【専門紙誌5社共同企画】各紙誌の視点で見る「群馬県の関係人口拡大施策」 マッチングサイト開設やイベントで「密な交流」促進


群馬県

 観光経済新聞、東京交通新聞、塗料報知、農村ニュース、ハウジング・トリビューンの専門5紙誌は、2026年度の共同キャンペーン企画として「自治体の関係人口増への取り組み」を特集する。





二つのサイトを新設

求人と”お困りごと”解消

 群馬県の観光推進組織、群馬県観光物産国際協会は、県内の観光産業の下支えに、新たな取り組みを進めている。観光関連事業者の採用を支援する求人サイト「ツムグンマ」と、地域の団体・企業の“お困りごと”解決を目指すプラットフォーム「だんベース」だ。

 同協会は長年にわたり、「来てください」と呼び掛ける観光宣伝を主な仕事としてきた。しかし、そう言えなくなったコロナ禍の時期、組織は変わらざるを得なくなった。

 「『観光産業を支える仕事をしなければいけない』。これが新たな事業の発想の原点です」と、同協会地域プロデュースユニットの天田亮介マネージャー。

 昨年1月に協会の第1期中期経営計画をスタート。「インバウンド誘客」「物産振興」に加え、「観光人材の確保」など、合計七つの重点施策を盛り込んだ。事業はその一環で始まった。

 観光業界における人手不足は群馬県においても深刻だ。採用活動を進めても、中小・零細企業が多い宿泊をはじめとする観光事業者は給与水準が必ずしも高くなく、「勤務時間が長い」「休みが少ない」などのイメージもある。情報発信をする上でも大手企業にかなわない。

 これらの問題意識から生まれたのが、昨年9月30日にリリースされた求人サイト「ツムグンマ」だ。宿泊、飲食、レジャー、観光農園、運輸といった観光関連産業の事業者を取材し、経営者の思いや現場スタッフの素顔を記事形式で伝える、いわば「読む求人情報」だ。

 「スペック的な情報だけだと採用面でなかなかアドバンテージが取れない。そういう中でもいきいきと働いている方はたくさんいらっしゃるわけで、これらの方々の素顔や経営者の思いを取材させていただき、記事形式で求人情報を出す」

 取材は事前ヒアリングを経てからライターとカメラマンが現場に入る形で進められる。掲載までに一定の時間を要するが、それが逆にコンテンツの密度を高めている。

 掲載は原則として無期限。群馬県内の観光関連事業者であれば、現時点では無料で利用できる。事業は厚生労働省の「地域活性化雇用創造プロジェクト」の支援を受けている。

 現在は10社が掲載されている。実績として、高崎市内のボウリング場「パークレーン高崎」への採用が1件成立した。掲載企業の名前でネット検索すると、ツムグンマのサイトが上位に表示されることがあり、この状況も求職者の応募を後押ししたようだ。

 今後は求職者側へのサイトの認知拡大も課題として挙げられており、群馬県が「移住希望地ランキング」1位に選ばれていることも追い風に、移住相談窓口での同サイトの告知も検討されている。

 今年3月末にリリースされたのが、もう一つの新プロジェクト「だんベース」だ。「だんベー」とは群馬弁で「…だろう」を意味する言葉で、みんなが集まる拠点(ベース)と掛け合わせて名付けられた。

 群馬県内の市町村・団体・企業などに、自身が抱える“お困りごと”を登録してもらい、群馬を応援したいという人々とつなぐマッチングサイトだ。

 「群馬県に一度ではなく、何度も来ていただくために、何ができるかと考えたのが発想の原点」と天田氏。議論を重ね、「『地域のために何かをしたい』という人を動かすことも有効なのではないか」と、今回のプロジェクトに行き着いた。

 群馬を応援したい個人・団体と、お困りごとの相談の両方をサイトのフォームに登録してもらう。相談については同協会がヒアリングを行った上でサイトに掲載。登録した個人・団体に情報を発信し、関心を持った人や団体とのマッチングを進める仕組みだ。

 リリースから間もないが、既に18人、3団体が登録しており、その中には県外在住者や、海外在住の同県出身者も含まれている。

 今後、掲載が想定されるお困りごとは、「みこしの担ぎ手がいない」「農繁期に人手が足りない」「商品開発へのアイデアがほしい」など。「お困りごとから生まれるちょっぴり特別な体験を通じ、新たな群馬とのつながりを見つけてみませんか」と、協会は多くの利用を呼び掛けている。

事業を説明する同協会地域プロデュースユニットの(左から)天田亮介マネージャー、福田尊仁プロデューサー、君波良祐プロデューサー
事業を説明する同協会地域プロデュースユニットの(左から)天田亮介マネージャー、福田尊仁プロデューサー、君波良祐プロデューサー

(観光経済新聞)

手ぶら観光を推進

MaaSに予約機能追加

 群馬県渋川市は「しぶかわ未来共創プラン」(第3期総合戦略、2025~29年度の5カ年計画)で、居住地を問わずに地域に継続的に関わる「関係人口」や交流人口の増加をうたっている。交通面では、群馬版MaaS(マース=モビリティ・アズ・ア・サービス、移動サービスの連携・統合)の「GunMaaS(グンマース)」の活用に力を入れ、伊香保温泉などでバス・タクシーでの「手ぶら観光」を推進中だ。

 旅行客にJR渋川駅そばの「渋川駅前プラザ」に荷物を預けてもらい、バスなどで市内を周遊してもらう。荷物は伊香保の宿泊先などに届けられる。今年度中に、GunMaaSに手ぶら観光を予約できる機能を追加する。総合戦略には、旅行客数を23年度の353万人から、29年度503万人に増やす目標が掲げられている。

 市の林明美・建設交通部交通政策課長は「手ぶら観光を知らない人が多く、荷物を持ってバスに乗ってから、車内の掲示を見て、『こんなサービスがあったんだ』と話す人もいる。しっかり周知し、利用を促したい」と意気込む。

 温泉街以外にも、伊香保グリーン牧場や渋川スカイランドパーク遊園地なども人気スポット。「次の段階では、GunMaaSで市内の観光施設のチケットを購入できる仕組みを追加したい」と話す。

 総合戦略の数値目標にはほかに、乗合(路線)バスの利用者数を23年度の16万3272人から、29年度16万9千人に維持・増加させることも挙げられている。運転免許を持たない高齢者などの移動手段を確保する。

 渋川市は現在、65歳以上の市民に、バスとタクシーの運賃・料金を割り引いている。GunMaaSで登録した「Suica(スイカ)」などの交通系ICカードで決済すると、路線バスやデマンドバス(予約制・需要応答型のバス)が半額になる。タクシーでは、65~74歳の人は年間5千円を上限に運賃の3割、75歳以上は同1万2千円を上限に半額の割引を受けられる。

 林課長は「群馬は車社会で、電車やバスに乗る文化がない。運転免許があるうちから、飲み会の後などにバスに乗ってもらい、『これなら返納しても大丈夫』と思ってほしい。地域の会合に積極的に出向いて、登録相談会を開いている」と意欲的だ。

 GunMaaSでは、鉄道、バス、タクシーなどの経路検索に加え、市内デマンドバス「しぶのり」の予約にも対応。市外からの来訪者も利用できる。

 関越交通(渋川市、佐藤俊也社長=群馬県バス協会会長)の若木亮企画部長は高齢者割引について、「乗客が運転手に高齢者カードなどを提示する必要がなく、事業者側の事務負担も小さい。利用者数の低下も抑えられている」と分析する。また、「前橋市では若年層のバス利用にも補助している。渋川でも、若いうちからバスを使いやすくする施策を打ち、需要を広げてほしい」と要望している。

JR渋川駅前には、一般路線バス、観光バス、コミュニティバス、タクシーが集結する。連携して移動・観光の足を支える(昨年8月、群馬県渋川市)
JR渋川駅前には、一般路線バス、観光バス、コミュニティバス、タクシーが集結する。連携して移動・観光の足を支える(昨年8月、群馬県渋川市)

(東京交通新聞)

アートをキーに

移住・定住の仕組みづくり

 2年に1度、町が現代アートに染まる「中之条ビエンナーレ」。回を重ねるごとに多くの来場者を集めるこの一大イベントをフックに、群馬県中之条町は単なる観光消費にとどまらない、持続可能な「関係人口」の創出と移住・定住への仕組みづくりを着実に進めている。

 祭りの熱狂を一過性で終わらせないため、町とアーティストが一体となった「裏年(非開催年)」の施策が光る。町主導の「温泉郷クラフトシアター」に加え、移住作家らが主導する作品展示・販売イベント「Art Fair NAKANOJO2026」が開催される。さらに、使わなくなった旅館を改装した通年営業の美術館「YAAP」や古民家ギャラリー、四万温泉の旅館内での作品展示など、年間を通じてアートに触れられる拠点が町内に次々と誕生している。

 国内外から集まるアーティストは、町が無料提供するレジデンスに滞在して制作を行う。町民から古着や廃材、地域の物語の提供を受けるなど、制作プロセス自体に住民が深く関わる。この密な交流が地域コミュニティの活性化や住民の郷土愛の醸成、子どもたちの教育プログラムへと発展している。当初は「外から来たアート」への戸惑いもあったが、山間部での温かいもてなしから始まった交流は、回を重ねるごとに町全体、そして町外ボランティア「ナカミーゴ」をも巻き込む「自分たちの祭り」へと昇華した。

 さらに同町はデジタル田園都市構想に基づき、LINEを活用した「町民パスポート」のデジタル化を皮切りに、オンラインコミュニティ構築やふるさと住民登録アプリの連携を進め、五感のアナログ体験とデジタルを掛け合わせた新たなアプローチも模索中だ。

 現在、町への移住作家は30人を超えた。彼らはアート発信にとどまらず、高齢化が進む地域の伝統行事の担い手や、休耕田の耕作者として地域を支える貴重な戦力となっている。「交流」から「関係」、そして「定住」へ。中之条町が描く人と仕事の好循環は、持続可能な地域社会の確かなモデルケースになりつつある。

 塗料メーカーのアトミクスは、群馬県中之条町の「中之条ビエンナーレ」や「アートフェア中之条」への協賛を通じ、アートと地域社会を融合させる取り組みを行っている。単なる資金・物資の提供にとどまらず、社員が現地の生活者やアーティストと交わることで、製品開発の知見獲得や社内モチベーションの向上につなげている。

 「中之条ビエンナーレ2023」および「2025」では、廃校などを活用した会場に塗料を提供し、アーティストの要望に沿えば、作品制作に使ってもらった。グループ企業のアトムサポートと協力し、調色体験ワークショップ「色+(いろぷらす)」を実施した。前半の座学で三原色や色相環を学び、後半の実技では自社製品を使って理想の色を創る楽しさを伝えた。また、シミュレーション眼鏡等を用いた色覚多様性の啓蒙プログラムも盛り込み、社会インフラにおける色の重要性も伝えている。

中之条ビエンナーレ2025におけるアトミクスのワークショップ(写真提供:アトミクス)
中之条ビエンナーレ2025におけるアトミクスのワークショップ(写真提供:アトミクス)

(塗料報知)

廃墟ホテル群を再生

自然資源の価値を生かす

 みなかみ町は、まちづくりの根幹に自然資源の価値、環境・経済・社会の3側面で捉えるSDGsの未来都市計画を据えている。

 2017年に、豊かな生態系や生物多様性の保全、自然に配慮した持続可能な地域の発展を目指すユネスコの事業「ユネスコエコパーク」に登録された。「利根川の源流であることを流域に暮らす3千万人に伝え、自然資源の価値と重要性をしっかりと伝える責任がある」(みなかみ町企画課・石坂貴夫次長)との考えのもと、自然保護にとどまらず、適切に管理し活用することで経済活動を成立させ、人々の営みを続けていくことを目指す。また、群馬県の約8分の1の面積を持ちながらもその90%が山林であり、水資源の涵養(かんよう)機能を含めて山を持つ自治体であるが故の役割を重要視する。

 こうした特性を踏まえ、これまでさまざまな地域活性化の事業に取り組んできた。自伐型林業を進める中、2018年にオークビレッジ(岐阜県高山市)と包括的連携協定を締結し「森林を育む広葉樹産業化プロジェクト」を立ち上げた。また、2003年に、林野庁、公益財団法人日本自然保護協会、地元住民で組織した協議会、という3者による「赤谷プロジェクト」をスタート、生物多様性の復元と持続可能な地域づくりを進めてきた。三菱地所が連携協定を結び長期的なバックアップをするなど、大手企業の支援も多い。

 現在、みなかみ町の水上温泉で取り組みが進むのが「廃墟再生プロジェクト」だ。2021年にみなかみ町、群馬銀行、オープンハウス、東京大学大学院工学系研究科が産官学金包括連携協定を締結、取り組みを進める長期的な視点でのまちづくりである。

 水上温泉は一時期は関東の奥座敷として人気の温泉街であったが、時代の変化の中でホテルなど複数の建物が使われなくなり廃墟となっていた。4者のほか減築・再生、デザイン・建築設計に再生建築研究所、企画・運営に地域に根ざす場づくりで実績を持つStapleが参加、2028年の完成を目指して再生を進めている。

 まず、ホテルの従業員寮であった「旧ひがき寮」を整備、2022年に「うらろじ納涼ガーデン」や「ミニ廃墟再生マルシェ」などを開催、地域住民など有志がDIYリノベーションを行いクリエイターの拠点としての活用を進めている。旧一葉亭の本館、新本館、第一・第二別館という大規模廃旅館については減築・再生を行い、宿泊施設だけでなく地域に開かれた「まちなか広場」へと再生する。旧一葉亭エネルギーセンターは社会実験の場として暫定活用しており、今後、周辺一帯の回遊性を高める観光の拠点として整備していく予定だ。

「利根川の源流」の価値をまちづくりに
「利根川の源流」の価値をまちづくりに

(ハウジング・トリビューン)

「農的関係人口」に注目

「やま・さと応援隊」など

 農業の担い手不足は深刻な課題の一つ。もちろん新規就農者など、新たな担い手の確保は重要だが、一足飛びに就農するにはハードルも高い。そうした中で注目が集まるのが「農的関係人口」だ。群馬県では、農泊やグリーン・ツーリズムの推進や移住・定住イベントの開催など、さまざまな形で関係人口の創出とその先にある農村の活性化に向けた取り組みが進められている。それらの取り組み以外に特徴的な取り組みとして挙げられるのが「やま・さと応縁隊」だ。
 同事業は平成24年度からスタート。令和8年度で15年目となる。累計では57件(年度ごとにカウント)に上る。

 同事業は、県内の大学等に通う学生たちが、若い視点や行動力、高い教養や専門性を生かして活動し、地域の魅力の再発見や地域活性化に向けた提案を行うもの。具体的には、地域特産物の認知度向上や消費拡大を目的に、イベントへの出展、地域特産物を活用した商品開発、生産者組織と連携した有機農業の魅力発信など、多様な活動を展開している。

 同事業を担当する農政部農政課有機・循環型農業推進室有機・中山間係の桑原克也氏は同事業について、「若い人たちが来るということが、地域の人たちにとってのモチベーションにつながる側面もある」としながら、特に特徴的な取り組みとして、3点を挙げた。

 一つ目は、みなかみ町で行われた共愛学園前橋国際大学の共愛COCOの取り組みだ。学生が「地域の孫」として、雪かきをしたり、地域行事に参加するなど、地域の人に寄り添った取り組みを実施。「それによって地域の実状を学生たちも理解できたのでは」(桑原氏)と言う。

 二つ目は、高崎健康福祉大学健康福祉学部による下仁田町での食育活動だ。学生が地域特産の下仁田ねぎやこんにゃく、有機農業を題材に動画教材やリーフレットを制作し、小学校でコラボ給食を実施した。食を通じて、子どもたちに地域の魅力や健康的な食生活の大切さを伝える取り組みとなった。

 三つ目は、高崎健康福祉大学農学部が高崎市、安中市で取り組んだ「県育成ウメを活用した商品開発と作業マニュアルの実用化に向けた提案」。群馬県農業技術センターが育成したウメの新品種「ゆみまる」を活用し、梅サイダー、梅かき氷などの加工品を開発。その商品の一部は県庁32階のコーヒースタンド「YAMATOYA COFFEE(ヤマトヤ コーヒー)32」で提供される予定である。「来庁者などに地域の特産品を使った商品を紹介でき、地域のPRにつながる。加えて学生の自尊心の醸成にもつながるのではないか」(桑原氏)としている。

 いずれの取り組みも若者が地域と強く関わりを持ちながら地域の課題解決に取り組むものであり、農的関係人口の創出につながる取り組みとして期待されている。

ウメ加工品の開発の様子(写真提供:群馬県農政部)
ウメ加工品の開発の様子(写真提供:群馬県農政部)

(農村ニュース)

 
 
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