「住民の地域愛着が旅行者満足度に直結」──じゃらんリサーチセンター高橋センター長が独自調査で相関を数値化


 じゃらんリサーチセンター(JRC)は、自治体観光担当職員などを対象とした「観光振興セミナー2026」を7月29日から9月7日まで全国9カ所で10回開催している。

 初回の7月29日は、関東・甲信越エリアの自治体を対象に東京・八重洲のリクルート本社で実施した。発表プログラムは、高橋佑司センター長による「愛着の連鎖が豊かな地域を創る~これからの観光のあり方~」、池内摩耶研究員による「国内編:日本人の最新国内旅行トレンド『じゃらん観光国内宿泊旅行調査2026』」、松本百加里研究員による「インバウンド編:訪日旅行の期待を読み解く『インバウンド都道府県ポジショニング調査2026』」、パネルディスカッション「JRCが考える、今地域に必要な観光戦略とは?」。

高橋センター長の講演内容を紹介する。

「観光の目的は住民の豊かさ」──センター長が問う、そもそもの問い

 JRCは7月29日、「観光振興セミナー2026」の初回を東京で開催した。

 高橋佑司センター長は「愛着の連鎖が豊かな地域を創る~これからの観光のあり方~」と題した講演の冒頭で、参加者に根本的な問いを投げかけた。「私たちはそもそも何のために観光をやっているのか」。

 高橋氏は自身の経歴に触れながら、2011年に地元の観光協会に赴任した経験を語った。「観光という産業においては、住民目線においても、従業員・働くという視点においても、そして観光客という視点においても、非常に大事な産業だと改めて思った」と述べ、この三つの視点をぶらさずに現場の課題を見続けることの重要性を強調した。

 高橋氏が示した観光の本質的な目的は、「地域住民の豊かさ」だ。「本当に地域の経済の柱になったとしても、それが住民にとってマイナスになってはいけない」と言い切った。

 観光がもたらす経済的な好循環についても整理した。観光客が満足して消費し、その消費が観光事業者の売り上げと利益につながり、従業員の給与や税収として地域に還元される──。「住む人・観光客・観光事業者の三位一体でやっていくことが非常に重要だ」と述べた。

 一方で、現状には「経済の光と生活の影」があると指摘。地域経済の活性化や雇用創出というプラス面がある一方、オーバーツーリズム、交通渋滞、ごみ問題など、住民の穏やかな生活を損なう事象も増えている現実を提示した。「豊かに暮らすことと地域がしっかり稼ぐこと、このバランスが大事。しかし、なかなか指標化できていない」と課題を率直に認めた。

2040年の国内宿泊旅行者数は減少傾向──実施率は48.9%に低下

 高橋氏は2040年を見据えた予測データを示した。

 国内延べ宿泊者数の推計では、インバウンドは増加が見込まれる一方、国内旅行者数は減少傾向にあるという。背景にあるのは人口減少と宿泊旅行実施率の低下だ。

 コロナ前の2018年時点では宿泊旅行の実施率は56.4%だった。100人中56人が宿泊旅行に出かけていた計算になる。コロナ明けに回復したものの50%を下回っており、昨年発表の49.3%からさらに低下し、最新データでは48.9%となった。

 「このまま進めば、国内宿泊旅行者数の延べ数はこれから下がっていく。特に地方においては国内旅行で持っているケースが非常に多い。地域としてどう考えるか、考えなければならない時期に来ている」と高橋氏は警鐘を鳴らした。

AIが旅を変える──「人との生の触れ合い」が差別化の核心に

 高橋氏は2040年の旅行形態の変化についても予測を示した。

 AIの発展によって、ルーティンワークは基本的にAIに委ねられる時代になる。「そこから解放された人間にとっては、仕事自身が自己表現の場になっていく。旅も自分の価値観や共感できるコミュニティを探す、自分探しそのものに変化していく」と述べた。

 旅の探し方も変わる。現在はSNSによる情報収集が主流だが、今後はAIのレコメンドが主体になっていく。「基本はAIから推薦された旅を選ぶ時代になっていく」という見立てだ。

 しかしそこに本質的な問いが生じる。「AIが最適な観光ルートやスポットを弾き出して、それを選択することが、果たして旅といえるのか」。

 高橋氏は、AIが日常のコミュニケーションを担う時代だからこそ、旅行者が旅に求める価値は変化すると指摘する。「観光スポットや映えスポットの情報はAIで解決できる情報になっていく。旅行に求めていくのは人との生の触れ合いであって、なぜそこに行くのかというストーリーがちゃんとある、そんなことが非常に重要になる」。

 パーソナライズ化も加速する。「AIが一人一人に合った旅行先を提示する。特定の”好き”や”憧れ”が強く求められ、そこに深く刺さるような、圧倒的な地域が選ばれる地域になっていく。他の地域と同じようなことをやっていては、今後の地域は生き残っていけない時代になる」と述べた。

住民愛着と旅行者満足度の相関係数0.70──世界初の数値化

 講演の核心は、JRCが独自に実施した「ご当地愛調査」の結果だ。

 「住民が自分の地域に愛着を持つと、地域を推奨するようになる。その推奨が旅行者の満足度にどう影響するのか。この関係性は今まで全く数字が世の中に出ていなかった」と高橋氏は語った。

 調査の結果、住民の地域愛着と観光推奨度の相関係数は0.70、地域の観光推奨度と旅行者満足度の相関係数は0.60という数値が得られた。相関係数0.40以上で「まあまあ関係する」とされる中、0.70は「非常に強い相関がある」水準に当たる。

 「旅行者満足度を上げるためには、地域の人々が自分の地域をどれだけ推奨できるか。そのためには、住民が自分の地域にどれだけ愛着を持っているか。これがめちゃくちゃ関係しているということが、数字で初めてわかった」。

 都道府県別のデータでも傾向が明確に出た。縦軸にご当地への誇り・行動の平均値、横軸にご当地愛着の大きさを取ったグラフでは、沖縄、北海道、石川が右上に位置した。「ご当地への誇りが極めて高い地域こそ、圧倒的なブランド力を持っている。そこにつながっているということがよくわかった」と述べた。

 旅行者満足度を構成する要素も分析した。結果、最も影響が大きかったのは「食」、次いで「宿」だった。「単に食や宿ではなく、その土地の風土や歴史、暮らしの中から生まれた本物の食。住民が誇りを持って大切に守ってきた、日常の延長線上にある価値が、旅行者にとって本当の感動になる」と解説した。

住民愛着→観光推奨→旅行者満足の好循環──地域づくりの新戦略

 高橋氏はこれらの調査結果をもとに、「愛着と観光の好循環図」を提示した。

 住民が地域への愛着と誇りを持つ→観光推奨・アンバサダー化が生まれる→地域ならではの場所や体験が大切にされる→地域の魅力がアップする→旅行者が満足する→住民の観光への意識がさらに向上する──という循環だ。「この好循環のサイクルを回していくことが非常に重要だ」と強調した。

 好循環を生み出すためのポイントは三つに整理された。人との接点・交流の確保、地域の「食」などの魅力の住民理解とアウトプット、そして子どもを含めた地域の未来を担う人への愛着育成。「この三つを各地域ごとにそれぞれしっかりと考えて取り組むことが今後大事だ」と述べた。

短期・中長期の施策事例──岐阜・京都・那須・高山の取り組み

 住民愛着度を高める具体的なアプローチとして、高橋氏は全国の事例を紹介した。

 短期のアプローチとして取り上げたのが岐阜県下呂の取り組みだ。観光が住民生活をどう豊かにしているかが見えにくいという課題に対し、その効果を数値化して住民に配布。教育素材としても活用している。「なかなか観光客によって地域に何が潤っているのかわからない。住民がそれを知ると、各地域でこういう形で定量化していくことがすごく大事だ」。

 もう一つの短期アプローチが、住民が自分の地域の観光資源を知る取り組みだ。京都市では、市民が市内の観光資源を実際に巡っている割合が約50%にとどまるというデータが出ている。これを受けて「京都市民が楽しめるようなキャンペーンを先行して実施する」「観光地において住民が少しお得に入場できる」といった施策を展開している。「住民が自分の観光資源や地域の価値を知る取り組みは、全国でできてくるといい」と述べた。

 中長期のアプローチとして強調したのが教育との連携だ。

 栃木県那須町では小学校と連携したプロジェクトを推進。昨年は6年生を中心に実施したが、今年からは3年生から6年生の4年間で地域探究を授業に組み込んでいる。「小学生の時代に実際に地域資源に触れるということをやっている」。

 中学生段階では、観光産業に関わるチームで地域課題・産業課題を発表するという取り組みの事例を紹介。産業の担い手の「生き様」を見ることで、地域で働きたいという気持ちが育まれると述べた。

 高校生段階では岐阜県高山の事例を紹介。高校生が自らインタビュー調査を行い、地域の観光客満足度や喜びの要因を自分たちで調査するという取り組みだ。「観光課と教育委員会が接することは少ないが、ここはすごく大事。こういう教育を通じて、今後Uターンや自分の地域に戻りたいという気持ちが育まれていく」と語った。

愛着の連鎖が持続可能な地域をつくる──5つのポイント

 高橋氏は講演の最後に、「愛着の連鎖が持続可能で豊かな地域を作るためのポイント」として5点を提示した。

 第一に、住む人・働く人が観光に関わる取り組みを通じて地域への愛着と誇りを持つこと。第二に、住む人・働く人が「残したい、伝えたい」と思う地域の価値を観光の中核に据えること。第三に、その価値が旅行者にとって「大満足」になっているかどうかを口コミやアンケートなどで評価・確認すること。第四に、その価値に未来を担う子どもが触れ、愛着を持てる環境をつくること。そして第五に、住む人・働く人・訪れる人・未来を担う人の愛着がつながることで地域の好循環をつくること。

 「AIがどんどん出てくることで、むしろ観光が必要になってくる。住民愛着度を指標化し、旅で地域の豊かさを作り、旅で人生を豊かにする、そのような地域を皆さんと一緒に実現していきたい」と締めくくった。

 「観光振興セミナー2026」は全国9カ所で10回開催される。次回以降の開催スケジュールは7月31日(木)東海Meeting(名古屋観光ホテル)、8月3日(月)関西・北陸Meeting(ウェスティンホテル大阪)、8月18日(火)沖縄Meeting(ロワジールホテル那覇)、8月20日(木)東北Meeting(ホテルメトロポリタン仙台)、8月28日(金)北海道Meeting(オンライン開催)、9月1日(火)中国・四国Meeting(リーガロイヤルホテル広島)、9月2日(水)九州Meeting(ホテル日航福岡)、9月7日(月)関東・甲信越Meeting(グラントウキョウサウスタワー)。いずれも参加費無料、事前申込制。申込締切は各開催日の2日前。セミナー特設ページ(https://jrc.jalan.net/seminar/7667/)で受け付けている。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 

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