「自己破壊が先を生き続ける唯一の方法」アゴダCEOが語るAI時代の経営哲学


Agoda(アゴダ)のオムリ・モルゲンシュテルンCEO

 トラベルテクノロジーのグローバルカンファレンス「WiT Japan2026」が6月1・2日の2日間、ウェスティンホテル東京で開かれた。Agoda(アゴダ)のオムリ・モルゲンシュテルンCEOも1日に登壇した。

 モルゲンシュテルン氏は6月1日、WIT創設者のヨー・シウフン氏とのコーヒーチャット形式のセッション「次の20年で勝つのは誰?」に登壇。アゴダでの12年間を振り返りながら、AI時代における経営戦略、人材戦略、日本の文化的価値などについて幅広く語った。

バンコクをアジアのシリコンバレーに

 モルゲンシュテルン氏がアゴダに入社した2014年当時、同社は数百人規模の企業だった。現在は8000人を超える組織に成長している。

 「当時ビジョンを作った。オンラインの素晴らしい経験を提供したい。テクノロジー、データ集約型で、そして最も優秀な人材を、例えばシンガポール、バンコクにシリコンバレーを作りたいと言ったんですけど、今でもその夢を追求しています」とモルゲンシュテルン氏は述べた。

 バンコクのテックハブについては、ローカル人材の育成だけでなく、アジアで競争力を持つためにAI分野の外部人材を獲得する拠点として機能させる考えを示した。

「賢い人だらけになったら、人の言うことを聞く」

 リーダーシップの変化についても率直に語った。入社当初は「自分の方が賢い」と思っていた時期もあったとしながら、組織が拡大するにつれてその姿勢を変えてきたという。

 「ある時点で、もうその頃には賢い人だらけであると悟った。皆さん司令官なので、彼らの言うことを聞かなくてはいけない。それぞれの目標を聞かなくてはいけない。そして意見の多様性を理解することが必要になった」と語った。

 意思決定においてはデータを最重視する姿勢を強調。「データの根拠なしに、いろいろな主張をされても納得はしません。優れたデータがあれば、説得力があります」と述べた。

 一方で、人間の感情や共感の重要性も認めた。「直感と思いやりは別です。人間はとても感情を持った生き物。共感、思いやり、これが人を結びつけると思います」とした。

 そのうえで、意思決定の核心として「あらかじめ何を達成するのか、どうやって達成するか、これはデータだ。そしてそれに基づいて決めたことをやり抜くことが重要。これが成功の要だ」と語った。

最適化から「宿命を超える変革」へ

 AI時代における自己変革の必要性についても言及した。

 「この破壊的な変化のAIの時代において、私たちは最適化から本当にその直感だけではなく、それを超えてその宿命を超えていかなくてはならない。それがみんながやらなければならない破壊的な変化だ」と述べた。

 変革の方法論については、全てを一度に壊すのではなく段階的に進める考えを示した。「30%壊す、あるいは40%壊す。100%全部やり直そうということは正しいやり方ではないと個人的に思います」とした。

 現在アゴダ社内で取り組んでいる「賭け」として、2つを挙げた。1つ目は「一人のエンジニアが10人分の仕事をできるかどうか」の検証と実行。2つ目は「消費者向けオンライントラベルサービスを使うことによって、これまで以上のトラベルプランや、今までバラバラにやっていた情報も含めてできるようにすること」だ。

  「この方向が正しいと思うので、反復してやっている。でもそこには意思も重要ですし、段階を踏む、その能力も必要だ」と説明した。

AIはキャンバスを渡す、コントロールはユーザーに

 AIによる旅行計画の自動化については、慎重な姿勢を示した。

 「自動化と簡略化は同じことではありません。つまり、旅行計画を立てるのが難しいから楽しいわけですよね。ほとんどの人たちは楽しむ。何を買うか、最初から分かりたいとか、その余費ってかなり大きいですよね」と述べた。

 アゴダとしての設計方針については次のように語った。「彼らに力を与える権限を与えることです。キャンバスを与えて手段を与えて、そのレコメンデーションを与えながら、彼らがコントロールを取って自分で作っていく。AIが全部それをやってしまうというわけではないんです」。

 「AIはもちろんレコメンデーションを出すと思いますけれども、コントロールは私たちに残す。それこそ私たちの考え方の根底にあります」とも強調した。

B2BとB2C、切り分けながらシナジーを追求

 B2B事業についても詳しく語った。Booking Holdings傘下の各ブランドがB2Bで協力する取り組みの現状と課題に言及。

 「B2Bになるとパートナー数も絞ることができますし、B2Cで素晴らしい能力が、実はB2Bでは競争の種になることもある。ですので、同じ製品に何度も何度も投資していくことになる」と説明した。

 かつてライバルだったブランドを束ねることの難しさについては「B2Bの場合は1足す1イコール3って簡単にはいかない。分断していって、B2Bに一つの製品に集中しています。一番いいプロダクトを出そうとするわけです」と述べた。

 B2BとB2Cの成長機会については「どちらも似たような成長機会があると思っています。ただ切り分けるべきです。お互いに悪い影響を間違って与えかねないからです」との考えを示した。

 B2B成長のためのM&Aや新規事業創出については「ケースバイケース。決してどっちか選ぶことはないと思います」とした。

日本の「Quiet Power」をトラベルテックに

 セッション後半では、日本固有の文化的価値についての見解が披露された。

 「私はみんな日本に来る人はその美しさ、美の感覚、完璧を期すその姿勢に憧れると思います。日本では一生懸命学んで、そして完璧を期そうとします。地球のどこよりもそういったところがあると思います」と語った。

 「彼らはまた同時に美を生み出すことができます。他のどこよりも美しさがあります。例えば食べる時もそうですし、また美術館もそうですし、全てが彼らの投資もしていると思いますし、そして信じられないほどの美しさがあると思います」とも述べた。

 この完璧主義と美意識をトラベルテックに取り込む方法については「まず日本人を雇うことが一番早い」と直言。加えて「多様性が必要で、いろんな人がいて、いろんな能力を持っている人たちが集まることが必要でしょう。でも最終的な着地点は、完璧・美を追求するそういった気持ちが必要だと思います」と語った。

AIの精密さと人間の感情の共存

 AIの精密さとスピードの両立についても言及した。顧客サポートにおけるテストの事例として、「AIに97%の精度でオペレーションをやってほしいと思う人がいる。でも実際、人間は92%なんです。人間は一貫性があるわけではない。感情がある。疲れていることもある。でもAIは疲れない。でもバグがある」と述べた。

 「AIは精密さを上げるでしょうけど、これはジャーニーです。AIを作りながら、どうやって精密さを高めるか、全部のプロセスの中で組み込まなくてはいけない。AIはクリエイティビティ、スピードを改善する、そして同時にまた精密さも高めると思います」と説明した。

 AIが人間の友人や心理的サポーターになり得る可能性についても言及。「正しくやれば、AIには友達になるようなポテンシャルもあると思います。AIは私たちの心に訴えてくる方法を学ぶと思います」と語った。

「失敗しなければ、完璧になる方法は分からなかった」

 スピード時代に勝ち抜くために日本に必要なこととして「プッシュが必要でしょう。スピードのためにはプッシュが必要です。過ちを犯して、そしていち早く立ち直る、変更する」と指摘した。

 「学ぶ、そして学ぶことによって、究極の製品ができると思います。学ぶときにはもちろん失敗が必要です。完璧というのは失敗をしないので、その辺は両立しないと思います。ですからこれをうまく組み合わせることが必要です」と述べた。

 自らの失敗に触れながら「こういった間違いによって私はより完璧に近づいてきたと思います。こういった失敗をしなければ完璧になるかを知ることはなかったと思います」と語り、セッションを締めくくった。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 
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