帝国ホテル京都の本棟、「旧弥栄会館」として国登録有形文化財の登録が継続 外壁タイル1万6000枚超を「生け捕り」再利用


 帝国ホテル京都の本棟は7月9日、国の文化審議会の審議を経て、登録有形文化財(建造物)「旧弥栄会館」として登録が継続された。同ホテルは、国の登録有形文化財かつ京都市の歴史的風致形成建造物である「弥栄会館」の一部を保存・活用し、2026年3月5日に開業。保存範囲が縮小したにもかかわらず登録が継続されたことは、「全国的にも注目されるケース」(帝国ホテル)だ。

 帝国ホテル 京都が位置するのは、祇園甲部歌舞練場の敷地内。1936年(昭和11年)に竣工した弥栄会館は、鉄骨鉄筋コンクリート造、地上5階地下1階建ての劇場建築で、設計は株式会社大林組の木村得三郎によるものだ。2001年(平成13年)に国登録有形文化財に、2011年(平成23年)に歴史的風致形成建造物に指定されている。

 竣工から90年の歴史を持つこの建物は、老朽化や耐震性の問題により、劇場を含む大部分が使用できない状態となっていた。株式会社帝国ホテルは弥栄会館の一部を保存・活用するかたちで「帝国ホテル 京都」として開業させた。設計施工は株式会社大林組が担った。

「生け捕り」16,387枚 オリジナルタイルの再利用

 登録有形文化財(建造物)の建物においては、建築面積の変更や外観を変更する範囲が通常望見できる4分の1を超える場合、現状変更の届出が必要となる。帝国ホテル 京都の本棟は保存範囲が縮小したものの、外壁2面および躯体の保存、外壁タイル・テラコッタの保存と再利用、銅板屋根や飾り金物の更新などを実施。これらにより、建築物の最も重要な要素である立面構成について「価値が十分に保持され、新たな生命を与えられた」として、登録が継続された。

 外壁の保存では、景観継承の観点から南西面の外壁を残す必要があったほか、施工中の安全性も考慮し、構造体の解体と補強が並行して進められた。外装材であるタイルとテラコッタの保存・再利用、外観の特徴である軒庇の保存も行われている。

 特に注目を集めているのが、外壁タイルの保存手法だ。地元の人たちや観光客の目につきやすい南西側の外壁のタイルの大半は、剥落防止措置を行いそのまま残した部分と、「生け捕り」して再利用した部分で構成される。

 「生け捕り」とは、再利用を前提に、既存の材料に損傷を与えないように取り外すことを指す。本工事では、外観を構成していたオリジナルのタイル16,387枚(解体前建物全体の10.6%)を生け捕ることに成功した。

テラコッタに「宝相華」、銅板屋根は形状を忠実に再現

 外壁のもう一つの特徴が、壁面の装飾部材であるテラコッタのレリーフだ。劣化の状態に応じて修復し、アンカーピンを打ち付けて固定している。文様は自然や和を感じさせる唐草文様の一種「宝相華(ほうそうげ)」。弥栄会館の意匠的アイデンティティを今に伝える要素のひとつだ。

 弥栄会館の外観で印象的な屋根については、劣化が進んでいたため新たに作り直した。銅板を使用し、オリジナルの形状と寸法を忠実に再現。時間の経過とともに銅色から濃茶色、黒色、緑色へと変化し、やがて工事前のような屋根色になることが想定されている。軒丸の「歌」の刻印も再現された。

 内部では、正面玄関の風除室まわりの天井と壁材の一部を保存して再利用した。内装においても、天井で使用されていた梅の枝の文様が描かれた創建時のエッチングガラスが再利用されている。

「社会の進展に適應する會館」として生まれた建物

 弥栄会館は、歌舞練場を補完する目的と「社会の進展に適應する會館の必要を感じ」(『弥栄會館建築趣旨草稿』)建設された。各階に銅板瓦葺き屋根をかけ、塔屋状の正面中央部は付庇(つけびさし)や宝形造屋根(ほうぎょうづくりやね)が城郭の天守を思わせる造形で、和風意匠の伝統を巧みに織り込んでいる。

 当初は演劇や人形浄瑠璃などに用いられたが、その後は映画館やダンスホール、コンサートなど各種興行にも利用され、地域の人たちから長く親しまれてきた。

 帝国ホテル 京都の内装は、株式会社新素材研究所のさかき田倫之氏が手掛けた。弥栄会館の意匠を受け継ぎつつ、日本古来の自然素材などを用い、五感に訴えかける寛ぎの空間を創出している。

「全国的にも注目されるケース」 文化財保存のあり方に一石

 文化的な価値のある歴史的建造物が老朽化や耐震性の問題によって改善が必要となった際、やむなく解体されるケースも多い中、帝国ホテル 京都が採った保存・活用の手法は、登録有形文化財として「全国的にも注目されるケース」とされている。

 今回の登録継続にあたっては、外壁2面および躯体の保存、タイルとテラコッタの保存・再利用、銅板屋根や飾り金物の更新が評価された。建築物の最も重要な要素である立面構成について、価値が十分に保持され、「新たな生命を与えられた」との判断が下された形だ。

 弥栄会館の名称と沿革を整理する。

  • 1936年(昭和11年):竣工

  • 2001年(平成13年):国登録有形文化財に登録

  • 2011年(平成23年):歴史的風致形成建造物に指定

  • 2026年(令和8年):国登録有形文化財(建造物)の名称が「旧弥栄会館」に変更、登録継続

 登録継続の日付は2026年7月9日。帝国ホテル 京都の公式サイトは https://www.imperialhotel.co.jp/kyoto で公開されている。

 
 

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