旅行は誰もが等しく享受できる自由であるはずだが、現実には移動の負担、設備上のバリア、情報不足、あるいは周囲への気兼ねといった複数の要因が重なり、旅を諦めざるを得ない人々が存在する。「誰もが旅を楽しめる共生社会」の実現を目指す「ユニバーサルツーリズム」の基礎理論とサービス実践を体系的に学べる一冊が、建帛社から刊行された。
本書は全三部・全8章で構成される。第Ⅰ部「ユニバーサルツーリズムの基礎」では、Tourism for All やアクセシブルツーリズムといった国際的概念から日本の観光政策の変遷まで、共生社会の理念と法制度、ユニバーサルデザインの7原則、そして「心のバリアフリー」の理解と実践を丁寧に解説する。
第Ⅱ部「ユニバーサルツーリズムの実践」では、サービス・ホスピタリティの理論に加え、肢体不自由者・視覚障がい者・高齢者・外国人旅行者・多様な性の旅行者・こども連れなど、多岐にわたる旅行者への具体的な配慮が示される。さらにカスタマージャーニーの各段階——認知・検討・予約・活動・評価・共有——ごとの対応が論じられており、実務への直結性が高い。第Ⅲ部「ユニバーサルツーリズムの未来」では、AI技術の進展や持続可能な観光、オーバーツーリズムとの関係など、今後の課題と展望が考察されている。
著者は「ユニバーサルツーリズムの推進は、すでにある答えを探しだす作業ではなく、目の前にいる一人ひとりの声に耳を傾け、対話を続けるプロセスそのものである」と記す。ハード整備に加え、一人ひとりの意識と行動の変革を促すという視座が、本書全体を貫く軸となっている。

著者の白井昭彦氏は山口県熊毛郡平生町出身。山口県立熊毛南高等学校在学中に米国へ1年間留学し、車いすを利用する家族がいるホストファミリーとの日常の中で、障がいの有無にかかわらず同じ空間・体験を共有する姿に触れたことが、ユニバーサルツーリズムへの問題意識の原点であるという。1991年に中央大学法学部政治学科を卒業後、全日本空輸株式会社、神戸海星女子学院大学准教授を経て、2023年より淑徳大学経営学部観光経営学科准教授。専門はエアラインビジネス、ホスピタリティ、観光分野におけるユニバーサルデザインおよび心のバリアフリー。内閣官房・国土交通省等の委員を歴任し、日本観光研究学会、日本福祉のまちづくり学会に所属する。
官民を問わず観光に携わる実務者はもちろん、観光学を学ぶ学生、そして共生社会のあり方を考えるすべての人にとって、明日からの行動を変える手引書となるだろう。
A5判、定価2,090円(本体1,900円+税)。発行=建帛社。




