濵名氏
――温泉地保護利用推進室長に今年4月に着任した。
これまでは国立公園や野生生物に関する仕事が中心で、前職は東北地方環境事務所(現・東北環境局)の次長だった。地方では近畿地方環境事務所(現・近畿環境局)の出先機関である吉野管理官事務所(奈良県吉野町)に駐在した経験もある。仕事で山に入る機会は多かったが、登山後の温泉は特に素晴らしい。室長就任を契機に気持ちを新たにし、温泉についてさらに勉強したい。
――温泉、温泉地の現状についてはどう見ているか。
温泉地における宿泊者数は、コロナ禍で大きく落ち込んだが、その後はⅤ字回復している。訪日外国人旅行者も増加しており、温泉地ににぎわいが戻ったことに安堵している。一方で、温泉地数は注視している。横ばい傾向を示しているが、過疎や少子高齢化が進み、宿泊施設を閉じるという選択が増えているかもしれない。その中で「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産登録に向けた動きは重要だ。これを生かして「温泉文化」を保護、継承していく機運を高めたい。環境省としても、今悩んでいる温泉旅館の経営者などがもう一度頑張ってみようという気持ちになれるような施策を打っていきたい。
――「国民保養温泉地」制度の拡充を期待する声もある。
国民保養温泉地は、利用源泉が療養泉で湧出量が豊富であることなどが要件で、現在、全国で79カ所が指定されている。国民保養温泉地は温泉地計画をそれぞれ策定し、5年ごとに見直すことになっているが、その新規策定や改定のタイミングで専門家によるヒアリングを行い、より魅力的な計画になるよう伴走支援する取り組みを今年から始めた。外部の有識者の視点を入れて地域に助言させていただければと思っている。自分たちの「温泉文化」とは何か、これからどのような温泉地を目指すのか、考えるきっかけにしてほしい。「温泉文化」がユネスコ無形文化遺産に登録された時、国民保養温泉地の方々が国内外にしっかり地元をアピールできるようにしたい。
――温泉地を応援する施策には「新・湯治」もある。
「新・湯治」は、現代のライフスタイルにあった温泉地の過ごし方を関係者と連携して提案することが狙いだ。温泉入浴はもとより、自然、歴史・文化、食など、温泉地のさまざまな地域資源に目を向け、温泉地への滞在を通じて心身をリフレッシュしてもらう。温泉地滞在の効果を客観的に示そうと、効果測定調査プロジェクトも実施している。昨年度からは、滞在客へのアンケートという主観的なデータだけでなく、指輪型のウェアラブル・デバイスで計測された、心拍変動や睡眠の質、体温の変化などを活用する試みも始めた。客観的なエビデンスに基づく効果をPRしたいと考えている。
――担当業務は、温泉資源の保護、適正管理や安全対策、温泉熱の有効活用など幅広い。
温泉の湧出量に減少が見られるような地域では、「温泉モニタリング」の導入などを通じ、温泉資源の状況を常時計測する取り組みが重要になっている。また、温泉に関する可燃性天然ガスや硫化水素については、危険性を理解し、適正に管理、対応していく必要がある。近年ではクマの出没も課題になっている。観光客だけでなく、温泉施設の従業員の安全にも関わる。ゴミの管理など、クマを寄せ付けない対策を地域一体で徹底する必要がある。温泉熱の有効活用についてはすでに地域ぐるみの給湯、融雪、農業用ハウスの暖房などさまざまな活用が進んでいる。脱炭素社会の実現、エネルギーの地産地消につながる取り組みだ。良い提案があれば、導入を支援する事業があるのでぜひ活用してほしい。
――最後に温泉関係者に向けてメッセージを。
温泉は国民共有の宝だ。温泉資源、温泉文化を守り伝えていけるよう、2030年の審査が見込まれている「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産登録に向け、さまざまな手を打っていきたい。加えて、温泉資源、温泉文化のベースとなっている自然環境と長く良い関係を築いていくことが、今まさに私たちに課せられた課題だ。それらの課題解決に向けて、関係者の皆さまに協力をお願いしたい。
【聞き手・向野悟】

濵名氏




