東京商工会議所の「トラベル&ツーリズム委員会」で、学識委員を拝命したのは昨秋のこと。委員会では活発な議論が交わされ、毎々、多くの刺激を受けている。
同委員会は先ごろ、「基幹産業としてのツーリズムの成長に向けた東京都への要望」を都へ提出した。具体的には、ゲートウェイ東京としての機能を充実させて地方との共存共栄をはかり、「稼ぐ力」を強化しつつも、持続可能なツーリズムの実現に向けて住民・旅行者・事業者間の相互理解を促すことなどが掲げられた。また、人材育成の重要性や災害等へのさらなる備え、宿泊税の適正な運用なども継続して提言している。
去る7月7日、JTB相談役の田川博己委員長・JAL副会長の清水新一郎委員長の両氏を団長に、同委員会の視察団の一員として1泊2日で熊本県を訪ねた。
今年は、熊本地震から10年という節目の年である。「阿蘇草原保全活動センター」へと向かう道すがら、地震で崩落したままの「阿蘇大橋」の残骸が目に飛び込んだ。震災遺構として後世に被害の深刻さを伝えている。
「世界の持続可能な観光地100選」にも選ばれた阿蘇は、30年という歳月をかけて観光地域づくりが行われてきた。風光明媚な草原だが、そこに暮らす人たちにとっては大切な農地である。なりわいを守りつつ、いかにツーリズムに生かすか。市町村の垣根を超えて忌憚(きたん)なく意見できるよう、車座になって語り明かしたと聞かされた。地道な努力だ。
九州屈指のパワースポット「阿蘇神社」は、国内でも珍しい横(よこ)参道が特長だ。私たちが知る、社殿に向かって一直線に伸びる参道とは異なり、お社(やしろ)から直角に左右に広がるのが横参道だ。「門前町商店街」をぶらぶら歩いて、そうした説明に耳を傾けた。
2日目は、ホテル日航熊本を会場に、「熊本商工会議所」との意見交換会が開催された。観光資源が数多く食も豊かな熊本の、「もう一つの魅力が”人”」と語られた久我彰登会頭(鶴屋百貨店会長)のお言葉が印象的だった。
半導体大手TSMCの進出で産業集積が進み、県経済は著しく成長を遂げた。台湾との往来が活発で、九州全土に恵みをもたらしている。子会社JASMも稼働を始めた。地価高騰もうなずける。
23年から運用を開始した新生・阿蘇くまもと空港は、設計段階から民間企業が手がけたコンセッション方式のレアケース。地方空港としては、路線数・発着回数で国内一、二を争う。だが、観光消費額は九州7県のなかで最も低く、課題となっている。
この日、熊本は梅雨明けして猛烈な暑さ。日傘をさして旅の最後に、空中回廊の「熊本城」を視察した。完全復旧は2052年と、まだ道半ばだ。
熊本には思い入れがある。本田技研工業のエンジニアだった父が、現役時代はよく熊本に通っていて、従兄も駐在した。東日本大震災で東北の親族を失い心癒えないときに、熊本地震が発生したので、家族で応援消費に熊本を訪ね、熊本城の「復興城主」にも名を連ねた。なので、創造的復興が着実に進んでいるさまを視察でき、実に感慨深い旅だった。
末筆となりますが、関係者の皆さまには、この場を借りて心から御礼申し上げます。
(観光ジャーナリスト・淑徳大学経営学部観光経営学科教授 千葉千枝子)




