シェアで地域課題解決へ 九州初開催「全国シェアリングシティフォーラム2026」 観光・防災・交通で共創の可能性探る


観光セッションの登壇者。(左から)甲田恵子氏、長野恭紘市長、大屋智浩氏、篠崎和敏氏、髙原幸一郎氏

 一般社団法人シェアリングエコノミー協会は7月31日、「全国シェアリングシティフォーラム2026」を福岡市中央区の大名カンファレンスで開催した。全国で3回目、九州では初開催。今年のテーマは「SHARE THE LOCAL シェアで日本列島の未来を共創する」で、自治体首長や自治体職員、企業関係者ら現地・オンライン合わせて約700人が参加した。人口減少や交通、人材不足、観光、防災などの地域課題を「シェアリング」の発想でどう解決していくかについて、多様な立場から議論した。

 

 開催直前の7月28日に熊本県で最大震度7の地震が発生したことを受け、会場では災害対応や自治体間の連携も大きなテーマとなった。地域資源や人材、移動手段などを共有するシェアリングエコノミーの考え方が、平時の地域づくりだけでなく、有事の共助を支える仕組みとしても注目を集めた。

 

熊本での地震発生を踏まえ「共助」の重要性を共有

 オープニングセッションの登壇者。(左から)石山アンジュ氏、田辺一城市長、坂井英隆市長、藻谷浩介氏

 

 オープニングセッション「日本列島シェア宣言〜シェアで日本列島の未来を共創する〜」では、福岡県古賀市の田辺一城市長、佐賀県佐賀市の坂井英隆市長、株式会社日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏が登壇し、シェアリングエコノミー協会代表理事の石山アンジュ氏がモデレーターを務めた。

 

 冒頭では、直前に発生した地震への対応が話題となった。田辺市長、坂井市長は自治体として被災地支援に取り組んでいることを説明するとともに、首長同士がLINEなどを活用して密に連絡を取り合い、初動対応を重視している現状を紹介した。

 

 昨年、熊本市へ移住し、今回の地震を経験した藻谷氏も、自身は幸い大きな被害はなかったと説明。その上で、人口減少時代には「一人が1.5倍活動する」発想が重要であると指摘した。シェアによって人と人との交流が生まれ、社会全体がより良くなることや、コスト削減による経済効果にも期待を示し、「苦しく取り組むのではなく、楽しく取り組むことが大切」と述べ、地域コミュニティづくりの重要性を強調した。

 

自動運転やライドシェア 地域交通の新たな選択肢に

観光セッションの登壇者。(左から)甲田恵子氏、長野恭紘市長、大屋智浩氏、篠崎和敏氏、髙原幸一郎氏

 

 人口減少が進む地方では、交通空白地域への対応も重要なテーマとなった。

 

 古賀市、佐賀市はともに、二次交通対策として自動運転の実証事業に取り組んでいる現状を紹介した。公共交通だけでは支えきれない移動需要を補う新たな交通サービスとして期待を寄せた。

 

 坂井市長は、弁護士を経て国土交通省に入省し、ライドシェア政策を担当した経験にも触れながら、地域交通の維持には行政だけでなく民間との連携が不可欠であるとの認識を示した。

 

シェアリングエコノミーは、モノや場所だけでなく、移動、スキル、時間などを共有する仕組みである。協会では、こうした考え方を地域課題を解決する社会インフラとして位置付け、防災や交通、観光など幅広い分野で活用を進めている。

 

観光セッション 長期滞在と周遊促進で地域価値を高める

 午後の「観光立国日本の未来〜九州からつくる、観光の新市場と共創型の地域づくり〜」では、大分県別府市の長野恭紘市長、Airbnb Japan公共政策本部長の大屋智浩氏、JTB執行役員ツーリズム事業本部九州エリア広域代表の篠崎和敏氏、NearMe代表取締役社長の髙原幸一郎氏が登壇し、観光分野におけるシェアリングの可能性について議論した。

 

 長野市長は、別府市が推進する「新湯治ウェルネス構想」を紹介。現在、別府市の平均宿泊数は1.09泊、湯布院も1.11泊にとどまることを課題として挙げた。

 

 その解決策として、九州大学などと連携し、腸内細菌の研究などを通じて温泉の効果・効能を「見える化」する取り組みを紹介した。温泉の効能を実感するには1泊では十分ではなく、3泊以上の滞在につなげることが重要とし、体験プログラムを組み合わせたウェルネスツーリズムを推進する考えを示した。また、由布市との連携により「世界一の保養・大温泉郷」を目指していくとした。

 

 JTBの篠崎氏は、企業や地域、旅行者、事業者など幅広いネットワークを生かし、「つなぐ、つくる、つなげる」を軸に2035年を見据えた交流人口の創出に取り組んでいると説明した。

 

 NearMeの髙原氏は、タクシーを乗り合い型で活用するサービスを紹介。「タクシーとバスの間の選択肢」をつくることで輸送力向上を目指しており、九州では福岡空港、北九州空港、熊本空港などで利用されていることを紹介した。

 

災害対応でも宿泊・交通の「シェア」が力を発揮

 熊本地震の影響を踏まえ、観光分野ではシェアリングを活用した災害対応についても意見が交わされた。

 

 Airbnb Japanの大屋氏は、民泊施設を災害支援に入るNPOやNGOの活動拠点として無償開放する準備を進めているほか、広域避難を希望する被災者にも無償提供できる体制を整えていることを紹介した。

 

 また、日本の宿泊産業は需要が特定の時期に集中し、人材配置や施設運営の効率化が課題になっていると指摘。訪日外国人旅行者は旅館、ホテル、民泊を組み合わせながら長期滞在や周遊を楽しむ傾向にあるとし、多様な宿泊や体験の組み合わせが旅の価値を高め、地域全体の魅力向上にもつながるとの考えを示した。

 

 JTBの篠崎氏は、復旧に携わるインフラ関係者の移動支援に取り組んでいることを紹介するとともに、鹿児島、宮崎など交通網が分断された地域や、被災地から離れていても風評被害を受ける観光事業者への影響を懸念し、観光需要を維持することの重要性を訴えた。

 

九州から共創型観光モデルの創出へ

 今回のフォーラムでは、「シェア」は単なるサービスやビジネスモデルではなく、人口減少や災害、交通、人材不足など地域課題を解決するための社会インフラとして位置付けられた。

 

 自治体、企業、地域住民がそれぞれの資源を持ち寄り、平時の地域づくりから災害時の支援までを支える「共助」の仕組みとして、シェアリングエコノミーへの期待は大きい。

 

 九州初開催となった今回は、熊本地震という現実を踏まえながら、自治体や企業、プラットフォームが立場を超えて議論を重ね、地域資源を生かした新たな地域づくりや観光のあり方を探った。

 

 フォーラム終了後、一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事の石山アンジュ氏は、「シェアリングエコノミーは、地域の人材や空間、移動手段、文化、暮らしを観光資源へと変え、新たな市場を生み出す可能性を持っている」と総括。「人手不足や宿泊・交通・体験不足、住民生活との両立といった課題は、地域の資源をつなぎ直すことが解決への第一歩になる」と述べた。

 

 さらに、「都市部から離島まで多様な地域を持つ九州で、自治体や事業者、プラットフォームが垣根を越えて議論できたことに意義を感じている。九州から、地域課題の解決と新たなビジネス機会を両立する共創型観光のモデルを生み出していきたい」と語り、九州から共創型観光モデルを生み出していく考えを示した。

【九州支局長 後田大輔】

 
 

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