「通りを一本外すと全然空いている」 京都・バルセロナ・岐阜・ラ・リオハが語る、オーバーツーリズムの現実と処方箋


京都市観光政策監の西山真司氏

 Spain Talks Tokyo セッション2は6月23日、東京・白金台の八芳園で開催された。京都市、カタルーニャ州、岐阜県、ラ・リオハ州の4者が登壇し、観光客の急増に直面する地域の実態と対策を語り合った。

 「第1回 Spain Talks: Caring for the Future ~未来を思い描く~」のセッション2「ベストプラクティス(オーバーツーリズム対策および新興観光地)」は6月23日、東京で行われた。京都市観光政策監の西山真司氏、カタルーニャ州政府観光局アジア・パシフィックディレクターのラウル・ゲラ氏、ラ・リオハ州政府観光・地域振興総局局長のビルヒニア・ボルヘス氏、一般社団法人岐阜県観光連盟事務局長兼統括事業部長の加藤英彦氏の4名が登壇した。モデレーターはツーリズム総合研究所代表の石原義郎氏が務めた。

京都市の現状——6279万人が訪れた2025年

西山氏

 

 西山氏はまず、京都市が独自に算出する観光客数のデータを示した。2025年(令和7年)1月から12月の年間観光客数は6279万人で、過去最高を記録した。内訳は日本人が約5011万人、海外からの訪問者が約1268万人。日本人と外国人の割合はおよそ8対2だ。

 滞在形態では日帰り客が73.6%を占め、宿泊客は26.4%にとどまる。宿泊客の中では外国人(809万人)と日本人(849万人)がほぼ拮抗しており、外国人の宿泊比率の高さが特徴的だ。

 混雑が集中しているのは清水寺周辺と嵐山の2拠点だと西山氏は説明した。

 「全体が混んでいるというよりも、局所的に混んでいる場所がある、という状態」と述べ、京都市全域が常に混雑しているという「誤解」が生じていることにも言及した。

 京都駅から清水寺までの距離は約3キロ。バスで15分ほどの距離だが、その沿線でのバス混雑が課題として取り上げられてきた。嵐山方面には鉄道路線も多く整備されている。「嵐山も通りを一本外すと全然空いていたりとかそういう状況」とも述べ、混雑の実態が局所的であることを強調した。

 市民への調査では、「観光が京都の発展に重要な役割を果たしている」と答えた市民が70.1%にのぼる一方、「一部観光地やその周辺の混雑を経験して迷惑した」と答えた市民も70.6%に達した。「観光客のマナー違反を経験して迷惑した」と回答した市民は56.3%だった。

 具体的なマナー問題として、ゴミのポイ捨て、私有地への無断立ち入りでの撮影、竹への落書きなどが報告されている。

京都市が進める3つの課題対策

 西山氏が示した課題は3点。混雑の解消、マナーの向上、そして違法・不適正な民泊への対応だ。

時期・時間・場所の分散化

 混雑解消に向けて、京都市は「時期の分散化」「時間の分散化」「場所の分散化」の3軸で取り組む。

 時期の分散化では、鉄道会社と連携した旅行パッケージを展開。閑散期にあたる冬や夏への誘客を促進している。朝観光や夜観光を振興する「時間の分散化」、そして市内周辺部の魅力あるエリアへ誘客する「場所の分散化」も並行して進める。

AIカメラで混雑をリアルタイム可視化

 市内約30カ所にAIカメラを設置し、混雑状況をリアルタイムでスマートフォンから確認できるシステムを運用している。カメラは人の形を青い点で表示し、混雑時には赤で示す仕組みだ。

 「この時期のこの時間帯は混んでいますよというマップというのも、お天気情報みたいですけど、出したりとかしてます」と西山氏は説明した。

 京都駅構内では、コインロッカーの位置と空き状況をスマートフォンで確認できるシステムも整備。約4000個のコインロッカーの空き情報がリアルタイムで把握できる。市バスの混雑度や走行位置の情報提供サービスも開始している。

観光特急バスで混雑緩和

 2024年6月から、改正された国の制度を全国で初めて活用し、土日限定で京都駅から清水寺・祇園・銀閣寺方面を結ぶ「観光特急バス」を運行。通常230円の路線バス運賃に対し、500円の特急料金を設定した。

 「最初、普通230円を500円にしたら、あんまり人が乗らないんちゃうかなと思ったんですけども、秋のシーズンにはだいたい1日に3000人くらい来て、普通のバスで言うたら60台、50台分くらい」と西山氏は述べ、想定を上回る利用状況を報告した。並行する一般路線の混雑緩和にも効果があったという。

スマートごみ箱の設置

 ゴミ問題への対策として、圧縮機能付きスマートごみ箱の設置を進めている。投入したゴミを5分の1程度の体積に圧縮するもので、地域の商店街や企業からの寄付によって市内34基が設置された。

 「行政ばっかりが何かしているんじゃなくて、地域の方々あるいは企業の方々のご協力でこういう取り組みもしている」と西山氏は述べた。

民泊規制の強化

 民泊については、増加に伴う騒音問題やゴミ出し問題が地域住民の大きな懸念材料となっている。コロナ禍が明けて以降、住宅宿泊事業の届出件数はコロナ禍前の倍以上に増加し、旅館業の簡易宿所もコロナ禍以降毎年100件以上のペースで増えている。

 京都市は2026年度中に条例改正を実施する予定だ。

 「質のいい民泊というものに誘導していきたい。決して民泊を排除するというわけではないんですけども、しっかりやってくれた民泊もたくさんありますから、その人たちがちゃんと営業できるように条例の方もしっかりやっていって、悪質なというか、お行儀の良くない民泊さんは出てもらおうと思います」と西山氏は方針を述べた。

 国の法律では年間180日以内の営業日数制限が定められているが、さらなる制限や管理者の常駐義務化についても、国への法解釈の確認を含めて検討している。

バルセロナの教訓——1992年から2025年へ

ラウル・ゲラ氏

 

 ラウル・ゲラ氏はカタルーニャ州の経験を報告した。1992年のバルセロナオリンピック以降、観光客数は急増。2025年には2000万人に達する見込みだ。

 「25年間で大きな増加が起こった。もちろん、経済的な雇用などの貢献がございました。バルセロナの国際的な連携性というのも非常に良くなりました」とゲラ氏は述べた一方、同時に深刻な課題が顕在化していると指摘した。

 課題の第1は観光客の集中だ。バルセロナ市内の特定エリアや特定の季節に観光客が集中し、夏季には特に混雑が激しくなる。第2は公共交通やインフラへの負担。住民と旅行者が同じ交通機関や空間を共有することで、住民と旅行者の間に摩擦が生じている。

 第3の課題は住宅問題だ。民泊・短期滞在用住宅の増加により、住民が必要な住宅を確保できなくなる事態が起きている。

 「自分が住みたいところを、自分が生まれたところに住み続けられなくなった」という声が蓄積しているとゲラ氏は述べた。

 第4の課題として、観光地としてのアイデンティティの維持も挙げた。観光客向けの施設が住民向けの施設を圧倒するような状況が生まれると、地域のエコシステムが変わり、観光地としての魅力そのものが損なわれるというものだ。

 「単に多くの旅行者を集めたいということではなくて、より生活の質の向上に資するような、そして価値を生むような観光モデルを開発したいと考えています」とゲラ氏は語った。

 2026年から2028年にかけてのマーケティング戦略では、住民の生活の質向上を中心に据えることを明言。プロモーション活動は常に「住民の生活の質と両立できるか」という観点から設計するとした。

バルセロナが実施した4つの施策

 ゲラ氏はカタルーニャ州・バルセロナが実施した具体的な対策を紹介した。

 第1は「観光用住宅の管理」だ。2017年にオーバーツーリズム対策プランを策定し、新たな観光施設の設置を制限。さらにバルセロナ市は、2028年までに住宅の観光利用許可を廃止することを発表した。市民が自らの建物に無許可の観光用住宅がないかを確認・通報できるデジタルプラットフォームも整備している。

 第2は「クルーズ船の管理」だ。バルセロナは世界有数のクルーズ拠点だが、港に停泊する船の電源船(エレクトリフィカー)への切り替えを進め、環境負荷を軽減している。停泊時間が短いほど乗客への課税額が上がる仕組みを導入し、長時間停泊を促す仕掛けも整えた。

 「現在の都市では、4時間で5000人が出発して、その5000人が同時に動き、同じ活動をすることができる」という状況が問題とされ、停泊時間の管理が重要な課題となっている。

 第3は「訪問者の流通管理」だ。バルセロナのグラシア地区に向かう116番のバスルートについて、GoogleマップのルートからGoogleマップ表示を排除することで、観光客の無秩序な集中を防ぐ取り組みが実施された。また、20人以上の観光ツアーに対しては停車場の事前予約を義務付け、メガフォンの使用も制限している。

 第4は「観光税収入の住宅政策への活用」だ。

 「観光税の収入によって観光地への投資を行うと同時に、その観光税の収入によって地元の住民が住宅を取得、あるいは住宅にアクセスするようにする」とゲラ氏は説明した。2026年からはカタルーニャ州の旅客会社収入の25%を住宅政策に充てることが決定されている。

 残る75%については、観光地としての持続可能性の向上や観光インフラ整備に投資するとした。

 最後の課題としてゲラ氏が強調したのは「観光需要の分散」だ。季節的・地域的な分散を図り、訪問が少ない地域への誘客を進めることが引き続き重要な課題だと述べた。

岐阜県の挑戦——過去最高199万人でも「全国35位」の消費単価

加藤英彦氏

 

 加藤英彦氏は岐阜県の現状を報告した。岐阜県は東京と大阪・京都の中間に位置し、世界遺産の白川郷、高山の歴史的町並み、中山道の宿場町を結ぶ馬籠・妻籠ウォーキングなどが人気を集める。

 2009年からインバウンドプロモーションを本格スタートし、コロナ禍で一時中断したものの、2025年は過去最高となる199万人の外国人宿泊者数を記録した。

 「岐阜県へお越しいただいている国で最もありがたい国というのがスペインでありまして、日本の47都道府県のうちだいたい毎年4万人か5万人、東京や京都、大阪に続いて多くの方がスペインから来ていただいている」と加藤氏は述べた。スペインに次いでタイが5位、イタリアが6位、フランスが8位と、欧州からの訪問者が多いのが特徴だ。

 しかし、深刻な課題が2点ある。

 一つ目は「特定地域への観光集中」だ。白川郷、高山、中山道の宿場町などに訪問が集中しており、県全域への誘致が必要だとされている。

 二つ目は「観光消費額の低さ」だ。外国人観光客の1人当たり消費単価は2025年で4万1000円(コロナ前の2019年は2万9000円)。全国47都道府県中35位と低い水準にある。消費総額は2025年で549億円で全国15位だが、平均消費単価が伸びない背景には構造的な問題がある。

 「岐阜県には世界一の5つ星ホテルがほとんどありません。また、滞在は一泊がほとんどであり、また、お土産は旅行の最後に国際空港のある東京や大阪などで購入される場合が多いことから、さらには高価な体験するオプショナルツアーというのも非常にない、ほとんどなかったというのが原因で、観光収益が増すに少ないという課題がございました」と加藤氏は述べた。

「Give Timeless Japan Naturally Adventure」——ブランディング戦略の全容

 岐阜県は2018年にブランディング戦略を策定。知名度を上げるため、コロナ禍の3年間も世界への発信を続けた。

 ブランドプロポジションは「Give Timeless Japan Naturally Adventure」。岐阜の強みとして、全国2位の森林率81%の豊かな自然、白川郷の合掌造り集落に息づく生活文化、江戸時代の街並みが7%ほど残る中山道(スペイン人にはサン・セバスティアンのような巡礼の道の日本版として人気)、刀鍛冶・美濃和紙・木工・鵜飼いなど日本一の産地が多く残る伝統工芸などを挙げた。

 「岐阜県には純工業ですとか、観光用に作ったアミューズメントパークというのがほとんどありませんけれど、豊かな自然のもと先人から受け継がれてきた伝統文化、巧みの技が、長い時を超えて今もなお暮らしの中に息づいているということが岐阜県の魅力であり、これらの多くは1300年受け継がれてきた、まさにSDGsの理念であるサステナブルそのもの」と加藤氏は表現した。

 このブランディングのもと、60本のオプショナルツアーを造成。UNツーリズムの「世界トップ100サステナブル観光地」への選定(白川村が2020年、長良川流域が2021年、下呂市が2022年、白川村が2023年、高山市が2024年)や、国際認証機関グリーンデスティネーションズからのシルバーアワード受賞など、国際的な評価も得ている。

 また、2023年11月には日本で初めてUNツーリズムが設置する持続可能な観光の国際観測ネットワーク(INSTO)に岐阜県が加盟した。

 「これがたくさん来ていただくことによって、観光消費額がアップするということだけではなくて、伝統工芸や文化などの分野の職人さんについて世界の人々が興味を持っていただけるため、若い人がこの後継者になりたいと考えるようになるなど、匠の技や文化の継承にも非常に良い影響がある」と加藤氏は述べた。

白川村の持続可能な保全モデル

 世界文化遺産・白川郷の合掌造り集落の維持には、年間約5億円の予算が必要だ。屋根の葺き替えは30年サイクルで行われ、片面あたり800万円から1700万円の費用がかかる。

 白川村はこの費用の90%を補助している。補助財源は、村の観光駐車場収入の30%を充てた基金だ。オーナーは費用の10%を負担するだけで、世界遺産の景観を維持できる仕組みとなっている。この仕組みは、観光収入を文化遺産保全に循環させる先進的な事例として紹介された。

 「そんな形で、県はしっかりと伝統文化を受け継いで、世界の皆さんから魅力的だと思っていただけるように、取り組んでまいりたい」と加藤氏は述べた。

ラ・リオハ州——人口32万人の小規模州が観光で挑む地域存続

ビルヒニア・ボルヘス氏

ビルヒニア・ボルヘス氏はラ・リオハ州の現状を紹介した。スペイン最小の自治州であるラ・リオハ州は面積5000平方キロメートル、人口約32万人。ガストロノミーとワイン観光に強みを持ち、2025年は過去最高となる90万人の訪問客を記録した。

 主な観光客は州都に集中しており、174の市町村のほとんどは人口過疎が進む小規模なコミュニティだ。観光業がGDPに占める割合は10%。

 ボルヘス氏は「この地域はこれまで旅行に依存していなかったが、地域の人口問題に対して、旅行は一つの可能性となっている」と説明した。小さな村々がどう生き続けるかという文脈で、観光業の育成が重要な課題に浮上しているという。

 ただし、ラ・リオハ州の観光開発はまだ初期段階にある。ボルヘス氏は「私たちの目標は、旅客をもっと引き上げ、プロモーションを進めることではなく、共にどのような観光を目標として、私たちのコミュニティについてどのように取り組むかを決めること」と述べ、量的拡大よりも方向性の合意形成を優先する姿勢を示した。

3つのイニシアティブ

 EU基金を活用して3つのプログラムを並行して進めている。

 第1は「デジタルスマートプラットフォームの構築」だ。現時点でラ・リオハ州は観光客の行動データを活用できるデジタル基盤を持っていない。訪問者の行動パターン、地域への経済的恩恵の分布、住民の反応などを分析できるプラットフォームを整備することで、より良い意思決定の基盤を作る。「より良い情報を持っていることは、自動的により良い決定を確保しないことです。しかし、それができるならできることはできません」とボルヘス氏は述べた。

 第2は「ランドガバナンス計画(土地ガバナンス計画)の策定」だ。市民、観光団体、各種ステークホルダーとの対話を通じて、地域住民全員の意見を集約し、「誰も取り残さない観光戦略」を構築することを目指す。一般的な目標の提示ではなく、組織的・構造的な対話プロセスを重視するとした。

 ボルヘス氏はラ・リオハ州が地理的なコネクティビティに課題を抱えることも認めた。マドリードからの航空便は1便、バルセロナからも1便しかない。サンセバスティアンやビルバオからは車で90分の距離だが、アクセスが容易とは言えない状況だ。「例えばリオハ州からまだ出たことがない人もいる」という状況の中で、州民への投資の必要性を問えば「生活の質の向上のために投資が必要」という答えが返ってくるとも述べた。

 第3は「地域のアイデンティティ確立」だ。「ラ・リオハはワインだけで有名な地域として知られるのか、あるいはどういうところで有名な州になりたいのか」という問いを出発点に、地域の景観・文化・歴史の解釈を住民とともに再構築する取り組みだ。現在の解釈と20年前の解釈の違いを整理し、地域のアイデンティティと観光開発を一体的に進める。

 「3つのイニシアティブを通して情報を向上し、話し合いを向上し、決めることを向上したい」とボルヘス氏は述べ、市民参加型の意思決定プロセスを核に据えた観光開発の方向性を示した。プロモーショナルなアイデンティティシステムは2026年末までに完成させる計画だ。

「グッドプラクティス」の共有へ——日本とスペインの知見交流

 セッション全体を通じて浮かび上がったのは、混雑や住民の生活環境悪化という課題に対し、デジタル技術の活用、観光税・駐車場収入などの財源を活用した地域還元、住民参加型の合意形成プロセスという共通の方向性だ。

 京都市は特定地域への集中とマナー問題・民泊問題に直面しながら、AIカメラや観光特急バスなど具体的なツールで対応を進める。カタルーニャ州は住宅問題を中心に据えた観光税の再配分と訪問者流通管理を実施。岐阜県はブランディングと体験型ツアーの造成で消費単価の引き上げを図りながら、観光収入を伝統文化の保全に循環させる。ラ・リオハ州は観光開発の初期段階にあるからこそ、量的拡大より住民との対話による方向性の合意を先行させる。

 今後も両国間で「グッドプラクティス」の交換を継続し、具体的な施策や成功事例のさらなる共有が図られる見通しだ。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 

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