掘りのしがいがありました。
――『地球の歩き方』の発行は墨田区の観光にどのような変化をもたらしそうですか。
由良編集長 区外から来られる方は、東京スカイツリーを起点に旅行、散策を組み立てることが多いと思いますが、墨田区が持つ多彩な魅力を『地球の歩き方』で知ることで、区全域への回遊につながるといいですね。飲食店、商店街、体験施設などへの来訪機会の増加、滞在時間、消費の拡大も期待できます。区民の皆さまにとっても、普段何気なく通っている道やお店が外部から見ると素晴らしい地域資源なのだと気づいていただけると思います。地元への愛着と誇りが深まり、観光振興にもつながるのではないかと考えています。
――墨田区における教育旅行の現状と取り組みについてお聞かせください。
森山理事長 当協会では、東京スカイツリーが開業した2012年以降、東武タワースカイツリー株式会社と共に、プロモーションや商談で各地に出向き、教育旅行の誘致に継続的に取り組んできました。昨年度は福井、石川、富山の3県で、今年度は宮城県、岩手県、山形県で、説明会の実施と旅行会社を訪問してきました。
墨田区には、総合学習、探究学習、社会科学習に適した多くの素材があり、伝統工芸の工房、町工場、商店街での体験などさまざまなプログラムをそろえています。最近、特に人気があるのが、東京スカイツリーの塔体見学ツアーです。塔の構造の説明とともに非公開エリアを見学し、その後に展望台に登るというツアーで満足度がとても高いです。今後、江戸東京博物館とセットにしたパッケージプランの造成も目指しています。『地球の歩き方 墨田区』も活用しながら、教育旅行に適したプログラムを提案したいと考えています。
――『地球の歩き方』が学習に活用されることはありますか。
由良編集長 国内版は、歴史や文化を含めて幅広く深く対象地域を紹介していることから、小中学校から地域学習への活用のご要望をいただくことも多いです。『横浜市』版の発行後には、市内の小学校から当社の担当者に講義の依頼がありましたし、『杉並区』版でも、区内の中学校で地域の魅力の見つけ方というテーマで講演をしたことがあります。地域を知り、また実際にそこを訪れるのに役立つのが『地球の歩き方』です。教育旅行にもご活用いただきたいです。
山本区長 『地球の歩き方 墨田区』は、教育旅行の参考になると思います。墨田区には、『地球の歩き方』に紹介いただいているように学習素材にもなり得るコンテンツが多くあります。江戸東京博物館、ものづくりや伝統工芸の体験、大相撲の稽古見学などはとても人気です。また、関東大震災、東京大空襲で大きな被害を受けた地域として、防災教育や平和教育の場でもあります。何より教育旅行の受け入れに協力してくれる地域住民が多いことが強みです。地元の方々との交流を通じた学びの機会もご提案できると思います。そうした学習や交流の記憶が、大人になって再びすみだの街を訪れる理由になってくれればいいですね。
――学校関係者や旅行会社、地域の関係者にメッセージをお願いします。
由良編集長 『地球の歩き方 墨田区』は、墨田区を深く学べる一冊になっていますので、旅の事典としてご活用いただき、墨田区の活性化にも貢献したいと思っています。ぜひ多くの方にお読みいただけますようお願いいたします。
森山理事長 墨田区は二面性のある街です。古さと新しさ、江戸と東京という二つの顔を持つ街だと感じます。それを墨田区で働いている人たち、住んでいる人たちの日常で体現しています。まさに墨田区観光のコンセプト「本物が生きる街 すみだ」です。ぜひ墨田区にお越しください。
山本区長 『地球の歩き方 墨田区』の発行を、墨田区の観光振興、「すみだ五彩の芸術祭」の成功につなげていきたいですね。教育旅行についても、ぜひ墨田区を学びのフィールドとして活用していただきたい。学校、旅行会社の皆さまのご理解、ご支援を引き続きお願いいたします。

『地球の歩き方 墨田区』表紙の大型ボードを掲げて記念撮影




