じゃらんリサーチセンター(JRC)は、自治体観光担当職員などを対象とした「観光振興セミナー2026」を7月29日から9月7日まで全国9カ所で10回開催している。初回の7月29日は、関東・甲信越エリアの自治体を対象に東京・八重洲のリクルート本社で実施した。発表プログラムは、高橋佑司センター長による「愛着の連鎖が豊かな地域を創る~これからの観光のあり方~」、池内摩耶研究員による「国内編:日本人の最新国内旅行トレンド『じゃらん観光国内宿泊旅行調査2026』」、松本百加里研究員による「インバウンド編:訪日旅行の期待を読み解く『インバウンド都道府県ポジショニング調査2026』」、パネルディスカッション「JRCが考える、今地域に必要な観光戦略とは?」。
松本研究員の講演内容を紹介する。
2025年インバウンドは過去最高、2026年は中国大幅減も他市場が補う
2025年の訪日外客数は4268.4万人と過去最高を記録した。旅行消費額は9兆4549億円で前年比16.4%増、1人当たり旅行支出は22.9万円(前年比0.9%増)と、いずれも国の目標を上回る水準となった。
主要国籍別では韓国が946.0万人(前年比7.3%増)、中国が909.6万人(同30.3%増)、台湾が676.3万人(同11.9%増)と、掲載された全市場がプラス成長を記録した。
外国人延べ宿泊者数は総数1.80億人泊(前年比9.4%増)に拡大した一方、三大都市圏(埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・京都・大阪・兵庫)のシェアは66.3%で前年比2.8ポイント低下。地方分散の兆しは見えるものの、依然として都市部への集中が続いている状況だ。
2026年1月から5月の最新動向では、訪日外客数は1793.6万人で前年同期比1.1%減となった。その内訳を見ると、中国が前年同期比56.2%減と大幅に落ち込んでいる。しかし、台湾が22.3%増、韓国が20.6%増、アメリカが8.2%増、タイが4.5%増、豪州が4.2%増と、中国以外の市場が伸長し、全体の減少幅を1.1%にとどめている。
松本研究員は「まさに今、中国以外の国がどんどん伸びていることで、市場別の視野が多様化している状況にある」と説明。アジア系については直行便の増加、欧米系については円安による日本のコストパフォーマンスの高さが背景にあると述べた。
旅行消費額は2026年1〜3月期で2兆3373億円(前年同期比2.5%増)と引き続きプラスを維持しており、1人当たり旅行支出は22.1万円(同0.7%減)となった。
インバウンドカルテで地域タイプを分類、6指標でクラスター分析
松本研究員は、地域のインバウンド戦略を立案する際の考え方として「エリア特性にそった戦略試算フレーム」を示した。
訪日外客数に訪問率を掛けて消費単価(滞在日数×消費単価/日)を乗じることで消費総額が算出される。この構造を踏まえ、地域がルートの中でどのような位置づけにあるかを意識することが重要だと強調した。
じゃらんリサーチセンターが提供する「じゃらんインバウンドカルテ」では、空海港利用人数・新幹線駅数・訪問率・消費単価・平均泊数・延べ宿泊者数の6指標を用いたクラスター分析を実施。各地域がどのタイプに分類されるかを都道府県別・市場別に可視化している。
タイプの大分類は「拠点/ゲートウェイ」「ルート伸びしろ」「宿泊・高消費」「周遊・消費獲得」「一点突破/目的地化余地」の5種類。それぞれのタイプごとに注力すべき方向性が異なる。
「拠点/ゲートウェイ」タイプは訪問率・宿泊量が大きく入口・旅程ハブになりやすい地域で、通過・到着日を前後泊や立ち寄り消費へ変えることが課題。「ルート伸びしろ」タイプは交通導線はあるが訪問・泊数・消費は伸びしろがあり、行く理由・二次交通・泊まる理由を整えることが求められる。「宿泊・高消費」タイプは泊数・単価が高く、認知・商品化・受入を整えて質を保ちながら宿泊量を増やすことが方向性となる。
カルテの2ページ目・3ページ目では、出入国の多い空海港、主要周遊ルート、直前直後の訪問都道府県を掲載。さらに今回のリニューアルで、訪日前に楽しみにしていたことのフリーコメントをキーワードマップ化した新項目を追加した。
立ち寄りから宿泊・消費へ、2026年の変化の兆し
「都道府県ポジショニング調査2026年全国変化」では、2025年から2026年にかけての注目すべき変化が報告された。
変化の一つ目は「ルート伸びしろから、宿泊・消費・周遊へ」の移行だ。アメリカ×宮城は2025年の「新幹線立ち寄り」タイプから2026年に「宿泊拠点」へ、アメリカ×神奈川・愛知は「新幹線立ち寄り」から「周遊+消費」へ、フランス×富山は「新幹線立ち寄り」から「消費獲得」へと変化している。
背景として、訪日外客数が伸びる中、長期滞在・高単価市場では定番都市からもう一歩先へ滞在が広がる可能性があることが挙げられる。宮城では道の駅やトレイルルートの開拓、富山では海外富裕層メディアに取り上げられた工芸文化体験、神奈川では箱根・鎌倉を中心としたテーマルートの形成が具体的な動きとして見られるという。
変化の二つ目は「一点突破から、周遊・消費・滞在へ」の移行だ。フランス×茨城・滋賀・愛媛は「一点突破」から「周遊+消費」へ、韓国×山梨は「一点突破」から「長期滞在」へと変化。ソウル線増便も追い風となっている可能性があるとした。
関東・甲信越10都県のポジショニングと周遊ルート
関東・甲信越10都県のポジショニングタイプを市場区分別にまとめると、東京は東アジア・東南アジア・欧米豪のすべてで「目的地・拠点」タイプで変化なし。千葉は3市場ともゲートウェイで、東アジアでは一点突破から入口機能へ変化した。
神奈川は3市場全てでタイプ変化があり、東アジアで「立ち寄り/延伸」、東南アジアで「宿泊・高消費の兆し」、欧米豪で「周遊・消費獲得」と市場ごとに異なる。長野は東南アジアで「一部宿泊化」、欧米豪で「滞在・高消費の兆し」へ変化。新潟は東アジア・欧米豪で変化があり、新幹線誘客が中心で欧米豪では一部宿泊化の兆しが見えている。
周遊ルートの全国マップでは、東アジア・東南アジア・欧米豪のいずれも関東・関西・北海道を中心とした構造が見えた。東アジアのルートランキング1位は「千葉-東京」(15.1%)、東南アジアも「千葉-東京」(13.1%)、欧米豪も「千葉-東京」(9.9%)が首位。空海港Top5では、欧米豪は羽田空港(461万人)・成田空港(348万人)が上位を占める。
対象10都県のルート掲載状況では、東京・千葉・神奈川・山梨がいずれも全国主要周遊ルートTop20圏内に入っている。山梨は東南アジアで4位(千葉-東京-山梨)、東アジアで13位、欧米豪で15位と全市場区分でTop20入り。一方、埼玉・茨城・栃木・群馬・新潟はTop20圏外だが、千葉・東京と組み合わせた動線が確認されている。
市場区分別の旅行者属性
関東・甲信越エリアを訪れた旅行者の属性分析では、市場区分による明確な差異が示された。
東アジアは友人・家族・一人の同行者が拮抗。訪日回数は1回が29.1%、2〜5回が40.6%、6回以上が30.3%で、全国比では初訪比率が8.3ポイント高い。交通手段は鉄道82.4%(全国比+5.4pt)、新幹線20.6%(同+9.8pt)が全国比を上回る。
東南アジアは家族比率が35.1%(全国比+2.0pt)と最も高く、初訪比率は43.1%と全国比6.8ポイント高い。新幹線利用が29.1%(全国比+6.6pt)、貸切バス20.3%(同+5.1pt)と全国水準を上回る。
欧米豪は夫婦29.4%・パートナー28.8%の比率が高く、初訪が約64.8%と最も高い。鉄道92.7%(全国比+1.0pt)、新幹線64.7%(同+5.2pt)と鉄道・新幹線の利用率が非常に高い。レンタカー利用は全市場区分で全国比を下回るかほぼ同水準にとどまっている。
リピーターレベルが上がるにつれた変化についても分析が示された。東アジアは買い物中心から宿泊・飲食・地方滞在へ関心が移り、レンタカー利用率も上昇する。東南アジアは2回目以降に雪・温泉・スキーへの関心が高まる。欧米豪は職人・発酵・自然テーマ、民芸品・伝統工芸品への関心がリピーター化とともに高まり、静かな生活者型の滞在志向が強まる傾向がある。
期待コメントから施策のヒントを読み解く
旅行者が訪日前に一番楽しみにしていたことのフリーコメント分析では、欧米豪(n=7789)では「京都」9.8%、「観光」9.7%、「神社仏閣」9.5%、「富士山」9.1%が上位。東アジア(n=9470)では「富士山」13.4%、「観光」9.0%、「買い物」8.6%、「東京」8.4%が上位に並んだ。
関東・甲信越エリアを3ブロックに分けた分析では、北関東(茨城・栃木・群馬)は東アジアで「日光・温泉・花・食が見え、東京から足を延ばしやすい地名やテーマがある」、東南アジアで「日光・ひたち海浜公園・温泉・買い物に加え、雪景色・スキー・スノボ・紅葉・桜など季節に関するテーマも見える」、欧米豪で「日光・神社仏閣・日本文化・温泉に加え、ハイキングやサイクリングも見える」との傾向が示された。
首都圏(東京・千葉・神奈川・埼玉)は東アジアで「テーマパーク・富士山・買い物・食など入口・目的地として強い」、甲信越(山梨・長野・新潟)では「富士山・山岳・スキー・スノボ・温泉・ハイキングが期待として見える」(欧米豪)との傾向。
期待コメントの読み解き方として、松本研究員は3つの施策の方向性を示した。第1に「地名・施設名が見える場合」はルートとしてつなげることを検討。認知された入口を周辺の宿泊・食・温泉・体験・二次交通へ広げる。第2に「テーマ語が見える場合」は別候補への誘導を検討。同じテーマを持つ別地域・穴場を見せて差別化を図る。第3に「体験語が見える場合」は商品化を強化する。伝わりにくい体験価値をストーリー・ガイド・行程・価格に翻訳する。
「この3つは組み合わせて設計することが重要」と述べ、地名・テーマ・体験のいずれかひとつで判断するのではなく、ルート・誘客・商品化を組み合わせて設計することを促した。また、「親族・友人訪問が見える場合は、誘客より滞在中の食・買い物・半日観光・同行消費へつなげることが有効」とも付け加えた。
茨城・三重・熱海の取り組み事例を紹介
講演の後半では、地域の具体的な取り組み事例が紹介された。
茨城県の事例では、「THE HUB OF HYPER-LOCAL」というコンセプトのもと、東京近郊でありながら観光地化されていないリアルな人の暮らしにダイブできることを価値として転換したツアー商品化が紹介された。委託者は茨城県県北振興局、制作はみたて/Japan-sanが担当した「プロダクトマニュアル(令和7年度版)」として旅行会社向けに整備されている。
ツアーの行程は常陸太田市里美地区を舞台に、大中神社の正式参拝からスタートし、木の里農園(農園体験・料理・ランチ)、木工房SEEDS(木工体験)、井坂酒造(酒蔵見学・試飲)と続く構成。「ここでは、信仰・食・手仕事といった営みが暮らしや自然の中に息づき、地域の自然や文化に根ざした”生き方”そのものが見どころになります」と事業者向けのコンセプト資料に記されている。
モニターツアーをリハーサルとして活用し、関係者で磨き上げた上でファムツアーとして海外旅行会社に参加してもらう手順も組み込まれている。ガイドが地域DMCと組みながら商品設計・旅行会社対応・値付け・二次交通手配・ガイド業務を一体で担う仕組みだ。
三重県の事例では、三重県観光連盟が運営するガイドマッチングサイト「MIE Navigators」(https://guides.visitmie-japan.travel)が紹介された。対応言語・得意分野・活動エリア・旅行形態・ドライバーガイド対応可否などを一覧化し、旅行会社やDMOが条件に合うガイドを見つけやすい仕組み。登録ガイドには認定証が発行され、名刺のプロフィールページURL掲載にも活用される。
熱海市の事例では、熱海観光局運営サイト(https://visitatami.com)を活用したデジタル情報整備の取り組みが示された。温泉・東京からのアクセス・花火大会・夜の過ごし方・富士山が見える場所・桜の開花情報などテーマ別の公式ページを整備し、他の上位サイトと同質化した上で「公式日程・タトゥー対応・温泉ルール・開花情報・現地の回遊情報など、公式だから出せる一次情報を加える」ことで差別化を図っている。GEO(Generative Engine Optimization:AI検索機能最適化)への対応としても、正確で読み取りやすい公式情報の整備がAI検索に引用されやすいと説明された。
最後にレンタカーのインバウンド在庫連携事例として、じゃらんレンタカーの国内在庫を活用して海外OTAでも自動的に掲載できる仕組みが紹介された。個別に海外OTAと契約・精算する必要がなく、問い合わせ窓口の一元化で現場負荷を抑えながら海外向け販売を進められる点が特徴だ。
「観光振興セミナー2026」は今後も全国各地で開催が続く。7月31日に東海Meeting(名古屋観光ホテル)、8月3日に関西・北陸Meeting(ウェスティンホテル大阪)、8月18日に沖縄Meeting(ロワジールホテル那覇)、8月20日に東北Meeting(ホテルメトロポリタン仙台)、8月28日に北海道Meeting(オンライン開催)、9月1日に中国・四国Meeting(リーガロイヤルホテル広島)、9月2日に九州Meeting(ホテル日航福岡)、9月7日に関東・甲信越Meeting第2回(グラントウキョウサウスタワー)が予定されている。参加費は無料で、各開催日の2日前まで申し込みを受け付けている。セミナー特設ページのURLはhttps://jrc.jalan.net/seminar/7667/。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】




