宿泊施設カテゴリーの均衡と地域適合 ――均衡GOPから考える、地域が求める宿泊機能―― 理論名称:Kitamura Hospitality Category Equilibrium Model(K-HCEM) 北村剛史


北村

北村氏

はじめに

 宿泊施設のカテゴリーを検討するとき、議論はしばしば、「どのカテゴリーが最も高い収益を生み出すのか」という問いから始まります。高価格帯ホテルは、高いADRを獲得できます。宿泊主体型ホテルは、施設と運営を合理化することで、効率的に利益を確保します。旅館は、宿泊、食事、温泉、接遇を一体として提供し、その土地固有の滞在価値を生み出します。どのカテゴリーにも、それぞれ異なる収益構造と合理性があります。しかし、カテゴリーが変われば、売上だけが変わるのではありません。必要となる客室、料飲施設、共用空間、サービス、人員、維持管理、販売費、ブランド関連費用、修繕・更新投資も同時に変化します。

 高価格帯ホテルは、大きな売上を生み出す一方で、広い客室、質の高い内装、充実した共用空間、複数の料飲機能、専門人材、手厚いサービスなど、多くの費用を負担します。

 低価格帯ホテルは、客室単価や売上が相対的に小さい一方で、施設構成と運営体制を絞り、少人数で効率的に運営することによって、一定の利益を確保します。

 したがって、カテゴリー間の売上差が、そのままGOP差になるわけではありません。カテゴリーが上がるほど、追加的な売上に伴って必要となる費用も増え、売上増加分のすべてが同じ割合でGOPとして残るとは限らないからです。

 

均衡GOPという実務仮説

 もちろん、すべてのホテルのGOP額が同一になるという意味ではありません。立地、規模、施設構成、ブランド、競争環境、運営能力、建築費、人件費、料飲構成などによって、GOPには差が生じます。

 しかし、各カテゴリーが、それぞれに必要な施設、サービス、人員、運営費を負担し、安定運営に近づいていく過程では、カテゴリー間の1室当たりGOP額の差は、ADRや売上の差ほどには拡大しにくくなります。異なるカテゴリーであっても、安定運営時の1室当たりGOP額には、一定の範囲へ収斂しようとする均衡圧力が働くと考えられます。本稿では、この実務仮説を「GOP均衡」と呼びます。

 GOP均衡とは、カテゴリー間のGOP額が同一になることではありません。カテゴリーごとの売上とコストが相互に作用する結果、安定運営時の1室当たりGOP額が、カテゴリーを超えて一定の範囲へ収斂する状態、またはその方向へ働く圧力を指します。

 これは法則ではなく、統計的に確定された結論でもありません。ホテル評価、収支分析、事業計画、運営実態を通じて観察される、検証可能な「実務仮説」です。また、均衡GOPは、全国のすべての宿泊施設が同じ金額へ近づくことを意味するものでもありません。その水準は、地域と施設に固有の条件によって規定されます。

 

条件は、大きく三つに分けられるものと考えます。

 「市場・地域側の条件」には、地域需要、交通利便性、観光資源、ビジネス集積、人口・産業構造、所得水準、競合供給、季節性などがあります。

 「事業環境側の条件」には、建築費、人件費、物価、エネルギー費、金利、法規制、土地・建物の取得条件などがあります。

 「施設・運営側の条件」には、施設規模、客室構成、料飲構成、ブランド力、運営能力、人材配置、地域との接続力などがあります。

 同じカテゴリーであっても、これらの条件が異なれば、成立し得るADR、稼働率、売上構成、費用構造、1室当たりGOP額は異なります。

 反対に、異なるカテゴリーであっても、地域、市場、事業環境に適合するよう設計・運営されれば、安定運営時の1室当たりGOP額が近い範囲へ収斂する可能性があります。

 K-HCEMが重視するのは、単に「カテゴリー間のGOP差は小さい」と主張することではありません。

 その場所における均衡GOPを規定する条件を正しく読み取り、その条件に最も適合するカテゴリーを選ぶことです。条件を見誤れば、高いカテゴリーを選んでも十分な売上を確保できず、過大な施設負担、人件費、サービス負担だけが残ります。

 反対に、地域の需要や資源を過小評価すれば、本来実現できるカテゴリーより低い水準にとどまり、施設の事業価値と地域価値の双方を取り逃がします。

 均衡GOPの把握と、望ましいカテゴリーの判断は、切り離された二つの作業ではありません。同じ地域条件と事業条件を、収益面と地域機能面から読み解く、一体の分析なのです。

 

地域が求める宿泊機能

 GOPに均衡圧力が働くのであれば、どのカテゴリーを選んでも同じなのでしょうか。

 そうではありません。

 カテゴリーの本当の意味は、施設単体のGOP額だけではなく、その施設が地域でどのような役割を担うかにあります。

 バジェットホテルは、移動者や就労者、価格を重視する旅行者に、安全で清潔な宿泊機能を提供します。宿泊主体型ホテルは、地域の基礎的な宿泊需要を効率的に受け止めます。ミッドスケールホテルは、価格、快適性、サービスの均衡を保ちながら、幅広い需要に対応します。

 フルサービスホテルは、宿泊に加えて、料飲、会議、宴会、婚礼、地域交流などを支えます。旅館は、地域の食、温泉、建築、接遇、文化を、一体的な滞在体験として伝えます。リゾートホテルは、旅行者の滞在時間を延ばし、地域の自然、食、文化、体験へと結び付けます。どのカテゴリーにも固有の価値があります。上位が優れ、下位が劣るのではありません。重要なのは、地域が必要とする機能と、施設が提供する機能が一致しているかどうかです。

 地域に望ましいカテゴリーとは、最も豪華な施設でも、最も高額な施設でもありません。地域の需要、産業、文化、交通、人材、住民生活、将来像と適合し、施設の安定運営と地域価値の双方を、持続的に実現できるカテゴリーです。

 

事業価値と地域価値

 宿泊施設が生み出す価値は、二つの層で捉える必要があります。
 

V = P + E

 (V)は、宿泊施設が生み出す総合価値です。

 (P)は、GOP、キャッシュフロー、賃料負担力、資産価値など、施設内部に帰属する事業価値です。

 (E)は、地域内消費、地元調達、雇用、人材育成、文化継承、交流人口、再訪需要、地域企業や住民を支える宿泊機能など、地域に帰属する外部経済価値および地域基盤価値です。

 この式は、地域価値を直接算定するための統計式ではありません。ホテルの価値を、施設内部に帰属する価値と、地域へ広がる価値とに分けて考えるための概念式です。

 例えば、GOP水準が近い二つのホテルがあるとします。一方は、食材、人材、サービスの多くを域外に依存し、宿泊客の消費が館内で完結しています。他方は、地元生産者から食材を調達し、地域人材を育成し、周辺の飲食、商業、交通、文化、観光と接続しています。

 両者の事業価値 (P) が近くても、地域価値 (E) は大きく異なります。その結果、宿泊施設が生み出す総合価値 (V) も同じではありません。カテゴリーそのものが地域価値を決めるのではありません。カテゴリーと地域との接続の仕方が、地域価値を決めるのです。

 

地域カテゴリーの縮小均衡

 地域にとって望ましいカテゴリーを、それに必要な周辺機能まで含めて、一施設の負担だけで完成させようとすれば、投資と不確実性が過度に集中します。事業者は合理的な判断として、客室や共用部を縮小し、料飲や交流機能を省略し、サービス人員を減らし、地域連携への投資を控えるようになります。

 個々の判断は合理的です。しかし、地域内の事業者が同じ判断を重ねれば、地域は、本来到達できる水準より低いカテゴリーで均衡してしまいます。K-HCEMでは、これを「地域カテゴリーの縮小均衡」と呼びます。この縮小均衡は、事業者の判断力や意欲の不足によって生じるものではありません。不確実性が高い状況では、損失の回避や現状維持を重視することが、個別事業者にとって合理的な選択となるからです。

 したがって、精神論だけで克服することはできません。地域内で費用とリスクを分担し、各主体の役割を明らかにし、不確実性を小さくする仕組みが必要です。

 もっとも、十分な資本力、運営力、ブランド力を持つ事業者が、周辺機能まで一体的に整備・運営する場合には、単独でも目的地形成に至る可能性があります。したがって、縮小均衡は必ず生じるものではありません。重要なのは、地域機能を形成するために必要な費用とリスクを、一施設へ過度に集中させないことです。

 

K-HCEMによるカテゴリー判定

 K-HCEMでは、同じ施設について、「現在」「望ましい姿」「到達可能性」という三つの観点からスターを判定します。現在実現スターは、現状の施設、運営、人材、ブランド、地域連携によって、実際に成立している姿です。望ましい均衡スターは、地域の需要、産業、文化、住民生活、将来像を踏まえ、その施設が担うことが最も望ましい姿です。潜在到達スターは、施設改修、人材育成、ブランド再構築、地域連携などを進めた場合に、技術的・市場的に到達し得る姿です。

 ただし、到達できることと、到達すべきであることは同じではありません。判断の中心は、常に望ましい均衡スターに置きます。

 

本稿では、地域で担う機能は、次の五段階で整理したいと思います。

★ 基礎宿泊機能型――安全、清潔、睡眠、衛生など、宿泊の基本機能を効率的に提供します。

★★ 地域需要対応型――ビジネス、観光、医療、教育、就労、長期滞在など、特定の地域需要に対応します。

★★★ 地域中核型――複数の需要を受け止め、料飲、会議、交流、地域案内、周辺への送客など、地域の中核機能を担います。

★★★★ 地域統合型――飲食、交通、文化、産業、観光、交流と強く結び付き、地域全体の価値を統合します。

★★★★★ 目的地形成型――施設と地域が一体となり、新たな旅行、交流、文化、事業需要を生み出します。

 このスターは、一般的なホテル格付けではありません。品質、豪華さ、客室単価、サービス水準の上下を示すものでもありません。

 スター数が多いほど優れているのではなく、地域が求める役割と一致している状態を、最も適切と評価します。★★★★★も豪華さを意味せず、小規模な旅館や分散型宿泊施設であっても、地域と一体となって新たな需要を生み出していれば該当します。

 役割の実現可能性は、需要力、施設適合力、運営・人材力、ブランド・市場接続力、地域ネットワーク力の五要素で確認します。

 これらは、スターを機械的に算出するための点数ではありません。望ましい均衡スターを実現するために、何が整い、何が不足しているかを見るための視点です。

 五要素は相互に独立しているわけでもありません。地域ネットワークが強まればブランドが形成され、ブランドが新たな需要を呼びます。施設が需要に適合すれば顧客評価が高まり、市場との接続も強まります。K-HCEMは、こうした相互作用を含む動的なモデルとして捉えます。

 

分析結果は、次の四つに整理できます。

 適正均衡は、現在実現スターと望ましい均衡スターが一致し、施設が地域から求められる役割を適切に果たしている状態です。

 下方均衡は、現在実現スターが望ましい均衡スターを下回り、地域が必要とする役割を十分に果たせていない状態です。

 上方乖離は、施設機能が地域需要を上回り、その機能を維持するために必要な需要、人材、収益、地域接続が不足している状態です。

 機能不一致は、スター数は同じであっても、施設が備える機能と、地域が求める機能の内容が一致していない状態です。

 なお、下方均衡や上方乖離は、潜在到達スターとの比較ではなく、現在実現スターと望ましい均衡スターとの比較によって判断します。

 

結び

 GOPは、宿泊施設が持続するために不可欠です。しかし、宿泊施設の価値は、GOPだけではありません。異なるカテゴリーの施設であっても、売上とコストの相互作用によって、安定運営時の1室当たりGOP額には、一定範囲への収斂圧力が働く可能性があります。その均衡水準は、カテゴリー名ではなく、その場所の市場、事業環境、施設・運営条件によって規定されます。だからこそ、カテゴリーを上げること自体を目的にしてはなりません。

 その場所に固有の均衡GOPを規定する条件を正しく読み取り、地域が求める宿泊機能と、施設が実現するカテゴリーを一致させることが重要です。

 同じようなGOPを生み出す施設であっても、地域企業を支える施設、文化を継承する施設、交流を生み出す施設、旅行者の滞在を延ばす施設では、地域が受け取る価値が異なります。

 宿泊施設カテゴリーを考えることは、ホテルの豪華さを考えることではありません。

 その地域にどのような滞在機能を残し、誰を受け入れ、どの産業や文化を支え、施設と地域がどのような未来を共同で形成するかを考えることなのです。

株式会社日本 ホテルアプレイザル代表取締役/株式会社サクラクオリティマネジメント代表取締役/一般社団法人宿泊施設関連協会副理事長 北村剛史

 
 

注目のコンテンツ

第39回「にっぽんの温泉100選」発表!(2025年12月15日号発表)

  • 1位草津、2位下呂、3位道後

2025年度「5つ星の宿」発表!(2025年12月15日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第39回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング 」(2026年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト50を発表!

2025年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング」(2026年1月12日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒