国内宿泊旅行費用総額、過去最高の8兆3883億円 実施率は伸び悩み、単価上昇が市場拡大を支える


 じゃらんリサーチセンター(JRC)は、自治体観光担当職員などを対象とした「観光振興セミナー2026」を7月29日から9月7日まで全国9カ所で10回開催している。初回の7月29日は、関東・甲信越エリアの自治体を対象に東京・八重洲のリクルート本社で実施した。発表プログラムは、高橋佑司センター長による「愛着の連鎖が豊かな地域を創る~これからの観光のあり方~」、池内摩耶研究員による「国内編:日本人の最新国内旅行トレンド『じゃらん観光国内宿泊旅行調査2026』」、松本百加里研究員による「インバウンド編:訪日旅行の期待を読み解く『インバウンド都道府県ポジショニング調査2026』」、パネルディスカッション「JRCが考える、今地域に必要な観光戦略とは?」。

池内研究員の講演内容を紹介する。

調査の概要と特徴

 「じゃらん観光国内宿泊旅行調査」は、20年以上継続して実施されている調査だ。2025年度版(2025年4月~2026年3月)の最新データを対象とし、2026年4月1日から21日にかけてインターネット調査で実施。全国18~79歳の男女を対象に、有効回答数1万5548件(旅行件数ベース3万139件)を集めた。

 調査の特徴は3点。第1に、出張・帰省・修学旅行を除いた観光目的の国内宿泊旅行に特化している。第2に、宿泊費・交通費だけでなく、現地での飲食・買い物など消費の詳細を把握していること。第3に、都道府県単位・観光地単位での分析が可能な「県別カルテ」を提供していること。集計・分析にあたっては、令和6年10月1日現在の人口推計(総務省統計局)を用いてウェイトバックを実施し、信頼性を確保している。

実施率は微減、市場規模は過去最高水準

 2025年度の国内宿泊旅行実施率は48.9%で、前年度の49.3%から0.4ポイント低下した。年間平均旅行回数は2.78回(前年度2.76回)とほぼ横ばい。延べ宿泊旅行者数は1億2763万人回で前年度比0.1%減、延べ宿泊数は2億2372万人泊で前年度比0.3%増となった。延べ宿泊数が微増した背景として、1泊より2泊の旅行者が若干増加したことが影響している。

 旅行単価(1回あたりの旅行費用)は6万5700円で、前年度から1600円上昇。内訳を見ると、宿泊費と交通費の合計はほぼ横ばいの3万6900円だった一方、現地消費は2万8800円と前年度比1700円増となった。

 国内宿泊旅行にかかる費用総額(推計値)は8兆3883億円で、前年度比2.5%増。費目別では現地消費が3兆6767億円(全体の43.8%)と最も大きく、宿泊費2兆243億円(26.5%)、交通費1兆8044億円(21.5%)が続く。池内氏は「旅行実施率は微減したが、旅行単価の上昇により市場規模は過去最高水準となった。市場拡大を支えているのは、現地消費の増加だ」と説明した。

 一方で、「市場規模は拡大しているように見えるが、それを支えているのは1人あたりの単価上昇。旅行者にとっては以前と同じ旅行に行こうとしても負担が大きくなりやすい状況になっている」とも指摘。「単価上昇を単なる負担増で終わらせず、旅行者にとって価値ある支出・満足に変えていくことが今後の重要課題だ」と述べた。

都道府県別、同行者別の動向

 延べ宿泊旅行者数を都道府県別に見ると、1位は東京都(1102万人)、2位は北海道(975万人)、3位は大阪府(940万人)。前年度からの増加数では大阪府が174万人増とトップで、大阪・関西万博の影響が大きく出た。増加率でも徳島県(23.3%増)に次いで大阪府が22.8%増と高い水準を示した。

 月別の旅行件数では、2025年度は3月が最も多い月となった。池内氏は「春休みや年度末ということで、子連れだけでなく夫婦2人や1人旅など幅広い層が動いた」と分析。8月については「猛暑の影響で3年連続の減少となった。一方、10月は時期をずらす動きもあり件数が大きい月になっている」と述べた。

 同行者別では、「夫婦2人での旅行」が26.0%と最多。「ひとり旅」が18.5%、「友人との旅行」が12.2%と続く。前年度から「ひとり旅」が0.5ポイント増加した一方、「小学生以下連れ親子旅行」は1.1ポイント減少。「ひとり旅」は男性でシェアが高く、18~29歳男性では26.7%、50代男性では27.4%を占める。

 2025年度から新たに「成人以上の親子旅行」を選択肢に追加したところ、8.7%と一定の市場規模が可視化された。前年度の自由回答に「成人した娘とお母さん」といった記述が多くみられたことが追加のきっかけだという。

 宿泊タイプは「1泊2食つき」が41.8%で最多。60代・70代のシニア層や3世代家族旅行(63.9%)では特に比率が高い。

旅行目的と地域間の旅行動向

 旅行目的のトップ3は「地元の美味しいものを食べる」(43.7%)、「温泉や露天風呂に入る」(35.6%)、「宿を楽しむ」(35.6%)で、この3項目は例年変わらない。同行者によって目的に違いがあり、小学生以下を連れた親子旅行では「テーマパーク」(38.8%)が全体を大幅に上回る。

 居住ブロック別に宿泊先ブロックを分析すると、甲信越・北陸ブロックへの旅行者数が前年度比105万人減となった一方、関西ブロックへは82万人増。池内氏は「関東から東海・関西を含む西日本への旅行が増えており、大阪・関西万博を起点にした周遊旅行が西日本で起きていることが大きな増加要因と考えられる」と述べた。

 現地消費については、「喫茶・スイーツを食べる」を除く全項目で前年度より平均金額が上昇。特に「スポーツ・アウトドアを楽しむ」「エリア間や各エリア内の移動」での上昇幅が大きかった。池内氏は「宿泊や交通をうまく調整しながら、現地での飲食や買い物への支出を増やしている旅行者の姿が見えてくる」と語った。

 旅行先で実施したことについては、「地域の固有性」「地域での交流」など、その土地に行かないとできないことを中心に関心が高まっている傾向が見られた。特に40代以下を中心に、地域貢献や地域文化に触れる旅行への志向が全体より高い。リピート志向も上昇傾向にある。

テーマ別満足度ランキング

 じゃらんリサーチセンターでは、11のテーマ別評価と総合満足度を5段階で取得。「とても満足」「やや満足」の合計を「満足・計」として都道府県別にランキング化している。

 「地元ならではのおいしい食べ物があった」の1位は石川県(79.6%)で、2023年度以来の1位返り咲き。「海鮮・魚介類」「寿司・回転寿司」「のどぐろ」など海の幸に関する回答が多かった。2位は香川県(78.6%)で、「讃岐うどん」が回答の6割超を占めた。

 「魅力のある特産品や土産物があった」の1位は2年連続で沖縄県(68.3%)。菓子類に加え、工芸品・海産物・泡盛など幅広い特産品が評価された。2位は石川県(65.3%)で、食と工芸の両面で多様な品目が挙がった。

 「魅力的な宿泊施設があった」の1位は沖縄県(72.5%)、2位は大分県(70.4%)、3位は山形県と千葉県(いずれも69.6%)。関東・甲信越エリアでは千葉県が3位に入り、テーマパークエリアのホテルが高い評価を得た。群馬県は草津・伊香保などの温泉地の宿泊施設が支持を集め5位に入った。

 「地元の人のホスピタリティを感じた」は沖縄県が1位(56.5%)。2位が山形県(44.6%)、3位が青森県(44.2%)。

 「大人が楽しめるスポットや施設・体験があった」では沖縄県が1位(65.4%)、千葉県が2位(60.7%)。テーマパークが子ども向けというイメージがある中でも、「大人が楽しめる」として強く支持されていることが示された。

「ご当地ならではの体験・アクティビティが楽しめた」でも沖縄県が1位(69.2%)で、マリンアクティビティが圧倒的人気。関東・甲信越エリアでは千葉県が4位(54.8%)、山梨県が5位(53.2%)、長野県が7位(52.9%)に入り、自然を生かした体験が評価されている。

 「現地で良い観光情報を入手できた」は沖縄県が1位(52.8%)、北海道が2位(42.1%)。池内氏は「観光案内所やお宿、道の駅といった現地での情報入手が多い一方、SNSや公式アプリによるリアルタイム発信も増えてきている。3年前と比べると明らかに増加傾向にある」と述べた。

総合満足度とNPS

 総合満足度(全体平均84.2%)の1位は香川県(89.2%)で2年連続の首位。2位は長崎県(88.7%)、3位は岐阜県(88.5%)で前年度11位から大幅にランクアップした。関東・甲信越エリアからは長野県が6位(87.7%)に入り、温泉・自然・食・宿泊施設など複数の魅力が総合的に評価されている。

 属性別で見ると、18~29歳・30代・60代男性で前年度比低下が見られた一方、70代男性・50代男性では上昇幅が大きかった。同行者別では中高生連れ親子旅行で6.1ポイント、団体旅行で4.3ポイント上昇した。

 NPS(Net Promoter Score、推奨者から批判者を引いたスコア)の全体平均は11.1で前年度からほぼ横ばい。都道府県別では沖縄県が36.4で3年連続1位。千葉県と京都府が同率3位(22.0)に入った。関東・甲信越エリアでは長野県・群馬県がいずれも5ポイント以上上昇した。

 今後行きたい都道府県(3つまで複数回答)では、1位が北海道(27.2%)、2位が沖縄県(20.0%)、3位が東京都(9.6%)で上位の顔ぶれは前年度から大きく変わらず。スコアを落とす地域が多い中、トップ10内では福岡県・長野県・神奈川県・静岡県・長崎県・鹿児島県のスコアが前年度から上昇した。池内氏は「順位だけでなく、ポイントが上がっているか下がっているかも非常に大事な指標だ」と述べた。

これからの旅づくりの3つの視点

 池内氏は2025年度調査から見えてきた旅づくりの視点として、「満足度」「現地消費」「お得感」の3点を挙げた。

 満足度については「費用が上がる今、旅先での満足度がより重要になる。満足度を支えるのはご当地性、つまりその土地にしかない体験や食だ」と強調。香川県のうどんを例に、「食べるだけでなく、うどん体験・うどん作り・うどん学校・お土産としてのうどんと、一つのコンテンツがお土産・体験・学ぶ・食べるというように波及していく。それが満足度を総合的に高めている」と説明した。

 現地消費については、「飲食・体験・移動・買い物の中で何にお金を使うかがシビアになっている。総合満足度との相関が最も強いのは食だが、今年の調査ではお土産がスコア上ほぼ食と同水準になってきている。食べるだけでなく持ち帰って楽しむ体験を長くしていくことも価値になってきた」と分析した。

 お得感については、「別の調査によると、約3割がクーポンや特典をきっかけにこれまで検討していなかった地域を旅行先として検討すると回答している。単なる値引きではなく、クーポン・特典に地域の食や体験を結びつけることが旅行需要を維持するための一つの視点だ」と述べた。

 「観光振興セミナー2026」は今後も東海・関西・北陸・沖縄・東北・北海道・中国四国・九州の各エリアで順次開催される。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 

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