【星野リゾート×Agoda トップ対談】「トラブルが会話のきっかけだった」 星野リゾートとアゴダが包括的パートナーシップ 


星野リゾート代表の星野佳路氏とアゴダCEOのオムリ・モルゲンシュテルン氏

 星野リゾートとアゴダ(Agoda)は昨年11月、包括的パートナーシップを締結した。その経緯と狙いについて、星野リゾート代表の星野佳路氏とアゴダCEOのオムリ・モルゲンシュテルン氏の両名に直接話を聞いた。

 アゴダと星野リゾートは2025年11月12日、戦略的パートナーシップを締結した。アゴダは星野リゾートが展開する全6ブランドの宿泊施設を掲載する初の旅行プラットフォームとなった。

 日本国内外の旅行者に対し、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」、そして新ブランド「LUCY」を一括で検索・予約できる環境が整った。なお、日本国内からの予約においては一部対象外の施設がある。

 

きっかけは予約トラブルの解決

 パートナーシップ締結に至る経緯について、星野氏は率直に語った。

 「昨年パートナーシップを結ぶまでは、アゴダさんとの直接契約はなかったんです。近年、この業界では非常に複雑にエージェント同士が手持ちの部屋をシェアし合っていることにより、実際には予約のないお客様がホテルに現れたりなどのトラブルが発生していました。そのトラブルを解決しようということが、実はアゴダさんとの会話のきっかけだったんです」

 アゴダとの直接契約がない状態での予約流通が、思わぬトラブルを生んでいた。その解決を目的に始まった対話が、やがて包括的なパートナーシップへと発展した。

 星野氏は続けて、アゴダのエンジニアリング体制に高い評価を示した。「実際にお話ししてみると、非常に強いエンジニアリングチームがバンコクとインドとシンガポールにあって、私たちの課題を理解していただき、早期に改善していただきました」。

 この改善の速さが、星野リゾート側に大きな印象を与えた。さらに、アゴダが東南アジア・東アジアで持つマーケットシェアの大きさを認識する機会にもなったという。

 社内では、担当者の吉川明希氏が「アゴダさんといろんなトラブルはあったんですが、一緒に仕事をすべきだ」と強く主張したことが、最終的な決断を後押しした。星野氏は吉川氏について「フラットな組織文化のなかで星野リゾートの競争戦略として自分が信じる方向を提案していました」と語り、担当者の主張がチーム内での合意形成につながった経緯を説明した。

 アゴダCEOのモルゲンシュテルン氏も、このパートナーシップの基盤について語った。「パートナーシップにおいて信頼関係が最重要であり、迅速な対応と目標設定により星野リゾート様との信頼を構築しました」。日本市場から受けたフィードバックを「建設的で、クリアでアクショナブルな形」で受け止め、エンジニアリングの能力を活かして素早く対応したことが、信頼関係の礎になったと強調した。

 

毎月最高取扱額を更新 5月は月間1.2億円規模

 販売は2025年10月末に開始し、11月から本格展開が始まった。星野リゾートで本パートナーシップをリードしてきた吉川氏は「今は毎月最高取扱額を更新しています」と現状を報告した。2026年5月時点では月間取扱額が約1億2000万円の水準に達している。

 「まだ販売開始して半年なので伸び代はあります。もっともっと一緒に取り組んでいけることもあるかなと思っていますので、これからも取れるところはあると思っています」(吉川氏)。

 星野氏は金額の伸びだけでなく、その内訳を重視している。

 「アフィリエーションで入ってくる数が伸びているわけではなくて、直接契約して直に入ってきている部分が成長しています。それによってシステム上は以前のような大きな問題は起こらなくなりました。まだいくつかの課題は残っていますが、コミュニケーションをとることで解決していくことができると考えています。」

 アゴダを通じた在庫の流通方式が「アフィリエーション経由」から「直接契約による直接流通」へと移行したことで、予約の精度が高まり、共同プロモーションにも取り組みやすい関係が構築されつつある。

 

OTA契約は「施設ごとに絞る」が基本方針

 

 星野リゾートのOTA戦略における基本的な考え方は、各施設でのOTA契約数を絞り込み、特定のプラットフォームと深い協力関係を構築するというものだ。

 「OTA同士は競争しています。そういう環境で、多くの競合しているOTAと仕事をすると、どこのOTAとも私たちは特別な関係を築けないんです。私の中では関ヶ原の戦いと同じなんですよ。ポジションを取り信頼できる味方になり勝つことに貢献する。だから分け前も大きくなります。」(星野氏)。

 具体例として、温泉旅館ブランド「界」は国内ではじゃらんとのみ契約しており、楽天や一休とは契約していない。「星のや」も沖縄を除く施設は国内OTAとは契約していないという。

 「じゃらんとの契約に絞っているから、じゃらんは私たちを大事にしてくれますし、私たちもじゃらんチャネルを大事にしていけます。スタッフも、それぞれのOTAでアルゴリズムが違いますから、そこに最適化する作業に奔走しなくて済む」(星野氏)。

 この方針は海外市場でも基本的に同様だ。インバウンド客の60%以上が直予約で入っており、欧米市場ではプロモーションエージェントを通じてブランド認知を高め、自社直予約に誘導する流れが最大の柱となっている。

 アジア市場においては「リピーターが多くなると予測しています」(星野氏)とし、アゴダとの関係を重視する理由として、東南アジアでの強いシェアと、リピーター獲得に向けたチャネルとしての意義を挙げた。

 

インバウンド「実力以上の数字」に警鐘

 日本の観光業の現状について、星野氏は厳しい見方を示した。

 「今4300万人というのはかなりの大きな数字です。それが今現在の本当の実力ではないと思っています。例えば過去15年の急成長の背景に円安がありました。劇的な円安が日本に行く旅行を安くした。同時に今世界を見ていただくと、行く場所はちょっと減っているんですね」。

 中東情勢の不安定化やアメリカの人気低下など、複合的な外的要因が訪日客増加を後押ししているとし、「実力以上に数字が上がっているように見えています」と指摘。今後、正常化に向かう過程でインバウンド数が下がる可能性さえあると語った。

 課題として挙げたのが、二次交通の利便性と観光産業の労働力不足だ。「観光産業に従事すると日本の製造業と比較して給与が低いです。少なくとも日本の製造業と同レベルには職場の給与体系を上げないといけない」と述べ、ファンダメンタルな実力を高めることの必要性を訴えた。

 インバウンドそのものが平準化に寄与するとの見方も示した。「世界の国々は、それぞれに違う時期に大型連休があります。違う時期に旅行していただいて、そもそもインバウンドの場合は平日にも旅行してくれているんですね。インバウンドをしっかりとある程度の比率入れていくことが年間の需要平準化につながります」(星野氏)。

 星野リゾート自身は、この時期に良いロケーションへの施設開業を積極的に進めている。「今年も8施設開けますが、来年も同じくらいの施設を開業していく予定です。外資の参入者が入ってくる前にポテンシャルの高い観光地で良いロケーションを取ることは大事だと考えています。」(星野氏)。

 

AIを活用した「コネクテッドトリップ」戦略

 

 モルゲンシュテルン氏は、今後のアゴダの方向性として「コネクテッドトリップ」戦略を掲げた。宿泊だけでなく、フライト・交通・体験アクティビティを含めた旅行全体を一括でプランニング・予約できるプラットフォームを目指すというものだ。

 「今日のように雨の日には予定を変えるということも自動的にできるようなプラットフォームにしていきたいと思っています」と語り、AIアシスタントの活用を前提に据えている。

 生成AIの登場については「20年ぶりの良い機会です。ちょうど携帯電話が生まれたとき、インターネットというものができたときと同じような形で、非常に良い機会に恵まれています」と評価する。

 具体的には、顧客の旅行履歴や好みをプラットフォームが学習し、類似したプロフィールの旅行者に対して個別化された提案を行う仕組みを構築中だ。「お客様がよりよく入りやすくなって、予約がしやすい環境をアゴダのプラットフォームの中で完結するというものを今取り組んでいます」(モルゲンシュテルン氏)。

 星野リゾートの各地施設への集客においても、この戦略は重要な意味を持つ。「星野さんの施設も地方にも非常に素晴らしい施設が多くあります。そういったところにお客様をお連れするために交通の手配をするということが重要になります」(モルゲンシュテルン氏)。

 

アゴダの強みはローカリゼーション

 アゴダが競合他社と差別化を図る戦略の核心は、ローカリゼーションにある。

 「日本のアゴダはインドのアゴダとは異なります。中国のアゴダとも異なります」とモルゲンシュテルン氏は述べ、各地域の旅行習慣に合わせてプラットフォームそのものを作り変えていることを強調した。

 このローカリゼーション対応には、技術開発に多大な工数がかかるという。「弊社の財務諸表などを見ていただければわかるのですが、利益がそれほど大きくなっていないのは、そのように開発に工数がかかっているということも関係しています」と率直に認めた。

 翻訳サービスについても、単なる言語変換にとどまらない取り組みを進めている。「翻訳は単に言語だけではなく文化的なものです。タイ人やフランス人、インド人に、そのまま日本のウェブサイトを言語に翻訳したとしても彼らには使えない。文化的な文脈の説明をするというところが必要です」(モルゲンシュテルン氏)。

 

「ラーメンは世界最高のストリートフード」 箱根の温泉も経験

 モルゲンシュテルン氏は現在バンコク在住。もともとイスラエル出身で、日本の食文化への親しみをこう語った。

 「バンコクにも和食が多いので、和食は大好きです。ラーメンが世界中のいろんなストリートフードと比べても、やはり世界で一番素晴らしいと思います。たくさん食べ過ぎるとあまり健康にも良くないとは思うのですが、ラーメンが大好きです」。

 特に印象に残る一杯として、息子とお茶の水を訪れた際のエピソードを明かした。12歳の息子がギターを弾いており、お茶の水のギター店でギターを購入した帰り道、現金オンリーで英語表示もない地元のラーメン店に入り、写真だけを頼りに注文。「それが今まで食べた中で一番おいしいラーメンでした」と語った。

 温泉については、家族と共に箱根を訪れた経験を語った。「箱根の温泉に行きました。小さい子どもが2人おりまして、12歳と19歳の子どもと一緒に温泉に行ったのですが、驚いたことに、ディズニーランドよりもユニバーサルスタジオよりも、日本で何が楽しかったかというと温泉が良かったと言うんですね」。子どもたちにとっても印象的な体験になったと、笑顔で振り返った。

 また、沖縄の離島にある星のや竹富島にも強い関心を示し、「妻を説得して行きたいと思っています。何年日本に通い続けても、まだまだ行きたいところがたくさんあります」と語った。

 

日本市場に「楽観的」 検索数は前年比35%増

 日本の将来性について、モルゲンシュテルン氏は楽観的な見方を示す。アゴダの検索データによると、日本は同プラットフォーム上で世界で最も検索されている旅行先であり、2025年上半期には宿泊施設検索数が前年同期比35%増を記録。国内旅行も前年同期比11%増と好調に推移した。

 「お会いする方々に皆さんどこに行きたいかを聞くと、日本に行きたいとおっしゃる。日本市場の展望としては非常に楽観的に考えています」(モルゲンシュテルン氏)。

 2025年における訪日旅行者の人気都市はアゴダの検索データ上、東京(1位)、大阪(2位)、福岡(3位)が上位を占める一方、地方都市の人気も急上昇している。特に高松(63%増)、松山(44%増)、仙台(32%増)、沖縄(27%増)、札幌(26%増)が宿泊検索の伸び率上位に入った。

 アゴダの検索データによると、主な訪日旅行者は韓国(1位)、台湾(2位)、香港(3位)からの利用者だ。

 星野リゾートの宿泊施設の多くは地方に位置しており、両社は拡大する地方への旅行需要に対応する体制を強化している。

 

パートナーシップの概要

  • 締結日:2025年11月12日
  • 当事者:アゴダ(Agoda)、星野リゾート
  • 内容:アゴダが星野リゾート全6ブランドの宿泊施設を掲載する初の旅行プラットフォームとなる包括的パートナーシップ
  • 対象ブランド:星のや、界、リゾナーレ、OMO(おも)、BEB(ベブ)、LUCY
  • 備考:日本国内からの予約においては一部対象外の施設あり

アゴダについて

 世界600万軒以上のホテル・バケーションレンタルを擁するデジタル旅行プラットフォーム。Booking Holdings(Nasdaq: BKNG)傘下。シンガポール本社、世界27拠点で7,000名以上が勤務。ウェブサイト・アプリは39ヶ国語対応。

星野リゾート代表の星野佳路氏とアゴダCEOのオムリ・モルゲンシュテルン氏

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 

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