AIで入り口が変わっても「OTAは大きく変わらない」――国内OTA3社が語るAI活用の今と日本の旅行再構築


 トラベルテクノロジーのグローバルカンファレンス「WiT Japan2026」が6月1・2日の2日間、ウェスティンホテル東京で開かれた。2日には、楽天トラベル、じゃらん、JTBによる国内OTAセッションも行われた。楽天グループ トラベル&モビリティ事業事業戦略部ジェネラルマネージャーの皆川直久氏、リクルートDivision統括部旅行Division Vice Presidentの大野雅矢氏、JTB執行役員ツーリズム事業本部Web戦略担当の池口篤志氏が登壇した。

 モデレーターはTRAVEL.jp(ベンチャーリパブリック株式会社)共同創業者兼元CEOでWiTジャパン共同創業者の柴田圭氏が務めた。セッションのテーマは「日本の旅行再構築(The Great Japan Travel Reset)」。グローバルOTAや新技術によって配信ダイナミクスが急変する中、国内の現職プレイヤーたちがどう立ち向かっているかを問うものだった。

左から柴田(司会)、池口(JTB)、皆川(楽天トラベル)、大野(じゃらん)の各氏

危機感は「強まった」――AI台頭を前に各社が前進

 セッションの冒頭、柴田氏はAIやOTA以外の流通プレイヤーの台頭について「去年と比べて危機感は強まったか、弱まったか」とイエス/ノーで問いかけた。

  池口氏は「難しいですが、イエス」と答え、大野氏もイエスと即答。各社がAIの台頭に対する緊張感を持って臨んでいることが示された。

  続いて柴田氏は、2025年から今年にかけて自社の中で最も大きく変わったKPIを数字で示すよう求めた。

  皆川氏は、楽天モバイルと楽天トラベルのクロスユースが「非常に順調」と報告した。「楽天モバイルはおかげさまで1000万回線を突破しました。楽天モバイルのユーザーが楽天トラベルを予約する流通額が、2026年Q1で対前年20%以上成長しています」。楽天モバイルの契約ユーザーが非契約者と比べて楽天トラベルでの利用額が高くなるという楽天経済圏の効果が数字として表れてきたと説明した。

 大野氏は経営KPIの積極的な開示は控えつつも、宿泊施設の業務効率化を支援する「レベニアシスタント」の導入が前年比で2桁成長していることを明かした。「マーケットの不確実性が高まっている中で、適切な価格設定を容易にしたいというニーズが非常に高まっている」と語った。

 池口氏は事業数字ではなく、JTBのツーリズム事業本部における社内チャットの使用率を取り上げた。「昨年から比べて約3倍になりました。AIチャットを活用してさまざまな知見をシェアしたり、業務効率化を進め、その時間をお客様やサプライヤーの皆さんに捧げるという業務改善を進めています」と述べた。

AIは「効率化ツール」から「全業務の前提」へ

 続いてセッションは、各登壇者自身のAI活用の変化へと移った。

 皆川氏は1年前との変化をこう語った。「昨年はAIを効率化ツールとして、議事録の作成やメールの返信、ドラフト作成や簡単なリサーチに使っていました。今はもう少し進化して、業務プロセスの一部を自動的に実行してもらう使い方もしています」。メンバーへの作業指示と同様の形式でAIに指示を出し、社内ツールへのアクセスから分析、戦略立案、資料作成まで自動化できているという。なおセッションで使用したパワーポイント資料は、楽天が社内で開発した「楽天AI」で作成したものだと明かした。

 大野氏は「AIに触れている物量がだいぶ変わった」と感じていると話した。「1年前は自分たちが顕在的に抱えている問いや問題意識に対してAIに投げかけていました。今はAIと対話することで、気づいていなかった問題意識や問いに触れることが増えてきました」。業務とプライベートの双方でAI活用が深まっているという。

 池口氏は個人というより会社・組織としての変化を強調した。「全ての業務にAIを取り入れられるという確信が、昨年のあるタイミングから持てました。今はもう、AIが関わらない業務はないというマインドに変わっています」。

楽天「予約もAIで完結」、じゃらん「まだ課題も」

 ユーザー向けAI活用の現状についても詳しく語られた。

 楽天トラベルのAIホテルサーチは2025年9月に100%リリース。今年4月末には予約もAIで完結できるサービスとなった。皆川氏は「ユーザーとの対話の中で、ニーズに合ったホテルを提案し、決済までAIが一気通貫でサポートできるサービスになっています。トランザクションもしっかりと生み出すことができています」と報告した。

 今後については「よりパーソナライズしていく予定です。ユーザーの閲覧履歴や予約履歴をベースに、よりニーズに合った提案ができるようになると考えています」と述べた。

 じゃらんが取り組む対話型AIチャットについては、大野氏が現状と課題を率直に語った。「メインの検索と比べると、検索数という意味ではまだ課題があると正直思っています。対話型AIチャットだけがAI活用のすべてではないと考えており、日々さまざまなチャレンジを繰り返しています。来年に向けてうまくいくものをどんどん取り入れていきたい」と述べた。

 JTBの池口氏は、ユーザー向けサービスはPOC段階であることを明かしつつ、「今年年内にお客様にご提供できる形のサービスをオープンしようと考えています」と述べた。JTBの強みとして店舗とコールセンターという2つのチャネルを挙げ、「現地にいる店員や係員がお客様と対話しているデータを活用して、レコメンドや現地体験の向上につなげる準備を進めています」と説明した。データの収集と整備に着手している段階だという。

「10年後、100人の旅行者のうち40人はAIプラットフォームから」

 セッションでは、10年後の旅行検索の「入り口」がどこになるかをパネリストに予測させるクイズも行われた。100人の旅行者が旅行を計画・予約する際に最初に訪れる場所を、AIプラットフォーム、検索エンジン、OTA、サプライヤー、ソーシャルメディア、ヒューマノイド・ロボット、その他の7択に配分する形式だった。

 皆川氏はAIプラットフォームに30人、検索エンジンに10人、OTAに40人、サプライヤーに10人、ソーシャルメディアに10人と配分した。OTAがまだ最大のゲートウェイであり続けるという見方を示した。

 池口氏はAIプラットフォームに40人を割り当て、検索エンジン10人、OTA25人、サプライヤー10人、SNS10人、ヒューマノイド・ロボット2人、その他3人とした。AIプラットフォームが最大の入り口になるという予測だ。

 大野氏は「テクノロジーの進化は著しく、10年後に今のプレイヤーの形でこのマーケットが動いているとは決して思えない」として、100人全員を「その他」に配分した。市場の形自体が大きく変容しているとの見方を示した。

AIで入り口が変わっても「OTAは大きく変わらない」

 旅行検索の入り口がGoogle検索からAIエージェントへと移行しつつある中で、OTAは何を失い、何を得るのかという問いに対し、皆川氏は「それほど大きく変わることはないと思っています」と語った。

 「楽天トラベルとしては豊富な宿泊在庫、価格、ロイヤリティプログラム、決済、ユーザーサポートという価値提供をしています。入り口がAIに変わっても、そこは変わらない世界だと思っています」。さらに「楽天トラベルというブランドの安心感・信頼感は変わらずあります。我々自身がAIエージェントの提供を始めていますので、旅行者の計画・検討段階のフェーズでも我々のサービスを使っていただけるようになると考えています」と述べた。

インバウンドは全社一致で「不可欠」

 インバウンド成長の必要性についての問いでも全員がイエスと回答した。大野氏は「インバウンドはもちろん成長していく領域だと思っており、無視できません。ただインバウンドだけに全力投球しているわけでも決してなく、他の領域にも注力しています」と付け加えた。池口氏は「会社としてグローバルで稼ぐということ自体も決めています」と語った。

ポイント利用率「ほぼ100%」、楽天経済圏の強固な基盤

 ロイヤリティポイント戦略についての議論では、皆川氏が楽天ポイントの執行状況を明かした。「旅行予約に限ったデータはないですが、楽天グループ全体としては楽天ポイントをほぼ100%使っていただいています。失効がほとんどない形になっています」。

 ポイント戦略の意義については「eコマース、トラベル、フィンテック、モバイルなど70以上のサービスを展開しています。それぞれのサービスを入り口にご利用いただいたユーザーに、クロスユースという形で他のサービスも使っていただく。その起点となるのが楽天IDとポイントです。楽天グループ全体でライフタイムバリューを上げていく選択を取っています」と説明した。

 日本のロイヤリティポイント市場の成熟度について問われた大野氏は「世界のロイヤリティプログラム市場を正確に把握しているわけではありませんが、日本は非常に成熟したロイヤリティプログラムの土台があると思っています」と述べた。

「リセット」すべきは何か――各社が語る自社の課題

 NEXT20(次の20年)に向けた「リセット」すべきものという問いに対し、池口氏は日本の魅力体験の伝え方を挙げた。「日本のお客様、あるいは訪日のお客様に日本の魅力を伝えることが、これまでできてきたのかというと、できてこなかったと思っています。お客様に対する提供のインターフェースの構築をリノベーションしなければいけないですし、地域が持っている魅力を伝えることの見直しを大きくやらなければいけない」と語った。

 皆川氏は「AIがなかった時代の仕事のやり方、そしてユーザーへの提供価値の考え方は、このタイミングでリセットしなければならない」と述べた。

 大野氏は「AIテクノロジーの発展によってあらゆるものが変わってきている。そこに適応することが必要で、捨てることと精度を高めることの両輪で動いていく必要がある」と語った。

ラピッドファイヤー――AIか人間か、自分で予約かAIエージェントか

 セッション最後には「ラピッドファイヤー」と題した二択問答が行われた。

 「AIか人間のコンシェルジェか」という問いに対し、大野氏は「人間のコンシェルジェ」、池口氏は「難しいですが、AI」と答えた。

 「自分で旅行予約するか、AIエージェントに任せるか」については、池口氏が「自分で予約」、皆川氏は「AIエージェントにサポートしてもらいながら自分で予約」、大野氏も同様の回答をした。

 「ChatGPT・Gemini・Claude」の3択ではGeminiを選ぶ声が複数あがったほか、皆川氏は楽天がOpenAIと業務提携していることを理由にChatGPTを選択した。

 ターゲット層として「シニア旅行か若者旅行か」と問われると、全員が「若者」を選択した。

 「フライトをエアラインの公式サイトで予約するか、OTAで予約するか」に対しては、池口氏・大野氏ともに「立場上OTAで」と答えた。

 「Amazonトラベルか、ChatGPトラベルか」という問いでは池口氏が「AmazonTravel」と回答。「AmazonトラベルかMUFGトラベルか」については池口氏が「Amazonさんかな」と答えた。

 「プレシジョン制度か、リインベンション(再構築)か」では大野氏が「どちらかと言えばリインベンション」、池口氏・皆川氏は「制度」を支持した。

 「日本の次の力は静かなる力(クワイエットパワー)か、圧倒的な力(ドミナント)か」という最終問答では、皆川氏がクワイエットパワーを選択。池口氏は「お二人がクワイエットなので逆にいきましょう」とドミナントを選び、セッションを締めくくった。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 

注目のコンテンツ

第39回「にっぽんの温泉100選」発表!(2025年12月15日号発表)

  • 1位草津、2位下呂、3位道後

2025年度「5つ星の宿」発表!(2025年12月15日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第39回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング 」(2026年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト50を発表!

2025年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング」(2026年1月12日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒